大型スーパーでお馴染みの株式会社イトーヨーカ堂は、全国に普及している強力な実店舗のブランドを有効活用し、地域に根ざした店づくりを推進しています。一方で、近年はEC需要の増加に伴いネットスーパー「イトーヨーカドーネット通販」の拡充も進め、実店舗とECを融合させたビジネスモデルの構築にも取り組んでいます。
この記事では、そんなイトーヨーカ堂のネットスーパー戦略に注目し、食料品や日用品販売におけるデジタル活用のあり方について、解説します。
株式会社イトーヨーカ堂の企業情報
まずは、株式会社イトーヨーカ堂の基本的な企業情報を確認しておきましょう。
株式会社イトーヨーカ堂の企業情報
次の表では、株式会社イトーヨーカ堂の企業情報をまとめています。
社名 | 株式会社イトーヨーカ堂 |
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本社所在地 | 大阪府大阪市西区立売堀2-3-16 |
設立年月 | 1958年 |
代表者名 | 代表取締役社長 山本哲也 |
株式公開 | 非上場 |
資本金 | 400億円 |
おもなグループ会社 (持株会社 株式会社セブン&アイ・ホールディングスのグループ企業) |
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株式会社イトーヨーカ堂の事業内容
株式会社イトーヨーカ堂は、株式会社セブン&アイ・ホールディングス傘下の小売店事業を営む企業で、これまで地域に根ざした店舗作りを推進してきました。地域との深い関係を築くことで、地域に便利と安心、そして新鮮な食材を届けています。
また、近年はネットスーパー運営事業にも着手しており、実店舗での買い物と遜色ない顧客体験の提供と、上質化・差別化を追求するマーチャンダイジングに力を入れています。
小売事業以外では、環境循環型農業を実現する「セブンファーム」の運営も手がけています。イトーヨーカドー店舗から排出される生ゴミを堆肥として再利用し、そこで栽培・収穫された農産物をイトーヨーカドー店舗で販売する仕組みの構築に取り組んでいます。
株式会社イトーヨーカ堂の沿革
続いて、株式会社イトーヨーカ堂のこれまでの歩みを確認します。次の表では、同社の沿革を簡単にまとめています。
年 | 沿革 |
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1920年 | 吉川敏雄氏(伊藤名誉会長の叔父)が台東区浅草に羊華堂を開業 |
1958年 | 株式会社ヨーカ堂を設立 |
1965年 | 社名を「伊藤ヨーカ堂」に変更 |
1970年 | 社名を「イトーヨーカ堂」に変更 |
1985年 | イトーヨーカドー、全店にPOSシステムを導入 |
1996年 | 中国四川省成都市に成都イトーヨーカ堂を設立 |
2005年 | 持株会社 株式会社セブン&アイ・ホールディングス設立 |
2008年 | 農業生産法人「セブンファーム富里」設立 |
2013年 | 平成25年度 製品安全対策優良企業表彰 大企業小売販売事業者部門でイトーヨーカ堂が経済産業大臣賞受賞 |
2020年 | 創業100周年 |
戦前に創業された株式会社イトーヨーカ堂は、創業当初こそわずかな販売スペースであったものの、1980年代よりPOSシステムの導入を推進するなど、全国有数の大型スーパーへと進化していきました。
その後1990年代には中国進出も果たし、2000年代には持株会社である株式会社セブン&アイ・ホールディングスを設立しています。
セブンファームの立ち上げや優良安全企業としての表彰も経験するなど、事業規模拡大と品質向上に努めており、地域に根ざした事業経営の土壌が整っていることがわかります。
株式会社イトーヨーカ堂のネットスーパーの活かし方
新鮮な食品を届ける大型スーパーとしてのブランドを確立した株式会社イトーヨーカ堂は、次なる戦略としてネットスーパーブランドの普及に努めています。同社でどのようなネットスーパー展開を進めているのか確認しておきましょう。
