実店舗の接客に例えると見えてくる、サイト内検索を強化する理由
サイト内検索エンジンを提供する企業の中でも老舗として知られるZETA。冒頭で山崎氏は、ECにおいて検索がいまだに重要視されていない現状を指摘した。ZETAにはアパレルなどデジタルマーケティングへの取り組みが比較的進んでいる業種の導入事例が多い一方、「検索エンジン=ECサイトの隅に設置されているパーツの一種」という認識はまだまだ根強く、大きな予算を投じてツールを導入することに二の足を踏む担当者も少なくないと言う。
消費者の購買活動は、商品を「選択する」「決済する」「受け取る」という3つの段階に区切ることができる。このうち、マーケティングと直接関係するのは商品選択のみである。消費者が商品を選択する手助けとなる検索はれっきとしたマーケティング施策であると山崎氏は説明した。
ZETAがリサーチ会社と協力して行ったアンケートによると、ECにおける残念な体験として「検索結果が0件」を挙げる回答が64.5%を占めた。
検索結果が0件という状況を実店舗での体験に置き換えると、「こういう商品はありますか?」と店員に尋ねて「ありません」と突き返されたのと同様だと言えよう。そうではなく、「この商品はありませんが、こちらの商品はいかがでしょうか?」「今は在庫を切らしていますが、◯日に再入荷予定です」といった対応するのが理想的な接客ではないだろうか。
このように、対策を疎かにすれば大きな機会損失につながる検索。その重要性を見過ごしている企業は、裏を返せばここに伸びしろがあるとも言える。
「サイトを訪れたユーザーのうち、購入せずに離脱する割合が95%、購入する割合が5%だとします。前者の95%を90%に減らすことはそこまで難しくありません。しかしこれは、従来5%だったお客様が10%になることを意味する。つまり、売上は倍になります。それくらい、検索の改善による売上向上の余地は大きいと言えます」
その検索について、主な機能は「絞り込み」と「並べ替え」だが、CXの観点からとくに重要なのは後者の「並べ替え」だと言う。
「極端な話、検索結果に全商品が一斉表示されても問題ではありません。それらがふさわしい順番で並んでいることが重要なのです。1、2ページ目に『こんなものを探していた』『こんな良い商品があるのか』と思ってもらえる商品を出せるかどうかが勝負です」
レビューの持つ情報の透明性で正直なマーケティングを
検索結果を並べ替える際、多くの消費者は「評価の高い順」という項目を重視するが、商品レビューデータが乏しい場合、その並べ替えは機能しない。山崎氏はレビューの重要性を「情報のトランスペアレンシー(透明性)」という言葉を用いて解説した。
デジタル普及以前の消費者は、企業から発信される「この商品は素晴らしい」という宣伝を受け取るほかなかったが、今はスマホというツールを手に入れたことにより、消費者が自ら情報を発信したり、他の消費者が発信している情報を探したりすることが容易になった。企業が一方的にポジティブな内容を宣伝しても、他の消費者が「そんなことはない」と言えば消費者は後者を信用する。
情報のトランスペアレンシーが増した今、企業側が行うべきは消費者の手助けとなる正直なマーケティングである。何をいくらで買えば良いのか、その商品は消費者にあっているのか、よりふさわしい商品はどれか、といった情報を積極的に提供することが重要であると山崎氏は述べる。その際、他の消費者の意見、すなわち商品レビューは企業の資産になる。実際に商品を購入した人や、自分と似た目的や属性を持つ人のレビューはトランスペアレンシーの高い、信用に値する情報であると言えるからだ。
商品レビューと聞いて思い浮かべるのは、やはりAmazonだろう。たとえば書籍を購入する際、Amazonの商品レビューを参照した経験のある人は多いはずだ。昨今はフェイクレビューの増加が問題視されているが、これまで外部のマーケットプレイスに頼りきりだった商品レビュー施策に、各マーチャントが自力で取り組むチャンスとも捉えることができる。
