EC-CUBEバージョンアップ! ブラウザに限定しない「買う場」のプラットフォームへ
2015年7月1日に、オープンソースのECサイト構築プラットフォーム「EC-CUBE」がリニューアルし、バージョン「3」となった。その日に発表されたリリースによれば、バージョンアップ後の大きな特徴は、「内部機構の刷新」「ユーザーインターフェースの刷新」「APIの実装」の3つ。
わかりやすくいえば、EC事業者にとっては、オムニチャネルやIoT、今後登場してくる新たなテクノロジーやマーケティングツールと連携しやすく、消費者にとっては、よりスムースに買いやすくなるECを目指してのリニューアルだ。
「ECだからといって、必ずしもウェブブラウザでモノを買うとは限らない時代です。デバイスが多様になり、アプリ、キュレーションメディア、ソーシャルメディア等でECサイトに移行せずにショッピングができるわけです。そういった環境下でECプラットフォームに求められるのは何かを突き詰めていくと、既存のEC-CUBEの延長線上ではなく、新しく描き直す必要があったため、今回のバージョンアップとなりました。
EC-CUBEは、2007年には携帯3キャリアに対応、2011年にスマホECサイトに対応と、いち早く、その時の最新デバイスに対応してきました。今回も、バージョン3リリースの第一段階として、まずは『アプリ』を、大手EC事業者さんでなくとも、簡単に作れる環境を整えています」
EC-CUBEの統括責任者である、株式会社ロックオンの金陽信さんは今回のリニューアルの背景、目的をそう語る。その反響は、EC業界内のみに限らなかったようで、このインタビュー時点で、バージョン3のリリースから約2ヵ月だが、これまでとは異なるジャンルの企業から、パートナーの申し込みが寄せられているという。
「まずは、アプリ制作会社さんから、続々とお問い合わせをいただいています。キュレーションメディアであったり、コンテンツマーケティングであったり、一見、ショッピングから少し遠いところにいらっしゃる方々です。これまでのEC-CUBE2では、少し距離があると感じられていたようなのですが、EC-CUBE3では、もっと簡単につなげられるんじゃないかと期待を寄せていただいています。メディアに限らず、たくさんの会員を抱えていらっしゃるところから、広告を見せるのではなく、その場でモノを買っていただく仕組みを作りたいとのお問い合わせもいただいています。
アプリやメディア、送客の場ではなく、そこですぐに買える場になるわけです。これは、EC-CUBE3の特徴の1つである『ユーザーインターフェースの刷新』とも関連してくるのですけれど、これまでECは、メディアで広告を見せて、お客様にECサイトまで来ていただいて、そこで購入していただくという流れがあったと思いますが、このステップがもっと短縮される流れになるのではないでしょうか。ウェブブラウザが広告をブロックするといった話も出てきていますし、長期的に見れば、EC事業者にとっても重要な変化だと考えています」
言わば、『時世代のEC』を切り拓いていこうとしている人たちの、期待に応えるバージョンアップとなったわけだ。
「もちろん、ウェブ制作会社など、従来のパートナーから寄せられている『メルマガのコンバージョンが落ちているので、プッシュ通知がしたい』といった、EC運営の延長線上に出てきている変化にも対応しています。
さまざまなバズワードが出てきては消えていくように、ECは変化が激しく、この先どうなるかわからないというのが、EC事業者、マーケターの方々の本音でしょう。だからこそ、新たなテクノロジーと素早く連携して、トライアンドエラーを繰り返していくことが重要です。それを実現するために、EC-CUBEバージョン3は、基本的な機能以外をそぎ落とし、バージョン2よりもぐっとシンプルにしています」
次ページからは、さらに具体的に、今EC事業者が取り組んでいる施策を見ていこう。
先が見えないEC業界、トライアンドエラーで独自のサイトへ
EC-CUBEといえば、モール全盛期から、そのカスタマイズ性の高さで、独自ドメインのECサイトの基盤になってきた。昨今はアパレルを中心に、自社ECサイトを強化する傾向が見られるが、EC-CUBEを利用する先進企業は、どのようなことに取り組んでいるのだろうか。
「自社のオリジナリティを大切にされ、ブランディングに取り組まれていることに変わりありません。ストーリーのあるデザインで、商品への思いを全面に押し出した売りかたをされています。いくら商材自体に製品力があったとしても、それがきちんと伝わらなければ意味がありませんから。また、他サイトと同じような商品を扱っているとしたら、そのショップで買いたいと思わせることができるかがポイントでしょう。皆さん、接客など価格競争ではないところで勝負されています。
そこに加えて、最近はやはり『オムニチャネル』です。具体的には、ポイントカードをアプリで提供したり、ウェブと実店舗をつなげたりといった施策が出てきています。ほかにも、サブスクリプションコマースにいち早く取り組まれた事例もありました。見せかたと売りかた、この2つを独自に工夫できるのがEC-CUBEの強みです」
それができれば、巨大モールに負けず、独自サイトも生き残れるということだろうか。
「いえいえ、ショッピングモールさんたちと争う必要はないんです。リアルでも、お客様はさまざまなところにいらっしゃるので、いろいろなところにお店を出すじゃないですか。それがネットだと、すぐに競争といった発想になりがちなのですが、同じように、それぞれの場にあったネットショップを戦略的に出せばいいわけです。EC-CUBEでは、在庫連動も可能ですし。
