高い更新性と低コスト、2つの要望を叶える「メディアEC」
――ノヴァと唯木さんは、EC事業者とデザイナーさんが密にコミュニケーションをとっている理想的な関係と聞いています。まずはノヴァ代表のブッシュさんと唯木さんの出会いからお聞かせください。
唯木(泰地) ブッシュさんとは2012年の冬に友人のデザイナーからの紹介で知り合いました。コーポレートサイトのリニューアル、パン屋さん向けに材料を販売するBtoB ECサイトのリニューアル、そして一般向けBtoC ECサイトの新規構築という3つのデザインについてご相談いただきました。いろいろなクライアントとお仕事をさせていただいていますが、ブッシュさんほどディテールまで具体的なビジョンをお持ちの方はなかなかいないと思います。
サイトでは、商品の紹介はもちろん、ブッシュさんが世界の生産者に会ってきたレポートや、企業理念なども読み物として定期的に更新していきたいというお話だったので、新しい更新がトップページに出てくるタイル状のレイアウトを敷いた「メディアEC」を提案しました。また、ひとつの記事から横に広がるように、たとえば生産者のレポートがあったら、その生産者の商品や、その商品を使ったレシピへとつながるような見せかたも提案しました。
ブッシュ(ノヴァ) 私自身の「思い」がたくさんあるので、広告代理店などを間に挟んだりせずに直接、唯木さんに伝えることができたのがよかったです。
唯木(泰地) ビジョンを聞かせていただいた際に、1つひとつ商品の説明をしていただいて、試食もさせてもらって。それが本当においしかったんですよね。商品に自信がないと、僕たちも自信をもってサイト制作ができないところがありますが、ノヴァさんの場合は、純粋に商品のよさを伝えられればよいサイトになると確信しました。
―ECサイト制作に、ネットショップASP「カラーミーショップ」を使うことになったのはどういう経緯ですか?
唯木(泰地) 2013年4月に3つのサイトを同時リリースすることになったのですが、コーポレートサイトのリニューアルを最優先し時間と予算を大きく割いたので、残った2つのECサイトをいかにコストをおさえて実現するかを考えました。
カラーミーショップは会員機能のようなBtoB向け機能とデザインカスタマイズに柔軟に対応できる環境があり、店舗の規模にかかわらず手数料をかけずに運営できるので、ノヴァさんのようにターゲットや規模の異なる複数のECサイトを構築するのにぴったりのサービスだと判断しました。
まずは、カラーミーショップのテンプレートをカスタマイズする形で、2つのECサイトをリリースしました。その後、実店舗のオープンに合わせて、一般向けのBtoC ECサイトを「ノヴァセレクト」としてリニューアルしました。「ノヴァセレクト」は、WordPressと「どこでもカラーミー」(カラーミーショップが提供するカートJS機能)を組み合わせて作っています。
更新し続けたくなる「メディアEC」構築の秘密
――WordPressと「どこでもカラーミー」を組み合わせた理由はなんですか?
唯木(泰地) コストを抑えたECサイト運営に更新性も担保できるという点で、この組み合わせを選びました。伝えたいことをたくさん発信するメディアEC型のサイトを構築する場合、サイトを作って終わりではなくその後の更新性がカギになります。動きのあるサイトを作るためには、見た目のデザインだけでなく、更新のしやすさなどクライアントの使い勝手も重視してEC作成サービスを選ぶ必要がありますね。
最近は他のクライアントからも、「オウンドメディアの中でお買い物もできるようにしたい」という相談が増えているので、この組み合わせを提案することも多いです。
安宅(GMOペパボ) ノヴァさんのメディアEC運営における課題と、それを解決した具体的な工夫などはありますか?
