MA検討は進むが定義は曖昧 CRM戦略を明確にせよ
今回から、本コーナーの定点観測はプラスアルファ・コンサルティングの山崎さんが登場。同社は、MA「カスタマーリングス」を提供するベンダーで、CRMに強いのが特徴だ。編集部では、EC事業者の意識が、カゴ落ちのようにある施策に特化したツールよりは、もう少し広く、マーケティング施策全般へのデジタル投資のほうへ意識が向かっているように感じていた。山崎さんにはまず、MAを取り巻く、ここ1年の動向を聞いてみた。
「MAという言葉自体は浸透し、導入する企業も増えてきています。一方で検討中の企業様にヒアリングすると、『カゴ落ち対策をしたい』のように部分的なマーケティング施策のオートメーション化を指していることが多いと感じます。まだ整理が仕切れておらず、全体として何を目指すかが手探りの状態です」
ツール検討段階で整理が仕切れていないのには、MAの概念が曖昧なことも背景にある。
「MA=CRMと捉える方が多いのですが、正確にはCRM施策のある部分を担うのがMAで、CRMのほうが概念としては大きいです。また、たとえばCookieのデータを活用してコンテンツを出し分け、新規顧客を獲得するツールをMAと謳っている場合もあります」
山崎さんがクライアントを訪問すると、話す人によってMAの概念が少しずつ違うという印象を覚えるそうだ。
「共通して言えるのは、MAを活用してどんな課題を解決したいのかが決まっていないということ。目的がマーケティング担当者の仕事を自動化することになってしまうと、どんどんシステマチックな方向に向かい、顧客、つまり消費者の存在が置き去りになってしまう。『こういうお客様に対するオファーを最適化する』ためにMAを使うという順番でないと、たとえばカゴ落ちメールを乱発して迷惑がられるといったことにつながります」
MAをうまく活用できている事業者は、CRMについて明確な戦略があり、人の手を動かすと実現しづらい施策、たとえばカゴ落ちしてから24時間以内にメールを送る、といったものにMAを使うという順番で考えているそうだ。そしてMAですべてを賄おうとするのではなく、ここはウェブ接客、ここはLPOのように役割ごとに最適なツールを、パーツを当てはめるように選定する傾向にある。
「弊社は、『なんでも自動化してはいけない』という考えを持っています。ITで効率化すべきところと、効率化してはいけないところがある。人が考えたり、考えてノウハウとして貯められるところは自動化してはいけない。ツールがないと何もできない、競争力がない会社になってしまいますから」
どうにか環境が整った事業者が、MAを活用して行う最初のCRM施策が、メールマガジン全配信からセグメント配信に変更することだそう。「新規獲得が難しい状況下で、メルマガ全配信を続けるとせっかく獲得した顧客を、自ら離反させることになります。しかし、メルマガ全配信はビジネス上のインパクトが大きい、つまり売上が上がるのでやめにくい。カゴ落ち対策のような特化施策は、母数が少ないので率は高くてもビジネスインパクトが小さい。よって、特化施策をMAで効率化し、数を回してボリュームを出し、ビジネスインパクトを大きくしていく。そして、メルマガ全配信からセグメントし、母数が大きめのちょうど良い塩梅を探っていく。これが今、成功している事業者が取り組んでいることです」
忙しいECチーム、MA導入を「えいやっ」と勢いでやってしまおうとするところも少なくないと言う。
「スイッチングコストは高く、新規よりシステムを作り直す負荷も大きいです。自分たちなりのCRMを考えてから、手段としてMAを有効活用するという順番で考えていただきたいと思います」