もちろん、独自サイトは独自サイトなりの戦略を立てる必要があります。独自サイトは、ショップ運営者が前に立ち、ショップの顔になれるのが特徴です。システムに任せるのではなく、人が接客する。繰り返しになりますが、EC-CUBEはカスタマイズができることが強みなので、戦略にあわせて、見せかた、売りかたを工夫していただければと思います」
独自サイトを構築するにあたり、比較対象となってきた、スクラッチでの構築と、ASPカート。バージョンアップにより、さらなる差別化は生まれたのだろうか。
「先ほど、ECは変化が激しく、この先どうなるかわからない。新たなテクノロジーと素早く連携して、トライアンドエラーを繰り返していくことが重要だと述べましたが、それが、EC-CUBE3では可能になります。
カートASPであれば、そのカートが対応しているサービスしか使えませんが、EC-CUBEならプラグインで提供されているものはすぐに使えますし、まだ提供されていないものでも、パートナー会社に依頼することで、自社が望むサービスと次々に連携していけます。一方で、スクラッチは作ってしまったら、取り返しがつかないこともあります。それがプラグイン式であれば、トライしてあわなければ、すぐにやめることができます。
実は、EC-CUBEバージョン2までは、そうした連携に時間がかかっていたんです。新しいマーケティングツールは、1週間お試し無料、はじめの1ヶ月は料金がオトクといった形でサービスを提供されることが多いのですが、バージョン2までは、制作会社さんの開発に時間がかかり、オトクな期間にトライできなかった、ということも起きていました。EC-CUBE3では、この課題を解決し、新しいサービスが出てきたら、なる早でトライできるような環境を整えています」
外部のツールと連携する「プラグイン」を提供する、EC-CUBE3の「オーナーズストア」もオープン。2015年内に、50本のプラグインリリースを目指すとのことだ。
ECはもっとリアルに近づき、もっと多様化していく
EC-CUBE3へのバージョンアップは、テクノロジーに強いベンダーたちからも喜ばれているという。これまで説明してきたような、新たなECへの挑戦が可能になったこともあるが、現実的に、セキュリティレベルがさらに向上したというのも一因だ。
「ECのシステムにおいて、セキュリティは外せない観点の1つです。これまでのEC-CUBE2もセキュアに作ってきましたが、バージョン3では、これまで以上に、カスタマイズなどを行っている際にも、セキュリティの不具合が起こりづらいようになっています。
わかりやすく言うと、バージョン2では、カスタマイズする制作会社さんの力量によって、セキュリティの不具合が起きる可能性が左右されていました。今回のバージョン3では、より、制作会社さんの力量に依存しないように作ってあります。もう1つは、アップデートがしやすくなったこと。今後、新たな不具合が発生しても、アップデートすることで、すぐに安心してお使いいただけるようになりました」
最後に改めて、株式会社ロックオン、EC-CUBE、そして金さんが見るECの未来についてうかがった。
「ECだからといって、必ずしもウェブブラウザで買うとは限らない時代になってきていると述べましたが、今後増えていく、シニア層のEC利用を考えてみると、電話で注文できてもいいわけです。
たとえば、化粧品の定期購入をしているとして、まだ使い切れていないので今月は、いつもより遅く送ってほしいという時がある。その際に、サイトにログインして、自分で1週間後に設定してというやりかたが、すべての人にとって使いやすいとは限りません。それよりはサイトに掲載されている電話番号にかけて、宅配便の再配達と同じように、機械音声で日時を変更できたら、ECのユーザーの層が結果的に広がるのではないでしょうか。
このように、ECはもっとリアルに近づいて、もっと多様になっていくと考えています。マーケティング施策、触れるデバイス、物流の受取場所など、すでにその動きは出てきています。その変化が、1つの方向に向かうのではなく、さまざまな方向にすごいスピードで進んでいくという形で起こると思うんです。
その1つひとつの変化に、都度対応していくのではなく、すべての基盤になりたいと考えて、EC-CUBE3を作りました。多様なECを実現したいという思いは、私も、株式会社ロックオンという会社も、はじめてEC-CUBEを作ったときから変わらないのですが、時代が求める多様化のスピードがさらに早くなり、EC-CUBE3ならそれに対応できると自負しています」
その多様化の具現化や株式会社ロックオンが考えるECの未来については、9月7日に開催されるイベント『EC-CUBE DAY 2015』で語られる予定とのこと。EC-CUBE3を基盤に、どのような新しいECが生まれていくのか、これからも注目したい。
9月7日開催!「EC-CUBE DAY 2015 ~未来(あした)の店舗を創造する~」
パルコ、ジュンク堂、LINE Business Partnersなど有名企業多数が登壇し、ネットでの新しい売りかたを考えるイベント「EC-CUBE DAY 2015」が秋葉原で開催。
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