市川ソフト、モール出店EC向けに自動白抜き画像編集ソフトリリース
Amazonをはじめとする大手モールでは、白背景の商品画像利用が義務化されつつある。視認性の高さはもちろん、AIによる画像認識でモール内外の検索やレコメンドに対応しやすいことが白抜き背景推奨の理由とも考えられているが、各社が設ける白抜きのレギュレーションが異なるため、それぞれのモールに合わせて商品画像を加工しなければならず、効率化に悩むEC事業者は少なくない。
そんな画像作成の悩みを解決するソフトウェア「ECフォトアシスタント」が市川ソフトラボラトリーから発売された。市川ソフトラボラトリーは1988年の創業以来、企業や家庭、教育現場に画像処理ソフトウェアを提供し続けてきた。中でもデジタルカメラのRAWデータを高画質に編集、現像できる「SILKYPIXシリーズ」は、15年以上にも渡ってプロのカメラマンやカメラメーカーなどから支持を得ている。2020年1月、同シリーズの研究開発で培った高度な色再現、階調、大量画像処理の技術を用いて、市川ソフトラボラトリーは商品画像の作成を自動化できるECサイト向けのソフトウェアの販売を開始した。
ECフォトアシスタントの操作は最短3ステップで完了する。取り込んだ商品画像を選択し、画像サイズや背景色、余白の比率などを各モールのレギュレーションに合わせて設定すれば、あとは出力するのみ。世界標準のカラーマネジメントツール「ColorChecker」をAIが自動認識して色の補正を行うため、高価な基準光源を使用しなくても商品の正確な色と明るさを表現できるのが特徴だ。
市川ソフトラボラトリーの石田さんは「色再現、さらに階調性の表現にこだわるEC事業者さんに使っていただきたい」と語る。アイテム数が多く外注では撮影が間に合わない事業者や、撮影に外注コストをかけたくない事業者にもおすすめしたい商品だという。
今回は、EC事業者を代表してファッションのセレクトEC「イーザッカマニアストアーズ」を運営するズーティーに、発売されたばかりの本製品を実際に体験してもらった。膨大なアイテム数を、Amazonを含む多店舗展開で販売してきたイーザッカマニアストアーズだが、画像作成でどのような苦労を抱えているのか。取締役/バイヤーの浅野かおりさんとグラフィックデザイナーでありアートディレクターでもある田尻真弓さんに話を聞いた。
白抜きにもこだわりを イーザッカマニアの撮影にかける情熱
イーザッカマニアストアーズは、神戸を拠点にカジュアルブランドの洋服や雑貨を扱うセレクトショップ型ECサイトだ。自社ドメインのサイトのほか、各種モールへの出店や実店舗の運営も手がけており、楽天市場のショップ・オブ・ザ・イヤーやYahoo!ショッピングの年間ベストストア受賞歴も多い。
イーザッカマニアストアーズでは、現在7名のデザイナーが商品ページを除くすべてのデザイン、撮影業務を行っている。撮影は毎日ペースで行われており、新商品が大量に入荷する春と秋は撮影量も必然的に増える。アパレル中心の商品展開のため、物撮りだけでなくモデルを使った撮影も多い。Amazon、楽天、Yahoo!ショッピングら大手モールのほか、SHOPLISTのようなアパレル特化型のモールにも出店しているが、各モールのレギュレーションに合わせて商品画像を用意するのはひと苦労だと田尻さんは語る。
「モールによってレギュレーションが異なるため、どうしてもある程度の時間がかかってしまいます。単調な物撮りよりも、イーザッカマニアらしさが表現でき、色補正が物撮り以上に難しいロケ写真のようなものに編集に手間と時間を充てることができたらという悩みがあります」(田尻さん)
カジュアルなレディースアパレルの魅力が伝わるよう自然光の下で撮影された柔らかい印象の写真は、イーザッカマニアストアーズの大きな特徴だ。紙媒体用の写真はプロのカメラマンに依頼することもあるが、ウェブ用の写真は基本的に自社のスタッフが撮影を担当しているというから驚きだ。
