ECは完全にモバイルが主役、AIの活用もより重要に
アメリカのホリデーシーズン(※一般的に11月第4週の感謝祭からクリスマスまで)は最大の商戦期であり、年間の売上の約3割がこの期間に集中する。セッション冒頭で増田氏は、2017年のホリデーシーズンにおいて、セールスフォース・ドットコム(以降、セールスフォース)のECプラットフォーム「Salesforce Commerce Cloud」のユーザーの売上実績が、前年比18%増と好調であったことを紹介。また、このホリデーシーズンの購買行動データなどを分析した結果として、ふたつの大きなポイントを挙げた。
ひとつは、モバイルシフトの本格化だ。ホリデーシーズン最終日の12月25日はモバイルのトラフィックが70%近くを占め、購入も50%はモバイルからだったという。
もうひとつは、ECにおいてもAI活用の重要性が増していること。顧客全体のうち、商品のレコメンデーションなど「パーソナライゼーションに関与した顧客」の数は6%だったが、売上全体への貢献度で見ると、実に30%に達していることがわかった。
こうした動向をふまえ、セールスフォースでは今後、より良い顧客体験を提供していくために満たすべき要件として、次の3つのキーワードを重視しているという。
- より速く(Fast)
- パーソナライズ(Personalized)
- つながる(Connected)
モバイルでも快適なショッピング体験をいかに実現するか
「より速く」にはいくつかの意味があるが、まずシンプルにサクサク動くこと=パフォーマンスは当然重要だ。セールスフォースの調査によれば、パフォーマンスがECに及ぼす影響として、1秒の遅延によってコンバージョンが7%。PVが11%、顧客満足度が16%低下するという。
「操作しやすい、たどり着きやすいといった意味での『速さ』も、とくにモバイルでは求められます」(増田氏)
増田氏はその対策例として、アクセスしやすい検索バーをサイトに設置して、それが画面スクロール時にも常に表示されるよう設計することを挙げた。また、長いスクロールや複数ページにわたるチェックアウトプロセスを避けるため、アコーディオン(折りたたみ)式のチェックアウト画面にするべきと指摘。
「Salesforce Commerce Cloudでは、こうしたモバイルファーストアーキテクチャを採用・展開し、『親指ひとつ』でのショッピング体験の提供を可能にします」(増田氏)
さらに、今後はソーシャルメディアとスムーズに連携し、販売チャネルとしていかに確立させるかも重要となってくる。Commerce Cloudユーザーのサイトを対象とした調査結果では、2017年第2四半期にはソーシャルからのトラフィック/オーダーが対前年比で50%近く増加したという。
これについては、InstagramとSalesforce Commerce Cloudが連携し、北米で展開している「Shopping on Instagram」という事例がある。ユーザーがInstagram上で気になった商品にタッチすると商品名や金額などの情報が表示され、そのまま購入まで進められるというものだ。
1to1コマースに取り組まなければ、顧客が離れていく時代に
ふたつめのキーワード「パーソナライズ」の重要性についても、裏付けとなるさまざまな調査結果がある。たとえば、「パーソナライズなコミュニケーションが提供されない場合、ブランドの変更を検討する」という質問に対しては、52%が「はい」と答えているそうだ。
また、Commerce Cloud Einstein(※後述)を利用している150以上のサイトを対象とする統計データを分析して得られた、パーソナライズの有効性に関する知見もある。
そのひとつが、「サイト検索との組み合わせが最も効果的」であることだ。検索を使用してさらにレコメンデーションをクリックする顧客は、検索のみ利用する顧客の3.7倍、レコメンデーションのみをクリックする顧客の2.1倍の頻度で購入するという。
「『パーソナライズはサイト滞在時間に直結する』ということもわかりました。レコメンデーションをクリックする顧客はクリックしない顧客と比べてサイト平均滞在時間が約4.5倍長く、1回の訪問あたりに見る商品数も5倍近い。それだけ購入する確率も高くなるということです」(増田氏)
