5,000億円到達予想もある電子書籍市場、各社のビジネスモデルは
「マンガは読むのではない、見るものだ!」
私的な話だか、故人となって久しい出版界の重鎮からよく聞かされたものだ。コマ割りや構図といったビジュアル面を含めた作品評価が不可欠と、あえて“見る”ことを強調したのだろう。
紙媒体しかない時代のこと。「マンガ」「漫画」「劇画」「コミック」を使い分けるなどと、こだわり示す表現者もいたが、小説などと比べて“低俗”というのが世間の大方の評価だった。かなわぬことだが、電子コミックの各作品についても多角的視野からの評価を聞いてみたかった。
販売低迷に歯止めがかからない紙媒体の書籍や雑誌とは対照的に、マンガやコミックを中心とする電子書籍ビジネスは拡大基調である。電子書籍の市場規模はすでに、3,000億円を突破。近い将来の5,000億円到達もあり得るとされている。
新規参入も相次いでおり競争激化は不可避。ただし、5Gなど通信環境の整備やスマホ・タブレットといった端末の進化を背景に、今後の拡大は確実視される。スマホやタブレットに保存することで、持ち運びや置き場に困ることはない。有望市場といっていいだろう。実際、コロナ禍による“巣ごもり”“ステイホーム”もあって、電子書籍の利用は増えているようだ。
既存の出版社や書店、取次、さらには印刷大手の大日本印刷と凸版印刷なども電子書籍サービスに着手しているが、ここでは主に電子書籍を手がけるネット系各社のビジネスを確認しておこう。
電子書籍のコンテンツ・利用料金の流れ
著作権者である著者と出版社が共同で作品化し、それを取次経由で書店に並べ、ユーザーの元に届ける――電子書籍の作品化・流通は、基本的に紙媒体と変わりない。既存の出版社でも取次や書店を経由しないでユーザーにダイレクトに販売するケースもあるが、電子書籍でも同様である。
あえていえば、電子書籍の場合、作品の利用許諾について既存の出版社に依頼することが多いようだ。基本的に、著作権は漫画家・原作者・作家にあり、第三者に対して利用を許諾できるのは著作権者だが、電子書籍では当該作品を出版した出版社経由で、利用許諾を獲得して販売(ネット配信)するケースが目立つ。著作権を仲介する代理事業者の利用もあるようだ。
もちろん、紙媒体でも書店、取次、出版社、編集プロダクションといったように、それぞれの役割分担があるように、電子書籍各社が注力するビジネス分野は異なる。電子書籍流通業、いわゆる取次を主要業務としながら電子書店も手がける会社も存在する。主要各社のビジネスを見ていくことにしよう。