「美しく撮るのではなく、魅力的に撮ることを常に意識しています。質よりも写真から伝わる楽しさにこだわっているので、極端かもしれませんが『ブレていても良いからかわいい写真を撮って来て』とスタッフに言ったこともあります。とはいえ、素人写真のままではお客様にお金を払って買おうと思っていただけないので、撮影スキル向上のためにカメラの勉強会を開いたり、各自で研究したりしています」(浅野さん)
魅力的な着用画像の撮影に奔走する一方、日本ではそれほどファッションに強くない時代からAmazonに出品するという、あえて白背景の商品画像を用意する手間が増える決断を行ったのはなぜなのか。
「Amazonがやるということは、いずれ他もやる可能性が高いので対応する価値があると判断しました」(浅野さん)
「単なる白抜き画像と思われるかもしれませんが、商品の置きかたや影のつけかたなどで商品の良さ、ひいてはイーザッカマニアらしさを出すことが大事だと考えています」(田尻さん)
最短3ステップ!自動で白抜き画像が完成 忠実な色再現が売り
ここで、浅野さんと田尻さんにECフォトアシスタントを使った写真撮影から加工までの流れを体験してもらった。
まずは、白い背景の前で商品とColorCheckerを並べて撮影する。その後、同じ背景を使って通常通り商品撮影を続け、画像データをECフォトアシスタントに取り込み、出力サイズ、被写体サイズ、背景色を指定する。
あとは、ColorCheckerと並べて撮影した最初の商品画像を基準にAIが正確な明るさと色彩を再現してくれるので、実行ボタンを押せば完了である。
ColorCheckerの24色のパッチをもとにカラーバランスを調整しているため、すべての色を被写体そのままに再現できるのが特徴だ。
「自動補正してくれるのはうれしいですね。現状、まだそれほどルールを厳格化していないモールも、将来的には白抜きの商品画像を求めてくることは明白ですから、何かしらツールに頼らないといけなくなる日がくると思います。社内のPCのうち1台にECフォトアシスタントをインストールしておいて、白抜き作業はそこでずっと回しておくのも良いかもしれませんね」(浅野さん)
「うちのスタッフはこだわりが強いので、余白ひとつとっても『この商品はこれくらい』『あの商品はもう少し少なく』というふうに商品別の調整を入れたくなりそうです。ECフォトアシスタントの場合は自動処理を一括設定した後、個別に余白や色の調整を行えるので安心ですね」(田尻さん)
SNSが発展し、画像の重要性がますます高まる今こそ高度な画像の編集加工のためにRAWデータが見直されるべきだと石田さんは語る。
「撮って出しのJPEGに比べ、RAWデータは持っている情報量が多く、補正の幅が広くなります。デジタル一眼レフカメラはもとより、最近では上位機種のスマホカメラでもRAWデータでの撮影が可能になりました。手軽に高画質の写真が撮影できるからこそ、RAWデータでの撮影をおすすめしたいです」
ECフォトアシスタントのように業務効率化が実現できるツールによって浮いた時間を、どのような業務に充てていきたいと考えているのか、ズーティーのおふたりに聞いてみた。
「動画に力を入れていきたいです。写真も動画も得意な人がやるのではなく、商品のことを好きな人がやるべき仕事だと思っているので、動画編集のスキルを社内で上げていきたいと思っています。今は何でも社会に浸透するスピードが速いので、スキルが身に着いた時には新しい別のトレンドが誕生している、ということも。便利なツールで無駄な時間を減らし、成長スピードをどんどん上げていかないといけませんね」(浅野さん)
「人が考える必要がない、やらなくても良い業務を自動化して、人の手と頭を使って取り組むべきクリエイティブな業務に余力を注げるようになると、新しいものを生み出しやすくなると思います。そんな環境ができたら、理想的ですね」(田尻さん)