コロナ禍で注目を集めたイトーヨーカドーネット通販
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、2020年以降小売業は大きな変化を余儀なくされました。そこで、株式会社イトーヨーカ堂がまず取り組んだのは、「イトーヨーカドー ネットスーパーアプリ」の開発です。
スタートアップの株式会社10X(テンエックス)と共同で開発したこのアプリでは、レシピ画面から材料を注文できる機能などを実装するなど、スーパー利用者のニーズを的確につかんだ機能を拡充し、好評を博しました。
その成果もあり、株式会社イトーヨーカ堂のネットスーパーは2022年に前期比約1.3%増、約361億9,600万円の売上を達成し、デジタル活用の大きな足がかりを獲得しています。
ネットスーパーの黒字化に向けた戦略
専用アプリの活用で大きな成果を挙げた株式会社イトーヨーカ堂ですが、ネットスーパー事業の黒字化に向けては依然として課題も残ります。
まず懸念点として挙げられるのは、欠品リスクです。ネットスーパーは一般的なECサイトとは異なり、在庫が店舗に依存しているため、欠品がリアルタイムで起こりやすい傾向があります。
また、ネットスーパーはあくまで実店舗の延長線上にあるサービスであるため、既存のスーパー業務と並行してネットスーパーの業務をこなすうえでは、作業スペースのキャパシティと受注率に限界もあります。
このような課題を改善するために同社が構想しているのが、ネットスーパーのセンター化です。ECに特化した拠点をスーパーとは別に設けることで、欠品リスクを下げ、配送や庫内作業を効率的に行える環境の実現に努めるとしています。ネットスーパーならではの商品ラインナップも充実させ、商品の差別化にも取り組んでいます。
株式会社イトーヨーカ堂の最近の取り組み
ここで、株式会社イトーヨーカ堂の注目すべき最近の取り組みについて解説します。
ネットスーパーで注文の商品をコンビニで受け取れるサービスを開始
株式会社イトーヨーカ堂は、ネットスーパーで注文した商品をコンビニエンスストアのセブンイレブン各店舗で受け取れるサービスを2022年8月より東京の一部地域で開始しました。
ネットで購入した商品を店舗で受け取れるサービスは、オムニチャネル化の一環としてアパレルショップなどで増えていますが、食料品の販売を手がけるショップとしては比較的新しい取り組みです。
生鮮食品や日用品を問わず、常温や冷蔵、冷凍の商品1万2,000品目が対象となっており、仕事帰りでスーパーに行く余裕がない顧客の利用が想定されています。現在は実証実験の段階で、提供地域の拡大は今後の動向次第で決定するとのことです。
「ラストワンマイルDXプラットフォーム」を構築。AIで配送効率化へ
株式会社イトーヨーカ堂を含めた株式会社セブン&アイ・ホールディングスでは、同グループ内の宅配事業効率化に向けた「ラストワンマイルDXプラットフォーム」の構築を2021年6月に発表しています。
またその一環として、2023年春に「イトーヨーカドーネットスーパー新横浜センター(仮)」を開設予定です。同センターは近隣約30店舗の配送エリア、同センターから約30km圏内を配送エリアとする大型拠点となります。
ネットスーパーを展開するうえで問題となるのが配送コストですが、今回の取り組みにおいてはAIを活用した宅配事業の効率化が最大の目玉となります。AIを活用して、協力事業者の運転手の割り振りや受取場所、時間を最適化するだけでなく、注文時間などに応じて宅配料金が変動する仕組みの実装も検討しており、柔軟なコスト管理が実現する見込みです。
ランドセル専門の「バーチャル店舗」を公開
2021年3月、株式会社イトーヨーカ堂は新型コロナウイルスの感染拡大に合わせ、ランドセル専門の「バーチャル店舗」を公開しました。店舗に長期滞在したくないという消費者の需要に応えるための施策で、約270種類の新作のランドセルを扱うなど、実店舗では難しい多様なバリエーションの取り扱いを実現しています。