なお、サイトの再訪率も約2倍になるという。
パーソナライズを支えるAIを標準機能で提供「Commerce Cloud Einstein」
Salesforce Commerce Cloudでは、パーソナライズなどを支援するAI「Commerce Cloud Einstein」を標準機能として提供。すでに実装されている機能としては、商品をレコメンデーションし、顧客のパーソナライズを行う「Product Recommendation」、商品の並び順をパーソナライズして自動的に並び替える「Predictive Sort」、運用者側に向けて商品の関連性などを可視化する「Commerce Insight」がある。
増田氏は、ふたりの女性が同じサイトに初めて訪問して商品を選んでいくというCommerce Cloud Einsteinのデモ動画を紹介。途中で同じ商品を選んだ際にもそれぞれに提供される商品レコメンデーションや商品の並び順は異なっており、注文履歴や属性情報のない状態の初回訪問から数回程度のクリック操作でも、AIがリアルタイムで学習し、パーソナライズしている様子が見てとれた。
「今後のバージョンアップで、検索辞書のチューニング自動化や提案型検索のパーソナライズの機能なども順次追加される予定です」(増田氏)
店舗とECをより密接につなぐユニファイドコマースを実現
3つめのキーワードの「つながる」には、大きくふたつの意味合いがある。ひとつは、店舗とECがより密接につながるユニファイドコマースの実現だ。
より良いカスタマーエクスペリエンス提供のために、店舗スタッフに必要なものは何か?──セールスフォースが約2,000人の消費者を対象に実施したという調査への回答状況は次のとおり(一部抜粋)。
- 店舗に在庫がなかった場合、他の店舗の在庫が確認できること(61%)
- モバイル端末を利用して必要に応じて商品情報を案内できること(58%)
- 顧客のプロファイル情報(例:過去の購入履歴)を把握し、より良いカスタマーサービスを提供すること(24%)
- 顧客のプロファイル情報に基づいた商品レコメンデーションをモバイル端末で利用できること(21%)
Salesforce Commerce Cloudでは、こうしたニーズにもしっかりと応えられるという。
「ECサイトの買いかごや購入履歴、ウィッシュリストなどを実店舗の接客でも利用できるよう、顧客情報をシングルビュー化し、店舗スタッフはタブレット端末用のアプリケーションからいつでもアクセス可能となります。たとえば、来店したお客様が求める商品の在庫が自店にない場合には、タブレットで他店在庫を検索して取り寄せたり、そのままオンラインで注文することもできます」(増田氏)
この仕組みを導入している海外事例としてラコステを紹介。ラコステのある店舗では、タブレット経由での売上が全体の10%を占めるまでになったそうだ。
マーケティングオートメーションやカスタマーサポートとも「つながる」
セールスフォースでは、マーケティングオートメーションの機能を提供する「Salesforce Marketing Cloud」、カスタマーサービス向けの「Salesforce Service Cloud」というソリューションも有している。「つながる」のもうひとつの意味とは、これらのソリューションとの連携だ。
これにより、購入前のアプローチから、ECや店舗での購入体験、購入後のカスタマーサービス(サポート)まで、より精度の高い顧客対応が可能となる。
ECへの先進的な取り組みで知られるアディダスでは、Salesforce Commerce Cloudを含むこれら3つのソリューションを導入しているという。
最後に、まとめとして増田氏は次の3点をあらためて強調し、セッションを終えた。
- デジタルコマースの世界において「モバイル」と「AI」は、もはや成長を牽引する重要なエンジンとなっている。
- 売上や顧客経験を高めるために必要な要素は、「Fast(より速く)」「Personalized(パーソナライズ)」「Connected(よりつながる)の3つである。
- Salesforce Commerce Cloud は上記の必要な要素を満たす数多くの機能やサービスを実装し、コマースビジネスの成長を支援できる。