株式会社ファーストリテイリングは、世界で活躍するアパレルブランド「UNIQLO(ユニクロ)」など、複数のアパレルラインを店舗やECで展開しています。EC分野での存在感はもちろん、全国展開している実店舗を生かしたオムニチャネル戦略を主軸に、確固たる存在感を発揮し続けてきました。
今回は、そんな同社が国内外の市場をどのように両立させているのかについて、同社の事業戦略に注目しながら解説します。
株式会社ファーストリテイリングの企業情報・事業内容
まずは、株式会社ファーストリテイリングの基本情報を確認しましょう。
株式会社ファーストリテイリングの企業情報
株式会社ファーストリテイリングの企業情報は、次のとおりです。
社名 | 株式会社ファーストリテイリング |
---|---|
本社所在地 | 山口県山口市佐山 10717‐1 |
設立年月日 | 1963年5月1日 |
代表者名 | 代表取締役会長兼社長 柳井 正 |
株式公開 | 東証プライム市場上場 |
資本金 | 102億7,395万円 |
おもなグループ会社 |
株式会社ユニクロ |
株式会社ファーストリテイリングの事業内容
株式会社ファーストリテイリングは、次の6つのグループ事業を手がけています。
- ユニクロ事業
- ジーユー事業
- セオリー事業
- コントワー・デ・コトニエ事業
- プリンセスタム・タム事業
- プラステ事業
ユニクロ事業では、「LifeWear」をコンセプトに掲げる「UNIQLO(ユニクロ)」ブランドを通じて、日本人はもちろん、世界中の人々に日常着を提供しています。
ジーユー事業は、「GU(ジーユー)」ブランドの衣料品や雑貨などの企画・生産・販売を行う事業です。ユニクロよりも流行を積極的に取り入れており、リーズナブルな価格の実現を目指すファッションブランドとしてユニクロとの差別化を進めています。
セオリー事業は、「Theory(セオリー)」「HELMUT LANG(ヘルムート ラング)」などのブランドの企画・生産・販売を行う事業です。スタイリッシュなスタイルや高級素材が特徴で、セオリー事業全体では世界に434店舗(2022年5月31日現在)展開しています。
コントワー・デ・コトニエ事業では、1995年にフランスで生まれたラグジュアリーブランド「COMPTOIR DES COTONNIERS(コントワー・デ・コトニエ)」の婦人服・子供服などの企画・生産・販売を行っています。パリ発の洗練されたデザインが特徴で、世界に116店舗(2022年5月31日現在)展開しています。
プリンセスタム・タム事業は、フランス生まれのランジェリーブランドである「PRINCESSE tam・tam(プリンセス タム・タム)」の企画・生産・販売を行う事業です。快適さと女性らしさ、鮮やかな色彩と独創的なプリントが特徴で、世界に85店舗(2022年5月31日現在)展開しています。
「PLST(プラステ)」は、大人の日常を彩る高品質なライフスタイルウェアを手がけるブランドです。プラステ事業では「最上質な日常着」をコンセプトに、ブランドの婦人服、紳士服などの企画・生産・販売を行っています。生活のあらゆるシーンで活躍する安心感と値頃感が特徴で、91店舗(2022年5月31日現在)展開しています。
株式会社ファーストリテイリングの沿革
1963年に創業した株式会社ファーストリテイリングのおもな沿革は、以下のとおりです。
年月 | 沿革 |
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1949年3月 | 山口県宇部市にメンズショップ小郡商事を創業 |
1984年6月 | ユニクロ第1号店(ユニクロ袋町店)を広島市に出店 |
1991年9月 | 商号を小郡商事からファーストリテイリングに変更 |
2000年10月 | ネット通販を開始 |
2001年9月 | イギリス・ロンドンにユニクロ海外1号店を出店 |
2005年9月 | 韓国初のユニクロ店舗をソウルに出店 |
2010年10月 | ジーユー初の旗艦店、心斎橋店を出店 |
2016年4月 | 有明に次世代物流センターを竣工 |
2019年12月 | ベトナム初のユニクロ店舗をホーチミンに出店 |
2022年5月 | ユニクロがイタリアのラグジュアリーブランド「MARNI(マルニ)」との初めてのコラボレーションコレクションを発売 |
1984年にユニクロ1号店を広島にオープンしたのち、瞬く間に日本全国へその店舗数を増やし、2001年には海外進出も果たしています。イギリスや韓国、ベトナムと、特定の地域に偏らない幅広い海外出店を着実に行い、早期からグローバル企業としての成長を見据えていたことがわかります。
またネットショップも、まだインターネット回線の普及もままならない2000年頃から取り組むなど、ECに関するノウハウの蓄積も業界トップクラスといえるでしょう。
株式会社ファーストリテイリングの強みや特徴
