EC戦国時代、既存顧客へのアプローチがさらに重要に
まず林さんは、現在のEC・通販市場が拡大していること、CtoCやオンデマンドECなどサービスが多様化していることなどから、現状を「EC戦国時代」と表現。そうした状況下で利益を上げるための考えかたとして、「新規顧客の獲得」「既存顧客のリピート」のふたつがあるとした。
「どちらも重要ではあるのですが、一般的に、新規顧客の獲得コストは既存顧客の5倍だと言われており、実際に新規の獲得コストが上がってきているという声もクライアントから聞こえてきます。そのような中で、既存顧客のリピートを獲得するためのアプローチは、今後もさらに増えていくのではと考えています」
ブレインパッドには、既存顧客に対するアプローチにおいて、新規顧客(F1)からリピート顧客(F2)への引き上げを1%改善したことで、売上に約7,000万円のインパクトを与えたクライアントの事例もある。こうした経験から、既存顧客へのアプローチの改善は重要だと言えるのだ。
物理的な制限が少ないECだからこそ、おもてなしが必要
ここで改めて、林さんはEC・通販ビジネスの特徴を振り返る。
「物理的な制限が少ないため、多くの企業において取り扱う商品数が増える傾向にあります。一方で、ロングテール商品と呼ばれる売上順位下位80%の商品の売上合計が、売上全体の20%超を占めると言われていることから、『よく見られているわけではないけれど、そのユーザーに適したものをオススメする』ことも重要です」
選択肢が増えるということは、ユーザーからすれば、自分が欲しいものがなかなか見つからないということでもある。だからこそ、自分に合ったものをすすめてほしいといったニーズが増えてきているのでは、と林さん。そこで重要になるのが、「おもてなし」だ。
「縦軸がコンタクトのタイミング、横軸がオファーの量を示していますが、適切なコミュニケーションを取るためには、縦軸・横軸ともに適切であるべきと考えます。適切なコミュニケーションとはすなわち、『One to Oneマーケティング』のことです」
【講演資料DL】顧客に寄り添うECサイトマーケティングを実現!ECで必要な考え方とは?
先日開催されたECzine Day 2016 Spring内でのブレインパッドの講演で使われた資料(一部抜粋版)です。EC市場の最新動向や、ECビジネスで利益を上げるためのポイントを解説しており、ECに携わる方にはおすすめの内容になっています。ぜひご一読ください。ダウンロードはこちら。
ビッグデータの活用により、「誰が」「何を」買うかは予測可能に
林さんは、One to Oneマーケティングを「顧客1人ひとりをよく知り、それぞれのニーズに合わせた個別のアプローチを展開する手法」と定義。顧客をよく知るための手段のひとつが、データ分析だ。
One to Oneマーケティングにおける主なデータ分析のアプローチ手法として、この商品を誰が買うかを予測する「オファーセントリック(商品中心)」と、顧客が望むものを予測する「カスタマーセントリック(顧客中心)」のふたつがある。
「オファーセントリック(商品中心)」を用いれば、たとえば、購入確率(スコア)による絞込みによって、キャンペーンROIを最適化し、手堅いキャンペーンが行えるだろう。「カスタマーセントリック(顧客中心)」なら、顧客の趣味、関心や行動によるレコメンドに加えて、人気商品、注目商品、商品軸からも、複数のパターンを提案できる。
いずれの予測も、データマイニングや機械学習等を用い、予測モデルという数式を構築して行われている。噛み砕いて言えば、「Y=AX+B」のような式を作り、そこに顧客Aのデータを入れると、顧客Aが次に何を買うのかが予測できるようにするのだ。EC・通販業界でよく用いられるRFM分析は、R(Recency=最新購入日)、F(Frequency=購入頻度)、Monetary(購入金額)の3つの指標を用いた予測方法だ。テクノロジーを活用すれば、数千の指標から予測できるようになっている。
予測の精度は、データベースが左右する。トランザクション、Webログ、ソーシャルメディア、アプリから取得したジオフェンシングデータなど、多種多様なデータを顧客IDで紐付け、「データマート」として一元管理する必要がある。
「ビッグデータを活用することで、『誰が』『何を』買うのかは予測できるようになってきています。『何を分析して、どう活用したいか』が明確か否かで、成果も大きく変わってくるのです」
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プライベートDMPとMAによるCVR向上事例