「レビューの中には耳が痛いコメントもあるかもしれませんが、それらを恐れずにブランド側が公開することで、長い目で見て企業のサステイナビリティに良い影響を与えるのではないでしょうか」
ZETAのレビューエンジン「ZETA VOICE」を導入しているサンエー・ビーディーでは、導入の3ヵ月後に当初計画していた倍以上のペースでレビューが投稿された。さらに、レビューが投稿された商品の売上が180~250%にアップリフトし、返品率への効果も期待されている。レビューに書かれた内容は商品開発にも役立てられ、良いことづくめだったと担当者は語っている(担当者へのインタビュー記事はこちら)。
アメリカのリサーチ会社によると、レビューが0件の商品に1件でもレビューがつくと売上は10%上がり、10件つくと50%、50件つくと2倍にアップリフトされるとのこと。レビューの数が売上に与える影響力は一目瞭然だ。
山崎氏は、レビューの多軸化にも触れた。たとえば「配送が遅かった」というコメントとともに低評価がつけられているレビューを目にする機会は少なくないが、購買を検討している消費者は商品自体の良し悪しを知りたくてレビューを参照しているため、このようなコメントがノイズとなってしまう。楽天市場では現在、店舗に対する評価と商品に対する評価を分けて行えるような工夫がされている。山崎氏はそこからさらに踏み込んで「どんなレビュアーがその評価をつけているのか」という点にも注目するべきだと語った。
「たとえばレストランの場合、レビューサイトで総合評価が4点と表示されていても、比較的裕福な40代が居心地について高くつけた評価と、収入はそこまで高くないが情報感度が高く、インスタ映えを重視する20代女性がコストパフォーマンスについて高くつけた評価は大きく違います。
『どのような人が何について評価しているのか』を掛け合わせることによって情報のトランスペアレンシーが高まり、検索時の並べ替えで、自分と似た属性のユーザーが高く評価している商品順に表示することができれば、これまでよりはるかに消費者の目的にフィットした、後悔しない買い物の手助けができるようになります」
検索×レビューは店頭CVにも有効 OMOのあるべき姿とは
検索×レビューの持つ可能性は、ECに限った話ではない。店頭で手に取った商品の評判をスマホで調べるという行動をとる消費者は多いが、この行動こそ、店頭購買のCVに検索×レビューが大きく寄与する好例だと山崎氏は話す。
「Amazonで書籍のレビューを見る人は、購買意欲が湧けばAmazonでそのまま買おうとします。つまり、レビューの近くに買える導線が設置されていれば消費者はスムーズに購買するというわけです。実店舗に来店して商品レビューをスマホで確認する消費者が、『今店頭にいるからここで買おう』と考えるのは自然な流れです」
それを踏まえ山崎氏は、本イベントのテーマでもあるOMOについてこう語った。
「OMOは『店頭でデジタルをどう活用するか』という話だと私は捉えています。スマホの登場によってデジタルがマーケティングの舞台となりました。企業側がそのタッチポイントであるスマホを活用する際に重要なのがCXです。CXというバックグラウンドを経て初めて、OMOは消費者に喜ばれる重要な取り組みになるのではないでしょうか」
ZETAは「ZETA CLICK」というOMOソリューションを今春から順次提供している。店舗や商品ごとにQRコードを発行し、消費者がそのQRコードからZETA CLICKのURLにアクセスすると、アクセスした瞬間に最適なページへリダイレクトされるというもの。
商品ページ、レビューページ、FAQページ、クーポン、後継商品ページ……など、リダイレクト先は「リアルタイム」に処理され、消費者がもっとも望ましいと感じるページへ誘導されるだけでなく、誰がアクセスするかによって誘導先が変わるパーソナライズや、その瞬間の値段を表示するダイナミックプライシングなども可能となり、DMPやMAといったオンラインでのマーケティングメソッドを店舗やカタログでも実現可能にするのがZETA CLICKだ。
アパレル企業はじめ、OMOの一手を求める企業への導入が進められている。導入後の効果など、今後の動向に注目だ。