そもそもリスティング広告とは 正しく答えられますか?
次々と登場するECテクノロジー。新たな取り組みを行うためには原資が必要だが、それが、既存の取り組みを圧縮して捻出できたらいいのでは、と阿部さん。では、見直すべき既存の取り組みとはというと、多くのEC事業者がマストな施策として実施しているであろう、リスティング広告の改善をしてはどうかと提案する。この機会に改めて、リスティング広告の根本的なところから考え直してみようというのだ。
前述のとおり、リスティング広告を出稿したことがないEC事業者はほぼいないはず。その歴史は、インターネット業界においては古く、「やり尽くした」という声が聞こえてくるのもそのためだ。
だが一方で、「そもそもリスティング広告とは?」と問われた時に、明確な答えが返せるだろうか。「全国あちこちでセミナーをし、何千人のリスティング広告関係者に会うが、正確に答えられる人はいない」と阿部さんは言う。
さらに、ディスプレイ広告の「カオスマップ」は年を追うごとにプレイヤーが増え、複雑になっている。多くのEC事業者が、その変化を追うのに必死になっているはずだ。阿部さんは、この状況にも疑問を呈す。
「冷静に考えたら、Google AdWordsとGoogle AdSenseの世界なんです。極論を言えば、Google AdWordsをしっかりと使いこなしたら、かなりのことができます。でも、すべての機能を使いこなせている人はほとんどいない。それくらい優秀なツールです。だからこそ、1つひとつの細かい機能を覚える必要はなく、Google AdWordsとGoogle AdSenseだけ、そうシンプルに考えることで、成果はさらに上がっていきます」
さて、「そもそもリスティング広告とは?」の問いに答えを出そう。
まずひとつは、検索キーワードに合わせて、直接的に働きかけることができる「検索連動型広告」。検索したものの答えが直接的に広告として出てくるから、クリック率、コンバージョンレートが高く、成果につながりやすい。そしてもうひとつが、メディアに掲載されているコンテンツに合わせて間接的に働きかける「コンテンツ向け広告」だ。
「能動的に訴求できるのが検索連動型広告で、受動的な受け取りかたをするのが、コンテンツ向け広告。ふたつはまったく異なる性質を持っていて、ユーザーもまったく異なる動機で見に来ている。にもかかわらず、ほとんどのアカウントが同じ広告文で掲載しているのが現状です」
ECサイトタイプ別、リスティング広告の戦いかた
さて、リスティング広告を理解したところで、いよいよ運用だと思いたくなるが、阿部さんは「戦略が圧倒的に重要」だと一旦停止を呼びかける。アナグラムでは、戦略を整えるために、クライアントの依頼から運用まで、1ヶ月の準備期間を置くこともあるという。戦略とは、「さしずめ、武田八陣形のようなもの!」。
EC事業者のリスティング広告における戦いかたは、シンプルに5パターンに分けられる。書籍『売れるネットショップ開業・運営 eコマース担当者・店長が身につけておくべき新・100の法則。』(坂本悟史・川村トモエ著)にある「EC4タイプ理論」をもとにした、阿部さんオリジナルの「リスティング広告5タイプ理論」だ。
「まず4タイプを簡単に説明すると、世の中には『指名買い』と『衝動買い』しかないとしています。その中で、『有名ブランド』『ニッチ』『オリジナル』『総合』に分けられると。『リスティング広告5タイプ理論』では、最後の総合タイプをさらにAとBに分けています。この5タイプごと、それぞれフレームワークがあります」
タイプ | 特徴 | 商材例 |
---|---|---|
有名ブランド | 商品数が多く、指名買いが中心 | 家電、購入時計など |
ニッチ | 検索ユーザーが限られるニッチなもの | 剣道の防具など |
オリジナル | 商品数が少なく、衝動買いが多い | シャンプー、コスメ、青汁など単品通販 |
総合(A) | 商品数・競合が多い | 有名ブランド除いた『アジアン家具』やDIY |
総合(B) | ザ・通販 | 胡蝶蘭や近江牛など専門店 |
有名ブランドタイプのポートフォリオ
「指名買いなので、検索連動型広告とリマーケティング、最近話題になっている、ショッピング広告(旧称:商品リスト広告)が効果的です。商品数が多すぎて人間技では追いつかないなら、動的検索広告や自動入札機能も有効です。商材キーワードを徹底的に網羅するため、テクノロジーと共存することが重要なタイプになります」
ニッチタイプのポートフォリオ
「こちらも指名買いなので、検索連動型広告とリマーケティング、ショッピング広告が中心です。ニッチワード、専門用語の網羅をぜひやってください。Yahoo!で検索したキーワードを、トリガーにYDNの広告を出ことができるサーチターゲティングも、いつかの需要を生むために重要です」
オリジナルタイプのポートフォリオ
「『あなたの悩みを解決します』とメッセージを出して、衝動買いを促すので、コンテンツ向け広告が検索連動型広告より上回っていないといけません。ランディングページやバナーなどのクリエイティブ、ストーリーで強弱をつけてリマーケティングを出していくことも重要です。本当に新しいことをやりたいんだという方には、YouTubeにTrueView動画広告を出すのもいいと思います」
総合タイプAのポートフォリオ
「商品数も競合も多いたいへんなタイプですが、やれることはあります。まず、検索連動型広告、リマーケティングをしっかりやる。そして、一部指名買いも入ってくるので、ブランド名、カテゴリー、型番、品番といったキーワードを網羅します。ショッピング広告、動的リマーケティングも重要です。ポイントは『競合よりしっかりやること』。競合アカウントはすぐに見られますので、ぜひチェックしてください」
総合タイプBのポートフォリオ
「お中元、お歳暮、父の日、母の日といったように、イベントが作っていけるので、検索連動型広告、コンテンツ向け広告どちらでもコンバージョンがとれます。一度購入したユーザーの引き上げが有効です。また、今回は大々的に紹介していませんでしたが、すべてのタイプでFacebook広告は非常に有効に働くはずです。まだ出したことがない場合はぜひ、挑戦してみてください」
まとめ
最後に阿部さんは、「リスティング広告には型があるということを知り、商材やフェーズに合わせて、勝てる戦いかたを見つけてください。そして、1年前によかったやりかたは、いまは有効でないということ。『守破離』という言葉がありますが、型を壊して、新たな取り組みをしてください。それでも困ったら、ECの基本である『誰に何を売っているのか』に立ち返りましょう。それがわかれば、テクニックなど知らなくともなんとかなります」と述べ、講演を締めくくった。