このままでは「2025年の崖」は越えられない 企業のDXがうまくいかない理由とは
長年にわたり、日本のインターネットインフラを担ってきたGMOインターネットグループ。GMOメイクショップは、同グループの一員としてECプラットフォーム事業、マーケティング支援事業、EC運用受託事業などのEC支援事業を展開し、ネットショップ構築ASP「MakeShop byGMO」は年間総流通額で8年連続業界1位(同社調べ、2020年3月時点)を誇る。さらに2019年には、ハイレイヤー向けコマースシステム「Axコマース byGMO」をローンチし、多くの顧客のDXにおける課題解決に向け提案を行ってきた。
長谷川氏はAxコマースの立ち上げに携わり、これまでさまざまな顧客と向き合ってきた経験から「事前に自社のDXのゴールはどこなのか、しっかりと考えることが重要」と語る。多くの場合、既存戦略から成長の崖を突破する方法としてDXを位置づけ、数年後の売上額を目標と設定しがちだ。しかし、長谷川氏は「長期的に目標を正しく理解するために、とらえかたを変える必要がある」と指摘。その上でこのように述べた。
「DXは『2025年の崖』を超えることを目標とした上で、その先の成功につなげることを最終的なゴールとすべきです」(長谷川氏)
「2025年の崖」とは、経済産業省が発表した「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~」に未来予測として記されているもので、2025年にはIT人材の不足やシステムの老朽化、デジタル市場の成長などにより、現在運用しているシステムのほとんどがレガシーとなり、新たなビジネスモデルへの対応が遅れるというものだ。その結果、デジタル時代の戦略が実行できずに競争力が低下し、損失額は年間最大12兆円にも上ると言われている。こうしたシステムの限界をビジネスの成長の限界にしないために、DXが不可欠というわけだ。
もちろん多くの企業が急ピッチでDXに取り組んでいるはずだが、必ずしも成功しているわけではない。明暗を分ける原因はいったい何なのだろうか。
企業の多くは、売上を順調に伸ばした後に成長が鈍化すると、何らかの策を講じなくてはならない局面に陥る。そこで経営者からDX推進の要請がなされ、現場はさまざまな施策を講じて組織とシステムの課題を解決する。こうすることで、コスト削減や利益率向上などの成果は得られるかもしれないが、「それは本来のDXの成功とは言えない」と長谷川氏は言う。
「こうしたその場しのぎの対策は、瞬間的に売上を伸ばすことには寄与しますが、成長カーブは変わらず鈍化し続けてしまいます。結果、2025年には競争力を失って失速することが予想されます」(長谷川氏)
長期的なビジョンを描かないことには、時代の変化に対応できず、消費志向の変容に対応することは難しい。「DXが手段でなく目的になっていては、2025年の崖を超えることはできない。その先を思い描くことが大事」と長谷川氏は強調する。あくまでDXは未来の競争力を育てる手段であり、決して即効性のある薬ではない。競争力を保って勝ち続けるためには、2025年の先を見据えた「新たな価値を提供し続けられる仕組みを作ること」は欠かせない。
市場・システム・組織を総合的にアップデート DXの本質的な目的を考える
では、DXを成功させるにはどうしたら良いのだろうか。経済産業省「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~」によると、DXは「顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義づけられている。つまり、消費者だけでなく事業者にも有益な仕組みにすることが競争力につながると言える。
顧客や社会のニーズが変化する背景には、「モノからコトへ」という言葉に象徴される消費マインドの変化がある。既存システムの問題としては、「老朽化対策と新たなデータ活用基盤の構築」を行うことが不可欠だ。アナログ運用やシステムのフローの複雑化などから、コスト構造や問題の把握が困難な状況に陥る組織の課題に対しては、問題を共有できる環境構築、プロセスの可視化が求められる。つまり、DXを成立させるには、「市場」「システム」「組織」のどの要素も欠かせないということだ。
「DXを、単なる販売手段と考えるとつまずいてしまいます。消費者のマインドに合わせて自らをアップデートし続けること、常に最良の顧客体験を提供できる仕組みを作ることがDXの本来の目的であるととらえる必要があります」(長谷川氏)
次に長谷川氏は、DXでどのような顧客体験を提供すべきか、実店舗を2店舗保有し、D2CでEC販売も行うシューズメーカーをモデルケースとして解説を行った。同メーカーは、次のような施策を主に実施している。