株式会社ファーストリテイリングの強みには、ワンストップの生産・販売プロセスを有していることや、国内外で新規性の高い取り組みを継続してきたことが挙げられます。その内容を詳しく確認しましょう。
ビジネスモデル
ユニクロのビジネスモデルは、企画・計画・生産・物流・販売までのプロセスを一貫して行うというものです。合繊メーカーとの協業で開発した画期的な素材の活用や、高品質な天然素材を使ったベーシックな製品の展開などは、生産レベルから自社で管理しているからこそ実現できる取り組みといえるでしょう。
生産工場は中国や東南アジアなど国外に設置されているものの、日本国内の品質管理チームが現地工場の視察やマネジメント、技術指導に取り組むことで、大規模生産であっても高い品質水準を実現しています。
販売においては店舗の世界展開のみならず、ECにも注力しています。2021年8月期の売上収益に占めるECの売上比率は、全体で約18%、北米では40%を記録しました。
店舗を活用した積極的なEC戦略によって、今後も精力的なオンライン販売を続けていくとしています。
事業の強み
株式会社ファーストリテイリングの事業の強みは、日本国内と海外で異なります。
日本国内において成功を大きく後押ししたのが、SPA(製造小売業)の導入です。生産と小売を直結し、マージンを排除することにより、国内においては低価格で高品質な商品の提供を早くから実現させました。
また、ユニクロの「接客をしないファッションブランド」というイメージが人々の好感を招き、各店舗がにぎわいを見せるきっかけにもなりました。
海外におけるユニクロの成功は、次の4つの要因が功を奏したといわれています。
- 国内チームを最大限に活用
- 成功要素の世界展開
- 強い現地チームの構成る
- ブランド力の強化
同社が事業を展開するにあたっては、「国内」「海外」という区切りを捨て、グローバルで活躍しているひとつの事業として業務を捉え、国内の優秀人材を積極的に海外事業へ起用しました。
また、低価格高品質、接客をしないという国内の成功モデルを海外にそのまま輸出してブランドイメージを体感できる仕組みを採用したことで、世界市場での成功も収めています。
日本から海外へ直接手を下すケースもありますが、基本的には現地への理解があるチームを地域ごとに配置し、海外子会社の経営力を強化することで、国ごとの最適化を進め、地元になじむよう促している点もポイントです。
ユニクロブランドをグローバルに強化すべく、世界の主要都市へ積極的に展開している点も注目すべきでしょう。ニューヨークやパリ、明洞をはじめ、文化的な人々が多く行き交う場所に出店することで、強力なブランド認知を獲得しています。
近年の大きな取り組み
株式会社ファーストリテイリングの近年の大きな動きとしては、次の取り組みが挙げられます。
店舗とオンラインを一体化するサービスの拡充
ユニクロがEC事業を展開するうえで特に注力している取り組みが、全国に展開している実店舗とオンラインを一体化するオムニチャネル施策です。
2022年9月には「店舗とオンラインを一体化する」サービスの拡充を発表し、店舗での商品お取り寄せサービスや、店舗からの情報発信によるパーソナルサービスの充実など、利便性向上のための取り組みを進めています。
「店舗かオンラインか」ではなく、どちらもサービスとして等しく使ってもらえる仕組みづくりを行っているといえるでしょう。
好調なコラボマーケティング
ユニクロは自社オリジナルの製品だけでなく、他社ブランドとのコラボレーションにも積極的に取り組んでいます。
たとえば、ファッションブランド「Jil Sander(ジルサンダー)」とのコラボで誕生した新ラインである「+J(プラスジェイ)」は、発売当初、公式サイトのサーバーがダウンするほどの反響を得ました。
また、同じくファッションブランドの「JW ANDERSON (JW アンダーソン)」とのコラボにより、2017年にスタートした「UNIQLO and JW ANDERSON(ユニクロアンドジェイダブリュー アンダーソン)」は、ユニクロへの集客を促しただけでなく、JW ANDERSONの商業的な成功にも大きく貢献しました。
「ユニクロとコラボすることにでブランドの成長につながる」ということが、ファッション業界のなかでも認知されつつあるといえるでしょう。
パート・アルバイトの時給1~3割引き上げ
近年の円安や原材料高騰の影響に伴い、各社で値上げが続いていますが、株式会社ファーストリテイリングも例外ではありません。同社では、商品価格の引き上げに合わせた現場従業員への還元に積極的に取り組んでいます。
具体的には、2022年3月以降にユニクロやジーユーのパートやアルバイトの時給を3%程度引き上げています。また、2022年秋以降も約1~3割時給を引き上げる方針を発表するなど、成長意欲の高い人材獲得に向けて、企業としての土台を固めています。
目を通しておきたい株式会社ファーストリテイリングのトピックス
その他、株式会社ファーストリテイリングの動向について、目を通しておきたいトピックスをまとめました。