バーチャル店舗はPCからはもちろん、スマートフォンでの閲覧にも最適化されており、各商品を動画や拡張現実(AR)アプリケーションを使ってわかりやすく商品紹介しています。
また、サードパーティのARアプリと連携することで、スマートフォンの画面でランドセルと子どもの写真を合成できる機能も用意し、バーチャル試着ができる点も注目されています。
バーチャル試着はアパレル業界で導入されているシステムですが、日用品販売店での活用ケースとしては先進的といえるでしょう。
株式会社イトーヨーカ堂の気になるトピックス
そのほか、株式会社イトーヨーカ堂の気になるトピックスをまとめて解説します。
2023年2月1日:イトーヨーカ堂、家庭における使用済み食用油の回収・リサイクルに関する実証実験 専用リターナブルボトルを使用
イトーヨーカ堂は、2023年2月1日(水)より、消費者が家庭において調理で使用した食用油の回収に関する実証試験を「イトーヨーカドー ネットスーパー西日暮里店」にて開始した。
2022年10月13日:セブン‐イレブン・ジャパン×イトーヨーカ堂 シナジー最大化に向けた取り組みを強化
セブン‐イレブン・ジャパンとイトーヨーカ堂は、両社の強みを活かした連携強化に取り組んでいくことを発表した。「SEJ・IY・パートナーシップ」を立上げ、商品やサービス、販売促進、店舗オペレーションなどのテーマについてシナジーの最大化を目指す。
2022年9月30日:“ラストワンマイル”に対応する移動販売サービス「イトーヨーカドーとくし丸」2022年10月4日(火)イトーヨーカドー五所川原店で運用開始
10月26日(火)から「ネットスーパー」、11月1日(月)から「店頭」「ECサイト」でイトーヨーカ堂は、移動販売サービス「イトーヨーカドー とくし丸」を2022年10月4日(火)より、青森県五所川原市の「イトーヨーカドー五所川原店」で運用を開始した。
2022年9月26日:セブン&アイ、イトーヨーカ堂の低価格PBをセブンでも販売
セブン&アイ・ホールディングス(HD)は26日、傘下のイトーヨーカ堂の低価格プライベートブランド(PB)「ザ・プライス」をリニューアルし、グループのセブンイレブン店舗などでの取り扱いを始めると発表した。(日本経済新聞 2022年9月26日)
2021年7月2日:ネットスーパー専用配送センターを2023年春、横浜市内に開設
セブン&アイ・ホールディングスは2日、ネットスーパー専用の配送センターを2023年春をめどに横浜市に開設すると発表した。(日本経済新聞 2021年7月2日)
2022年02月09日:イトーヨーカドー/ネットスーパー「非接触お届けサービス」利用率約4割増(2022年)
イトーヨーカ堂は2月9日、イトーヨーカドーネットースーパーで行っている「非接触お届けサービス」の利用件数が前年に比べて約4割増えたと発表した。(流通ニュース 2022年02月09日)
2021年1月25日:食品ロス削減へIoT活用し鮮度を可視化 イトーヨーカ堂など実験
新型コロナ騒動を受け、内食機会の拡大、ネットスーパーの需要が急増する中、イトーヨーカ堂、伊藤忠インタラクティブ、凸版印刷、日本総合研究所、三井化学は20日、RFIDタグやセンシングデバイスなどIoTの活用で、ネットスーパーと家庭内の食品ロス削減を目指す実証実験を開始した。 (食品新聞 2021年1月25日)
2021年1月8日:ヨーカ堂、移動スーパー全国展開 22年度メド100店
セブン&アイ・ホールディングス傘下のイトーヨーカ堂は2022年度をめどに車に商品を積んだ移動スーパーを全国展開する。 (日本経済新聞 2021年1月8日)
まとめ
株式会社イトーヨーカ堂は事業規模こそ巨大ではあるものの、地域に根ざしたスーパーとしてのブランド確立に努めてきた歴史があり、蓄積してきたノウハウも豊富です。
ネットスーパー事業においても地域のニーズに応えることを前提に展開が進められており、コンビニやスーパーといった実店舗のネットワークを活かしたサービスの提供に取り組んでいます。
今後も同社では、デジタル活用やネットスーパーに最適化した拠点の設置を進め、さらに便利なサービスの提供を実現していくことが期待されます。