- 実店舗で購入時にLINEの友だち登録を促し、登録した顧客には来店のきっかけ作りとして新商品の案内を送付
- ECサイトと実店舗の会員情報を連携し、サイズ確認を購入履歴から行えるようにする(=OMO施策)
- ECサイトの行動履歴を蓄積し、実店舗と共有。店舗スタッフからの能動的なレコメンドを実施(CRM、1to1)
- 顧客の意向に合わせて店舗間で情報を連携し、どの店舗でも試着を行えるようにしたり、来店予約・対応の引き継ぎを行う(店舗スタッフの稼働と混雑のコントロール)
- 顧客が試着を希望する商品の在庫を確保する(在庫・発注コントロール)
同メーカーはオムニチャネルにも対応し、来店時に顧客が購入を希望した他商品の店頭在庫がない場合も、実店舗で決済、EC在庫から発送することで販売機会の損失を防いでいる。また、実際に顧客が店舗Bで試着予約商品を購入した場合は、販売を行った店舗Bのみならず、接客を行った店舗Aやそこで働くスタッフにもインセンティブが発生する設計を行い、適切な評価体制を構築。顧客に対してはスムーズな顧客体験を提供することで、「良い買い物ができた」というプラスの気持ちを創出し、後日のEC来店や店舗・スタッフのファン化を促進している。
こうしたなめらかな顧客体験提供のポイントは、オンとオフの境界を設けず、すべてを調和させる点にあると言える。
「顧客に気持ち良く買ってもらう仕組みだけでなく、店舗スタッフに的確なインセンティブを与えモチベーションを高める仕組みや新たに増える業務をなめらかに行える仕組みも作り上げる必要があります。それを支援するのがDXです。本当にここまでやらなくてはいけないのかと感じる方もいるかもしれませんが、とくに2025年以降はここまで取り組んでいる事業者と戦うことになります。自社の成長目標と市場の予測を見ながら、迅速に対応していくことが必要です」(長谷川氏)
DX推進で超えなくてはならない4つの壁 必要なシステムは?
なめらかな顧客体験を創出するにあたり、現在の企業には「4つの壁がある」と長谷川氏は説明する。まずひとつめは、人を巻き込むのが難しいという「心理的障壁」だ。この解決策としては、「全社一丸となる認識・文化をトップダウンで作ることが重要」だと言う。ふたつめに挙げられたのは、関係部署が多く責任が分散してしまう「組織的な課題」。これは、役割分担を明確にした体制図を作ることで解決することが可能だ。また、3つめの「議論が発散しアイディアがまとまらない」という点については、顧客志向で物事を考え、ビジョンを常に確認することが有効となる。理解の差を生まないよう、DXの理解レベルを一定にすることも大切だ。そして、4つめの壁「そもそも社内でスキル・知識が足りない」という点について、長谷川氏はこう語った。
「すべてをひとりのDX担当者が見るのは不可能です。DXは範囲が広く、すべての知見を持った人材は存在しません。ぜひ、外部の力を頼るべきです」(長谷川氏)
しかし、外部の力を借りる際にも注意点がある。従来型の業務委託契約では、計画フェイズで考えていた目的・ビジョンが薄れてしまうケースもあり得るため、「すべてのフェイズにおいて伴走型で支援できるパートナー選びが鍵を握る」と長谷川氏は語る。一貫したプロジェクトマネジメントを行い、担当者に明確なビジョンを伝えながら各フェイズをコントロールすることで、当初考えたビジョンを切れ間なく実現することができるというわけだ。
GMOメイクショップでは、「Axコンサルティング」によって、現状の経営・現場課題の可視化から、あるべき姿の可視化、問題解決のための施策策定まで、コンサル的視点から目標解決までを伴走している。また、ECアウトソーシングやマーケティング支援など業務まわりにも対応可能だと言う。長谷川氏は「壁は主に『リソースとスキル』であり、外部の力を借りることが望ましい。『伴走型』のパートナーを選ぶことが重要」と強調した。
続いて、「DXに必要なECシステム」について解説が行われた。DX推進の背景には、システムの老朽化、肥大化、ブラックボックス化などがあると言えるが、DX後は成長し続けられる仕組みが求められる。リプレイス後に同じ過ちを繰り返さないためには、適切なECプラットフォーム選びが大切だ。現在は、ASP、パッケージ、クラウドEC、スクラッチと種類も多様化しているが、DXで実現したいことを踏まえた上で検討を行うことが必要となる。
長谷川氏は、「ビジネスロジックの外部化によって、システムのブラックボックス化を防ぐ」という観点からクラウドECを選択するメリットを述べた。ビジネスロジックは、ビジネスモデルをシステムに実装するための仕様であり、いわば「顧客の販売戦略そのもの」と言える。ECシステムにおけるカスタマイズ部分は、ほとんどがこのビジネスロジックの実装と言え、これを特定のシステム内に組み込んでしまうと、次なる成長ステップに移行する際に過大なコストを要する可能性もある。クラウドECを活用し再利用できる領域で手を加えれば、ブラックボックス化を防ぐと同時に、自社のビジネスを守ることもできるというわけだ。