唯木(泰地) ノヴァさんのような複数のメディアECでは、それぞれ情報を投稿してもらうのは負担が大きく、時間が経つに連れ更新されなくなってしまうといったことが起きがちです。そのため、コーポレートサイトのWordPressに投稿した内容をRSSでECサイトに反映させる機能を用意しました。
安宅(GMOペパボ) 制作の段階で、更新する人の使いやすさを重視して設計していらっしゃるんですね。
ブッシュ(ノヴァ) 唯木さんがおっしゃったように、ECサイト運営の初心者であってもどんどん更新し続けたくなるような設計をしてくださるのは、とてもありがたいです。「サイトをもっとこうしたい」というアイディアもたくさん出てきます。
唯木(泰地) ウェブサイトは更新してもらわないと意味がないと考えていて、更新しやすさは必須だと思っています。さらに言えば、楽しく更新できることも大事だと思います。せっかく頑張って作っても、更新されずにサイトが「死んで」しまうのはどうしても避けたい。そこまでやって、デザイナーとして「納品」と言えるのではないかと思っています。
更新をしやすくするために、スタッフさん向けの写真講座もやりました。ECでは写真がとても重要ですが、毎回プロに頼むのは限界があります。だから、プロのカメラマンに直接ノヴァさんまで来ていただいて教えてもらったんです。それからみなさんどんどん写真がうまくなって、テキストのほうもイキイキしてきたと感じます。
ブッシュ(ノヴァ) みんなマイカメラを買いました(笑)。買いたくなるんです。今までオートで撮っていたのがマニュアルで撮れるようになった。撮影の技術を教えてもらったのは大きかったです。
安宅(GMOペパボ) 単に更新できる仕組みをデザインするだけではなくて、きちんとクオリティを保ちながら継続できる体制を作られているんですね。
唯木(泰地) やっぱり、直接ブッシュさんの熱意を聞いてお金と時間もかけて作って、「できました、終わり」なんてことは……、ブッシュさんの顔が浮かんできてしまうので、そんな無責任なことはできません。
安宅(GMOペパボ) 理想的な関係ですね。実際に、ノヴァさんは更新頻度が高くてすごいなと思います。商品だけでなく、食べかたやライフスタイルまで含めて発信されていますよね。
ブッシュ(ノヴァ) タイル状のレイアウトなので、更新しないといけないというプレッシャーもありますね。古いものがずっと残っていたら気になりますし。
唯木(泰地) それは計算してなかったな(笑)。
ブッシュ(ノヴァ) SNSに上げやすいのもいいですね。商品などを紹介しようとしたら、まずWordPressに投稿し、SNSでシェアするという流れができています。トップページにすぐに反映されるので、プレッシャーもありつつ、楽しく更新しています。
APIを活用して独自開発!お客さまのニーズに応える「お気に入り機能」
安宅(GMOペパボ) 実はカラーミーショップ内で月商が高いお店は、BtoBのビジネスもしているところが多いんです。実際にノヴァさんも、パン屋さん向けに材料を販売する卸事業のほうが売上が出ていますよね。サイトを拝見すると、BtoBのなかでも特にきれいにデザインされていることに驚きました。
ブッシュ(ノヴァ) 実際にパン屋さんに足を運んだら、皆さんお忙しい中、たくさんの荷物が積まれたバックヤードの片隅に古い型のパソコンを置いて、必要なものだけをサッと買ってくださっていることがわかりました。だから唯木さんに、「とにかく早く、便利に買えるサイトに」とお願いしたんです。
唯木(泰地) 必要なものをすぐに購入できるように、検索性をいちばん大事にしました。デザイン的にも充実して見えるのは、商品写真を大きくレイアウトしているからでしょうね。
安宅(GMOペパボ) 写真があれば探しやすさが全然違いますよね。文字よりも早く探せます。
唯木(泰地) 検索性という点では、カラーミーショップに「カテゴリー」と「グループ」の2つの機能があるのがありがたいです。一般的な商品カテゴリーのほかに、別枠のグループでソートできるので、ノヴァさんと相談して検索軸を決めて使い分けています。また独自に、「お気に入り機能」をカラーミーショップのAPIを使って開発しました。クッキーに保存する形でリスト化しています。
安宅(GMOペパボ) APIを使った独自機能で、BtoBのお客様の要望に応えていらっしゃるのですね。カラーミーショップには同じように、APIでお客様のニーズに合わせた機能開発をされているデザイナーさんがたくさんいます。
――今後、ECを含めたウェブサイトで取り組んでいきたいことはありますか?
ブッシュ(ノヴァ) 今以上にサイトの内容を濃くしたいです。パン屋さん向けに発行している紙媒体では、さまざまなレポートを書いているのでコンテンツもたまっています。内容も面白いと思うので、一般のお客様でも読めるようにして、商品の裏側や生産者の思いをもっと知ってほしいなと思います。
唯木(泰地) そうですね。ブッシュさんから聞いて感動したエピソードや多くの人に伝えたいと思ったことを、まだ全部は伝えられていません。ブッシュさんが世界中を旅して生産者と交渉して、ここまで商品がたどり着いている。そのリアリティを、たとえばGoogle Mapを使って見せられないか、とか。ウェブならではの面白い見せかたがもっとあるんじゃないかというのを常々考えています。
安宅(GMOペパボ) 今日お話を聞いて、複数のECサイト運営には費用だけでなく、運用コストを削減することがとても重要だとリアルにわかりました。デザインの柔軟性はもちろん、日頃運営する方たちの使いやすさもさらにブラッシュアップしていき、「この商品の魅力を届けたい!」という想いを届けるお手伝いをしていきたいです。ありがとうございました。(了)