2023年2月14日:ファーストリテイリング、企業の多様性推進の取り組みを評価する「D&Iアワード」で最高評価を獲得
ファーストリテイリングは、企業のダイバーシティ&インクルージョン(以下:D&I)推進の取り組みを評価する「D&Iアワード2022」において、ダイバーシティスコア96点(100点満点)を獲得し、最高評価の「ベストワークプレイス」に認定されされた。
2022年11月22日:大学生が国連大使になりきり、議論する模擬国連世界大会 世界11カ国331人の参加学生に、オリジナルTシャツを製作・寄贈
ユニクロは、2022年11月20日(日)から26日(土)まで、神戸市で開催される模擬国連世界大会(神戸市外国語大学主催)に参加する11ヵ国331人の大学生たちに、同社の「PEACE FOR ALL」プロジェクトの一環として、今回の世界大会のためにデザインしたオリジナルTシャツを寄贈する。
2022年10月31日:主要アパレルがコロナ禍3年目でようやく発注額2桁増加/2022年3~8月決算まとめ
フルカイテンは、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が日本で始まってから3年目の上半期である2022年3~8月期における大手上場アパレル企業16社の決算を調べ、各社の在庫効率(在庫を効率よく利益に換える力)がコロナ前と比較してどう変化しているかを考察するレポートを作成した。
2022年9月21日:米国初出店となる「ジーユー ソーホー ニューヨーク店」を10月7日にオープン
ジーユーは2022年10月7日(金)、米国初の店舗として、ポップアップストアの「ジーユー ソーホー ニューヨーク店」をオープンする。
2022年09月10日:ユニクロ、全店でEC商品取り寄せ可能に 期間限定でバーチャル店も開設
ユニクロは9月1日、シンプルで上質な普段着の「LifeWear」に焦点を当てたグローバルイベント「ユニクロLifeWear Day」の発表会を都内で開催。あわせて、実店舗とオンラインのシームレスなサービスの拡充として、全店でEC商品の無料取り寄せを行うことなども発表した。
2022年7月14日:ファーストリテ、9-5月期純利益は57%増で過去最高通期予想を上方修正
ファーストリテイリングは14日、2022年8月期連結の純利益予想(国際会計基準)を前期比47.2%増の2500億円に上方修正した。
2022年3月4日:初の医療施設内店舗「ユニクロ 済生会中央病院店」を3月16日にオープン 幅広いニーズにお応えする商品の開発やサービスの充実に貢献する店舗へ
ユニクロは3月16日(水)、東京都済生会中央病院(東京都港区)1階に「ユニクロ 済生会中央病院店」をオープンする。
2022年3月4日:UNHCRに1,000万米ドルと毛布・ヒートテックなど衣料20万点を提供 ウクライナおよび近隣諸国で避難生活を送る人々への人道援助活動を支援
ファーストリテイリングは、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)からの要請を受け、ウクライナおよび周辺地域で緊急人道支援に当たるUNHCRに対し、1,000万米ドル(約11億5千万円)の寄付を決定した。
2021年9月17日:ファーストリテイリング、温室効果ガス削減目標でSBT認定を取得
ファーストリテイリングは、2030年度までの温室効果ガス排出量の削減目標を策定し、これらの目標が国際機関SBTイニシアティブによる「SBT(Science-Based Targets)」認定を取得したことを発表した。
2021年8月4日:ファーストリテイリング、インドのトップ大学と提携 - 学生を支援するスポンサーシップを創設
ファーストリテイリングは、未来のグローバルリーダーとなる前途有望な学生を支援するため、インド有数の大学、インドラプラズサ情報工科大学デリー校 (IIITD)と提携した。
まとめ
一般的に、安価な商品を大量に展開する場合、薄利多売の傾向が強くなるため、その規模を継続的に維持するにはスタッフや店舗に大きな負担をかけることとなります。
株式会社ファーストリテイリングでは、早期からSPAの仕組みを導入し、生産から販売までを一貫して自社で対応することで、現場の負荷を最小限に抑えながら高いコストパフォーマンスと品質の追求に取り組むことができています。
人材不足の獲得が困難になりつつあるなか、業界に先んじて値上げとともに賃金の改訂にも積極的に取り組んでおり、成長意欲のある人物への投資やサポートを惜しむことはありません。
EC事業においては、国内では実店舗の圧倒的な出店数を生かしたオムニチャネル施策を強化し、海外では流通や配送サービスを強化することで、EC比率の向上に努めています。
特定のやり方に縛られることなく、市場や時代に合わせて柔軟にアプローチを選択し、実行できる強さが、同社の最大の武器といえるでしょう。