ビックイベントがハイブリッドに Dreamforce
セールスフォース・ドットコムの年次イベント「Dreamforce 2021」は、現地時間2021年9月21日から3日間、アメリカ・サンフランシスコをはじめとする世界各地とオンラインのハイブリッドで開催されました。Dreamforceは、テクノロジー業界で単一企業が開く最大級のイベントであり、コロナ禍直前に開催された2019年の同イベントの登録者数は17万人を超えるほどでした。
2020年は完全バーチャル開催でしたが、今回はコロナ禍以前と同様の会場Moscone Centerで新型コロナウイルスワクチンの接種やPCR検査などの条件を満たした約1,000人を招き、「Trusted Enterprise(信頼される企業へ)」というテーマで実施。感染症、気候変動、人種差別など地球全体が抱える問題が大きくなり、不確実で先の見えない時代に自社のスタンスを示すメッセージと解釈しました。同社は創業時から慈善活動を推進・実践しており、「企業は変革のプラットフォームになる」と主張してきたため、今回のメッセージにも納得です。
初日の基調講演の冒頭では、歓声とともに登場した司会者が「私たちはここにいる!」を連呼。アメリカは日本よりも厳しい規制が課せられていたこともあり、外に出て集うことができる喜びもひとしおという興奮ぶりでした。少し大袈裟なところも、Dreamforceならではと言えます。
さて、目玉はやはりコロナ禍真っ只中に277億ドルで買収したSlack Technologiesの話題です。同社はビジネスチャットの大手で、Zoom同様コロナ禍で利用者数が増えたサービスのひとつでしたが、Microsoftもライバルとして追い上げを見せる中、セールスフォース・ドットコムと一緒になることが賢明と判断したのでしょう。すでに「Sales Cloud」「Tableau」などとの統合が始まっていますが、会期中にSlackの共同創業者兼CEOのStewart Butterfield氏が初めてDreamforceのステージを踏み、「Commerce Cloud」「Experience Cloud」など16種類との統合を発表しました。両社が手を組み目指すのは、「デジタルHQ(Headquarters:本社)」の構築です。Slackを中心に、アプリケーションを切り替えることなく会話の中でSalesforceの多種多様なツールを使う業務スタイルを提案しています。
同イベントでは、このほかにも新型コロナウイルスワクチン接種管理などの機能を備える「Health Cloud」、環境負荷を測定する「Sustainability Cloud」の最新版が発表されました。
セールスフォース・ドットコムと言えば、共同創業者兼CEOのMarc Benioff氏ですが、COOを務めるBret Taylor氏の存在感が日に日に増しています。元々はFacebookのCTOとしてモバイルアプリを軌道に乗せた人物であり、その後起業したQuipをセールスフォース・ドットコムが買収したことで同社に参画。今回のイベントの主要な発表は、同氏が行っていました。
個人的に驚いたのが「Salesforce+」の発表でした。ウォルト・ディズニー・カンパニーのストリーミングサービス「Disney+」のように、セールスフォース・ドットコムが動画コンテンツをストリーミング配信するプラットフォームを構築したのです。最高マーケティング責任者のSarah Franklin氏によると、Netflixなどからシナリオライターや映像プロデューサーを50人体制で起用し、「エピソード」として動画コンテンツ制作を行っているとのこと。コロナ禍でBtoBのマーケティングの将来形を模索した結果のようですが、シリコンバレーの企業は動きが速いと改めて実感しました。今後はローカルコンテンツも作っていくとのことでしたので、日本語のエピソードも期待できそうです。