外出自粛でインタラクティブに 顧客中心への転換が加速
――CX(顧客体験)についてのお考えと、外出・営業自粛による変化についてお聞かせください。
顧客を中心に考えるということは、お客様にとっては当たり前のことですよね。しかしながら企業は、それぞれの部門や自分たちの視点で「売上」や「評価」を基準に物事を考えるため、それがブレてしまう。企業に入って仕事をするようになると、企業中心のマネジメントが行われるため、誰しも企業視点が強くなってしまうものです。
ところが今回の外出・営業自粛で、お客様の視点に 立って考えるということがリアルになってきたと感じています。これまでもパルではSNS活用に力を入れてきましたが、お客様とのやりとりがインタラクティブに変化してきています。 SNSはもともとインタラクティブなものですが、これまではどちらかというと発信したものを見てくださるという姿勢だった。それが、こちらから何かを発信すると、お客様がアクションを返してくださるようになってきたのです。
デジタルが登場する以前は、何かを作り、売れたといった「結果」の数字しか見ることができませんでした。デジタルの登場で、間(あいだ)の動きがデータで可視化されるようになり、CXが説かれるようになったのだと思います。お客様にとって、コーディネートの投稿は本当に価値があったのか、SNSの投稿の仕方を工夫することに意味があるのかといったことが、いいね!の数をはじめとする数字によってわかるようになってきました。
それがインタラクティブになったことで、いっそう可視化が進みました。そのデータをもとに、顧客中心に起動修正しやすくなっています。ECや実店舗に限らず、無機質なユーザーではなく、人格を持った1人ひとりのお客様として向かい合い、ファクトをもとに顧客体験を作り上げていけるように変わってきました。
――営業自粛で販売員のデジタル活用が求められています。すでにSNS活用を推進していたパルはどのような取り組みをしましたか?
実店舗のお客様が購入しやすいよう販促活動を行ったことが大きいのですが、4月の自社ECの売上が2倍に伸びました。実店舗とウェブのデータをつなぎ込みが済んでいたため、それまで実店舗で購入されていたお客様が、ECで購入されていることがわかりました。データをつなぎ込んでおいて、本当によかったなと思っています。
しかしデータを深堀りして見ていくと、壁にぶち当たっているというのが正直なところです。これまでも、ECをメインにお買い物をされる方たちは一定数いらっしゃいました。その方たちは、ECでの失敗・成功体験を積み、「ECでの買いかた」をご存じだということが見えてきました。販促がなくとも、実店舗のお客様に当たり前にECを使っていただくには、まだまだECのUI・UXが不十分であることを実感しました。
販売員のInstagram、WEAR、そしてブログでの状況発信については、評価制度も含めて活動してもらいやすいよう仕組みを整えてきました。多くのスタッフが発信することには慣れています。そこからもう一歩進んで、実店舗がメインだったお客様がECを利用される際のハードルを下げ、CXの満足度を上げるような取り組みをしていきたいと考えています。アパレルの実店舗がお客様に提供している価値には、大きくふたつあります。ひとつは、実際にその商品に触れることができること。もうひとつは、自分のことをよく理解してもらったうえでレコメンドを受け、似合うものや自分では思いもつかなかったものに出会えること。販売員のSNS活用を推進してきたのは、後者をデジタルでも行いたいと考えていたからです。
たとえばInstagram Live(インスタライブ)なら、1対Nの接客ができることに加えて、いただいたコメントに画像や動画を混じえて返すことで、お客様の悩みや不安を解決しやすくなります。これまでも、インスタライブやライブコマースに挑戦してはいました。しかし手応えを得るまでには至っていませんでした。それが今は、外出自粛の影響もあってか、視聴数もアクションも増えてきています。
ほかにも、店舗のLINEアカウントを開設し、チャット接客を進めています。実店舗にお電話をいただいても応答できないことも影響してか、さっそくお問い合わせをいただいており、接客を行っています。LINE活用についても、取り組んだほうがいいとは考えていました。しかし従来の業務に上乗せする形では、負荷が大きく継続できるのかという懸念がありました。それがニューノーマル時代の到来もあり、実店舗での接客時間は短くせざるを得ないでしょうし、お客様も、実店舗には情報収集だけに訪れ、ECでゆっくり買うといったふうに、お買い物の仕方が変化すると考えられます。今後もLINEでのチャット接客については継続していく予定です。