サイト内の一等地の取り合いをgoo Search Solutionで改善
1975年に創業、セレクトショップの先駆けとしてスタートしたシップス。現在は全国に約80の店舗を構え、「SHIPS」「SHIPS any」というふたつのレーベルを軸に、メンズ、ウィメンズ、キッズと幅広い世代へ多彩な商品提供を行っている。
同社は、2018年11月にコーポレートサイト、ECサイト、オウンドメディアを統合したSHIPS 公式サイトをオープンし、SEO効果の最大化や情報伝達の一本化を実現した。しかし、実際に運用を行うにつれ「膨大な量のコンテンツを適切に届けることができない」という課題にぶつかったと萩原さんは語る。
萩原(シップス) EC売上を強化する上で、サイト統合は最善の選択でした。しかし、シップスには商品情報だけでなく店舗のイベント情報、スタイリングや動画コンテンツなど、お客様に伝えたい情報があふれるほどに存在します。スマートフォンユーザーが多くを占め、画面内に表示できる情報に限りがある中で、いわば「一等地」の取り合いが起きてしまっていました。
各担当者の目線のみならず、顧客目線で考えても「SHIPS 公式サイトに何を求めているか」によって、必要な情報は異なる。優先順位をつけることは容易ではなく、萩原さんは全方位から情報を伝えるにはどうすべきか考えた結果、顧客それぞれに合った「発見とつながりの創出」という考えに行き着いたと言う。
萩原 当社に限らずアパレル各社が取り組んでいることですが、売上を伸ばすにはLTV向上やロイヤルカスタマーの育成が非常に重要です。当社もお客様と距離を縮めるために積極的なコンテンツ発信を行っていますが、それらを見つけやすい状態にしてきちんとお客様に届けることがさらなるファン化につながると考えました。その実現方法を考えた結果、今回新たに実装した検索機能とお気に入り機能に行き着いたのです。
2021年9月のリニューアル時に、SHIPS 公式サイトはサイト内検索エンジンをgoo Search Solutionへ変更している。新たな検索結果ページでは、適切な商品一覧を表示するだけでなく、タブを用いて「スタイリング」「スタッフ」「店舗」「特集」「動画」「ニュース」「アイテムトピックス」といった幅広い情報を一挙に提示。お気に入り機能は気になる商品を保存するだけでなく、SNSの「いいね」やフォローのようにコンテンツやスタッフ、店舗に対しても押すことができ、関連情報が更新された際にはタイムリーにお知らせが届くようになっている。
萩原 今回実装した検索機能は、Googleを理想形としていました。旧SHIPS 公式サイトを含む多くのECサイトは、「シャツ」と検索した際にシャツの商品一覧のみが表示され、シャツを着たスタッフのスタイリングや特集ページを見つけることができません。一方、Googleで同じキーワードを検索すると、タブなどを駆使して多彩な情報が提示されています。「ECサイトにも多くの情報が存在するはずなのに、なぜ商品しか検索できないのだろう」と疑問に感じ、既存のECサイト内検索・商品検索サービスよりも多くの情報を処理し、最適な検索結果を提示できるサービスを探し始めました。その結果、goo Search Solutionに行き着いたのです。
サイト内検索は導入して終わりではない 安定運用の秘訣とは
萩原さんは、NTTレゾナントに相談した当初の様子をこう振り返る。
萩原 「何でも検索できるように」という当社の思想に興味を持っていただけたことが、強く印象に残っています。アパレルでこうした検索を実現した前例は現状ほぼ存在しないと当社は自負していますが、他業種でプロダクトとコンテンツの検索結果を同時に表示している実績を紹介いただき、実装イメージが容易にできた点も選定の決め手となりました。加えて、検討段階からエンジニアの方が打ち合わせに参加して、実現性や開発の進めかたを話してくれた点も心強かったです。
北岡(NTTレゾナント) シップス様はサイト運営にしっかりとした思想をお持ちで、やりたいことが非常に具現化されていました。それらを反映するにはデフォルトの検索機能を導入したり、要望にただ応えたりするだけでなく、技術面や運用面からもサポートする必要があると考えました。
サイト内検索は導入して終わりではなく、その後どう運用するかが成功を大きく左右します。シップス様に余計な負荷をかけることなく、安定した運用ができるかどうかは最初のすり合わせが肝心です。物理的な実装可否だけでなく、運用面での現実性を判断するためにも、当社では打ち合わせの初期段階から積極的にエンジニアを加えるようにしています。
導入決定後は、ECベンダーも加えた3社で週に1回程度の打ち合わせを実施。「やりたいことが明確でありながらも、実現方法がわからなかった」と語る萩原さんは、北岡さんをはじめとするgoo Search Solutionチームのサポート体制について、このように続ける。
萩原 こうした大規模な改修にはデータ連携も欠かせませんが、ECベンダーとの調整もリードしてくださり、エンジニアの方々の優秀さを感じました。私自身、デジタルに携わりながらも、システムにものすごく明るいというわけではありません。やりたいけれど技術的には現状難しい点に対して、ただ「できません」と伝えるのではなく、「こうすればできます」と代替案を提示してくれたり、場合によっては「こうしたほうがより効果を上げることができます」と想像以上の良案を提案してくれたりする。そんな柔軟性や堅実さに感心しました。