一般的なASP、パッケージ、スクラッチシステムは、ビジネスロジックをEC本体機能に組み込む必要があるため、熟知したエンジニアでなくてはカスタマイズができず、追加変更時に多くのコストを要する傾向にある。また、将来的にプラットフォームの乗り換えが必要になった際に、ビジネスロジックを再利用できない可能性も高い。
一方、API型クラウドECシステムであれば、ビジネスロジックがベンダー領域の外側に存在し、API通信で接続してリモコンのように外部操作ができるため、追加・変更を容易に行うことができる上、コストも比較的安価に抑えることが可能だ。また、システムと分離したところでビジネスロジックを管理すれば、プラットフォーム乗り換え時の再利用も容易にすることができる。
DXに最適なヘッドレスECシステム「Axコマース」 具体的な活用例を紹介
DX推進に必要なシステムについて、長谷川氏はこのように語る。
「オンラインとオフラインのデータをリアルタイムで連携することで、複数のチャネルの構築管理を容易にし、オムニチャネルへの対応が可能になります」(長谷川氏)
同氏はこのほかにも、ECサイトのみならず、アプリやPOS、マイクロサービスなどと連携できる「ヘッドレス/API」や、大量のデータを扱ってもパフォーマンスが落ちない「高い負荷耐性」の必要性を強調。DXを見据えた最新設計のシステムを選ぶことの大切さを述べた上で、「マルチサイト対応のヘッドレスECシステムを選ぶことをおすすめしたい」と語った。
ヘッドレスECシステムとは、本体機能に画面表示(ヘッド)を持たないシステムのことを指し、同システムを採択することで、画面表示の変更を本体機能に影響なく行える点を強みとしている。また、API連携によって外部システムに格納したデータを本体を経由せずに扱える点も特徴と言える。本体機能を通じてデータを扱う従来のシステムでは、あらかじめデータを取り込んでおく必要があり、画面機能の変更もベンダーの手を必要とするため、結果として処理にタイムラグが発生してしまう課題が存在していた。しかし、ヘッドレスECシステムであればベンダーの手を借りずに直接外部システムを扱えるため、リアルタイムに変更・改善ができ、リアルタイム性を高めることができる。また、ヘッドレスECシステムはインターネット通信できるものであればなんでもつなぎこめるため、音声検索や店舗端末、スマートフォンアプリやEDIなどと連携しマルチサイト対応することで、オムニチャネルのシステム構築も容易に実現することが可能だ。
DX推進に取り組む際には、ECシステムの性能面も重要となる。ここで長谷川氏は、次の表を見せながら各システムの特徴を述べた。大量のデータを扱う際、「ASP/マルチテナントクラウド」の場合は、複数の企業でサーバー、データベース、本体機能を共用するため、当然ながら他社の負荷の影響を受けざるを得ない。「パッケージ/スクラッチ」の場合、そういった恐れはないものの、自社の専用環境で本体機能を含めたサーバーの保守管理が必要となり、本体機能とサイトの負荷を分散させることは難しくなってしまう。
そこで近年注目を集めているのが「シングルテナントクラウド」だ。同クラウドは、専用環境を持ちながらもサイトやロジックを外部サーバーで構築することができ、本体サーバーの保守は必要としない。サイトと本体の負荷を分散できる上、ウェブ上に本体が直接公開されていないため、セキュリティ的なメリットも大きいと言える。
「システム要件や機能要件から見て、DXには『ヘッドレスでマルチサイト、シングルテナントに対応しているクラウドECシステム』をおすすめします。当社が提供するAxコマースは、これらすべての条件を網羅したシステムと言えます」(長谷川氏)
続けて長谷川氏は、Axコマースとビジネスロジックを連携させた上でマルチチャネルを実現したBtoC/BtoB ECサイトやコーポレートサイトを構築している事例を紹介。改めて「事業の成長に対応できるシステムが大切」と強調した上で、このようにまとめた。
「システムリプレイスはとても疲弊することです。DX以降の成長も視野に入れ、長期的な戦略をイメージし、リプレイスの頻度や規模を最小にする必要があります。DXはシステムだけ、サービスだけではうまくいきません。どちらも合わせた取り組みを行い、ビジネスを成長させましょう」(長谷川氏)
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