One to Oneマーケティングに必要な機能として、大きく分けると「データマイニングソフトウェア」「プライベートDMP」「マーケティングオートメーション(MA)」「ビジネスインテリジェンス」の4つがあるが、今回、「プライベートDMP」「マーケティングオートメーション」において、具体的な活用事例を紹介した。
アパレル通販A社のWebサイト事例
アパレル通販A社では、Webサイトにおいて主に以下3つの施策を実施した。
- 顧客ごとに最適なバナー/最適な商品をレコメンド
- ポップアップでのクーポンオファー
- この商品を買うと送料無料!オファー
顧客ごとに最適なバナー/最適な商品をレコメンド
プライベートDMPで機械学習を行い、顧客ごとに最適なキャンペーンバナーを表示したり、最適な商品をレコメンドするというもの。A社では、こうしたOne to Oneのレコメンドをこれまで行ってこなかったこともあり、コンバージョンレートが110%へ改善という成果につながった。さらに、セッションPV数も今までの1.5倍へ改善、顧客がサイトに長く滞在し、買い回りにつながっている。
ポップアップでのクーポンオファー
セグメントを切り、「このユーザーには購入するまで出し続ける」「このユーザーには一度表示すれば出なくなる」といった具合にクーポンオファーを行った。対象となったのは、前回のキャンペーンの88%程度の人数であったが、購入単価が124%改善するといった成果につながった。
この商品を買うと送料無料!オファー
「あといくら買うと商品無料」はよくあるオファーだが、A社では、金額に加え、そのユーザーが興味を持ちそうな商品をレコメンドする施策を加えた。その結果、購入点数が1.4倍へ改善、購入単価も1.06倍改善している。
さらに、Webサイトにとどまらず、広告も組み合わせた施策も実施。
「メールを開封したユーザーには広告を出さない、アプリプッシュを受け取ったユーザーには広告もメールも出さないといった組み合わせの施策を行い、F2、F3などの優良顧客の転換率が改善した例もあります」(林さん)
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スポーツ用品通販B社のメール施策
スポーツ用品通販B社では、メール施策として、主に以下3つのキャンペーンを実施した。
- カート放置キャンペーン
- Web閲覧後フォローキャンペーン
- クロスセルキャンペーン
カート放置キャンペーン
カート放置キャンペーンとは、通販サイトのカートに商品を入れたままで購入が完了していない顧客に対し、カート投入製品のオファーメールを顧客に送付するというもの。このメールのコンバージョン率は、翌日に送った場合だと5%ほどになる。通常のメルマガの場合は0.5%ほどだったので、約10倍の効果だ。
カートに商品を放置する顧客は、毎日全体の0.09%ほど発生するため、50万人の顧客がいる場合は1日450人がカートを放置する計算だ。だが、翌日に5%の顧客がキャンペーンメールに反応するのであれば、約23人が購入することになる。放っておけば生まれなかった売上だ。
Web閲覧後フォローキャンペーン
さらに効果が出ているのは、Web閲覧フォローキャンペーンだ。これはカートへの商品投入や購入がなく、Webを閲覧して離脱してしまった顧客が対象。閲覧した商品や関連のある商品をメールでオファーするというもの。この人数はカート放置に比べるとさらに多く、全体の3%ほどだ。コンバージョン率こそ翌日に送った場合だと2%だが、対象人数が多い分その効果は大きいという。
クロスセルキャンペーン
前出の2つに対し、クロスセルキャンペーンの対象者は商品を購入した顧客となる。クロスセルのオファーメールは、購入の翌日とその後一定間隔で送られる。コンバージョン率は翌日に送った場合で4%ほどとなる。
この企業は、3つのキャンペーンによる効果を売上の10%強と見ているそうだ。もちろん、その他のキャンペーンによる間接的な効果ということも考えられるが、効果の半分以上は「このキャンペーンによるものだと考えられます」と林氏は語る。
最後に、1人ひとりにパーソナライズした動画付キャンペーンメールの施策例を紹介し、「100万人いれば、100万通りの動画を作ってオススメできるようになっています。パーソナライズできるものがかなり増え、パーソナライズできないものを探すほうが難しくなってきている。そういう時代になってきています」と述べ、講演を締めくくった。
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