とくに印象的だったのは、ハッシュタグ機能を実装検討する際のやり取りです。SNSの普及にともない、「タグる」という行為が一般化しているため、SHIPS 公式サイトの検索においても実装したいと考えたのですが、その際に検索対象をハッシュタグのみにするのか、各コンテンツのタイトルや本文などのキーワードも含めるのか、どこまでを検索対象とするかで議論になりました。こうした議論はあらゆる可能性があるため、正解はないものと言えますが、サイトの特性や当社のお客様を踏まえてしっかりとした意見をくださり、コミュニケーションを取りながら進めることができたと感じています。
北岡 シップス様にももちろん予算があるため、いかに金額を抑えながらもやりたいことを最大限実現するかが鍵だと思っていました。今回は「検索結果をタブ表示する」という前提で開発が進んでいたため、最初にご要望としていただいていたオプション機能を見直して必要のないものは削り、オリジナル機能の開発にあてるといった調整も行っています。もっとも大事にすべきは「SHIPS 公式サイトのお客様にフィットするか否か」と考え、意見をお伝えするように心がけていました。
2021年9月にSHIPS 公式サイトのリニューアル自体は完了したが、goo Search Solutionを活用した検索の磨き込みはまだ始まったばかりと言える。収集したデータの活用やさらなる利便性を顧客へ提供すべく、萩原さんはこう意気込む。
萩原 データなしに実現するのは難しいという理由から、リニューアル時にあえて実装を見送った機能も存在します。これらは2次、3次フェーズという形で対応していこうと話しているため、お客様の動きを見ながらアップデートができればと思います。
北岡 シップス様とは、常に新しいことに取り組んで一歩前に進もうという共通認識を持ち、攻めの改修ができていると感じています。検索の磨き込みは、王道と言える取り組みを行うだけでなく、シップス様のやりたいことと、目の前にいるお客様の動きを見てフィットする形を見つけながら進めるものです。ご要望に対して、当社は今後もデータという裏づけを持って意見をお伝えしていきます。
リニューアル後のスタイリングページPVが約2倍に 顧客の行動ログは貴重な財産
シップスでサイト内検索エンジンの運用に携わるのは、萩原さんを加えてもわずか3名。全員が運用を主務とするわけではなく、手動でチューニングを行うのは現実的ではない。実際にgoo Search Solution導入以前も「0件ヒットをなくす対応を行うだけで手一杯であった」と萩原さんは振り返るが、扱う情報量が増えた現在はどう対処しているのだろうか。
萩原 goo Search SolutionはAIがユーザーの行動ログから自己学習し、毎日自動で検索結果の最適化を行ってくれます。gooの表記ゆれ辞書だけでなく、シップスオリジナルの表記ゆれ辞書を作成できる点は、選定時にもたいへん魅力的と感じました。お客様に最適な検索結果を提示したいと考えながらも、手動ではトレンドや季節要因を踏まえたり、お客様の行動ログに基づいたおすすめを提示したりといったことは困難です。goo Search SolutionのAIは、こうした理想をかなえてくれる心強い存在と言えます。
北岡 シップス様がgoo Search Solutionの利用を開始してから取材時点で約3ヵ月が経過していますが、すでに数百万件の登録がある当社の既存辞書に加えて、新たにシップス様のログからAIが生成した独自の辞書登録件数は1,300を超えています。手動で同じ数の辞書登録を行おうとしても難しいのはもちろんですが、AIだからこそ人間では思いつかない表記ゆれを生成することができている状況です。たとえば、「ロングティー」と「ロンT」、「バルテッドコート」と「ベルテッドコート」といった解りやすいものから、「再度アジャスター」と「サイドアジャスター」、「マスクうトラップ」と「マスクストラップ」、「の.4」と「no.4」など、さまざまな誤字脱字や表記ゆれが辞書生成されています。こうした細かな点までカバーできるのは、AIだからこそと言っても過言ではありません。
ECサイトの検索キーワードボリュームは、ロングテール構成になっており、検索の8割はテールワードです。つまり「いかにテールワードをカバーできるか」が適切な情報提示や売上向上の鍵を握りますが、人間が目視で見つけ、チューニングできるテールワードは上位0.1%以下と言われています。手動では取りこぼしてしまうようなキーワードもgoo Search SolutionのAIを使えば、網羅することが可能です。
コロナ禍を契機に、スタイリング投稿や動画配信を行うアパレルブランドが増え、各社の担当者と意見交換する中でも「見せかたに悩む声を耳にする」と言う萩原さん。コンテンツの検索をも可能にしたSHIPS 公式サイトのリニューアルは、業界内からも反響が寄せられているそうだ。
萩原 現場担当者の目線から「新しいね」というお声をいただけるのは、非常にうれしく思っています。肝心なお客様の動きについても、goo Search Solution導入後は前年の同時期と比べても検索後のPVが1.5倍、スタイリング関連ページのPVは約2倍に跳ね上がり、異常値かと思って問い合わせたほどでした。もちろんきちんと数値の測定はできていたのですが、これだけ良い結果につながったのは当初の狙いどおり、お客様にきちんと発見の機会を提供できているからこそと考えています。
北岡 私が他社の方々とお話をする中でも、「SHIPS 公式サイトの検索はすごいね」とお声をいただく機会が着実に増えています。アパレル各社が気にされているサイトの磨き込みに参加できていることを肌で感じました。
今回のリニューアルは、「膨大な情報をいかに見せるかに苦労した」と続ける萩原さん。従来のSHIPS 公式サイトでも、CVRはスタイリング閲覧の有無で約3倍、特集コンテンツ閲覧の有無で約2倍の差があったが、閲覧数から割り出すとコンテンツの閲覧が主ではなく、商品を探しに来ている人が7割以上となっていた。コンテンツを有効活用したいものの、それがノイズとなってしまっては本末転倒である。良い塩梅を探る上で意識したのは、「店頭のレイアウト」だったと語る。
萩原 店頭でもまず、キャンペーンやイベントのPOPなどは外からでも見える場所に配置しますよね。そして、いちばん見せたいものを店内前方へレイアウトし、そのほかコーナーごとにバリエーションを表現しています。その多様性をオンライン上でどう実現することができるか、Googleのようなスマートな見せかたを実現するとともに、タブごとの検索結果のレイアウトにも工夫を施しました。
また今回のリニューアルを機に、スマートフォンサイトのヘッダーに検索ボックスを、さらにはフッターにも検索動線を設置しています。これもコンセプトを体現したもので、潜在層・顕在層を問わずSHIPS 公式サイトに来たお客様にまず検索から行動を始めてもらいたいと考えています。欲しいものが明確なお客様には、お目当ての商品がすぐに見つかるような検索結果を提示する。まだ欲しい商品が明確でないお客様には、スタイリングやコーディネートで選択肢を示し、好みに合うものを見つけていただく。情報との出会いや接点を増やすことで、悩まれている方の後押しや潜在層への購買喚起につながると実感しています。
北岡 サイト内の行動ログは、各社が持つお宝と言えます。同じアパレルでも年代や嗜好性によってお客様の特性は異なるため、100%満足のいく検索結果を表示するには、一律の表記ゆれ辞書反映だけでなくAIを使い、ブランドオリジナルの検索を作り上げることが必須です。運用の自動化もgoo Search Solution活用のポイントであることはもちろんながら、日々サイトを成長させることができる点にも魅力を感じていただけたらと思います。
情報を検索で連携させ、ユニファイドコマースを実現
今後のアパレルは、選ばれるブランドになるための努力に加えて「体験と共感」が鍵になると説明する萩原さん。インターネットを活用し容易に情報を得ることができる時代においては、あふれる情報の中から見つけてもらえるよう、自ら働きかけることも欠かせない。
萩原 まだ現状は連携できていないSNSやブログに掲載した情報も、今後SHIPS 公式サイト内の検索で提示できるようにしたいと考えています。サイト内の情報をすべて連携し、Googleのようにコンテンツとの出会いや新たな発見を生み出すだけでなく、お気に入り機能を活用して1to1での情報提供も拡張する。そしてMAにもその情報を活かし、メール、LINE、アプリなどチャネルを越えてお客様と交流ができるようになれば、それがユニファイドコマースにもつながっていくはずです。店舗とECどちらも大切である以上、チャネルの境界をなくす取り組みについてもロードマップをしっかりと描き、取り組んでいきたいと思います。
北岡 次々と新たなアイディアを形にしようとするシップス様とお仕事でき、楽しさを感じる反面、私たちもしっかりと技術力でご要望に応えていかなくてはと身が引き締まる思いです。当社は内部で検索専門のエンジニアを抱えているため、規定のパーツやオプションから機能を選んで実装するだけでなく、各社のご要望やお客様の特性に合った機能開発にも対応することができます。ただサービスを提供したり、言われたとおりの機能を実装したりするのではなく、実装した先に想定される課題やそれらを乗り越える方法についても多数の知見を踏まえてご提供しておりますので、お困りの際はぜひ一度ご相談いただければと思います。
AI活用についてはまだ発展途上と考え、ためらう方もいらっしゃるかもしれません。もちろん、人間と比べればまだ至らない点があるのも事実ですが、技術活用には「正解率100%ではなくとも、全体を最適化する」といった考えかたも大切です。自動化できる点は自動化して業務効率化ができれば、至らない点に人間の手を介在させる、もしくは技術を使って精度を高めることもできますし、そのほうが結果的にサイトそのものを良くすることにもつながります。シップス様のように規模が大きなECサイトほど、こうした歩みが着実に売上を作る一手として効いてくることは確実です。今後もシップス様が人間にしかできない取り組みに時間を費やせるよう、サポートを続けてまいります。