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MMOL Holdings河野氏がホットなトピックに迫る! EC×AI活用最前線

2026年はエージェント決済元年? 「AIに財布を預ける」が浸透する中、ECサイトに必要な備えとは

Shopifyの動きから未来のコマースとEC事業者のToDoを探ろう

 ここからは、AP2をどのように活用していけば良いか、各プラットフォーマーのこれまでの動きを、未来の展望も含めつつ確認していきましょう。まずは、ShopifyにおけるAP2搭載の現状と今後についてお伝えします。

第1段階:同意フローの設計

 エージェント決済を利用するには、まずユーザーの明示的な同意を得るUIの実装が必要です。Shopifyでは、直近のアップデートでCheckout Kit内に「AI Purchase Consent」モジュールが追加されています。これにより、商品説明ページで「このアイテムをAIアシスタント経由で購入可能にする」といったオプションを、簡単に実装できるようになりました。

 ここで重要なのは、同意の粒度です。マーチャントは、全商品を一括で許可する仕組みではなく、「カテゴリー別」「価格帯別」「ブランド別」といったように、エージェント決済を許可する範囲を顧客自身が選べるような設計にする必要があります。

第2段階:KPIの再定義

 エージェント決済を含めた新たな購買行動に対応すると、従来のEC指標での成果の測定が難しくなります。追うべき指標を設定し直しましょう。今後見ていくべき数値は、次の通りです。

  • CAR(Conversational Adoption Rate):会話内での商品採用率
  • APC(Agent Payment Conversion):エージェント経由の決済完了率
  • MDT(Mandate Duration Time):委任権限の平均継続期間
  • ARV(Agent Referred Value):エージェント推奨による売上貢献度

 中でも特に注目すべきは、MDTです。ユーザーがAIにどれだけ長い期間決済を任せ続けるかは、サービス全体の信頼性を示す重要な指標となります。

第3段階:リスク管理体制の構築

 ここから先は、未来の話になります。今後実装される可能性が高いと考えられますが、いつどのような形で実現するかは未定である点を踏まえて、ご覧いただければと思います。

 人がAIに権限を移譲するエージェント決済には、これまでのECとは異なる新たなリスクが潜みます。最大のリスクは、悪意あるユーザーが特殊な命令文(プロンプト)によって運営者が意図しない動作や不正購入をAIに促す「プロンプト・インジェクション攻撃」です。この対策としては、決済前の異常検知AIを二重に配置する「ダブルチェック・アーキテクチャ」が推奨されています。

 また、買いすぎ防止も重要な課題です。適切なマンデートが設定されていない場合、AIは良かれと思って最適化を追求し、ユーザーの想定以上の金額や頻度で商品購入を繰り返してしまう可能性があります。こうした事象が起きないよう、マーチャント側は段階的なアラート機能を実装したり、機械学習による購買パターンの分析を行ったりといった工夫を施すと良いでしょう。Shopifyは今後、こうした機能アップデートの強化にも取り組むと予想されています。

第4段階:A2A連携の実装

 エージェントコマースの最終段階は、エージェント同士の連携です。たとえば、料理レシピを提案するAIが、食材調達AIと連携して自動発注する━━そんな便利な世界も、恐らく2026年中盤以降を目安に、現実となっていくでしょう。

 Shopifyは既にAnthropicが提唱する標準規格「MCP(Model Context Protocol)」に対応したサーバーを公開し、異なるAIサービス間での商品情報共有を可能にしました。これにより、ChatGPTで相談した商品をClaudeで価格比較し、Geminiで在庫確認するといったクロスプラットフォーム体験が実現できるのはないかと期待されています。こうなると、いよいよECのあり方も根本から変わっていくに違いありません。

エージェントコマース移行をドライブするCheckout Kit

 前述したCheckout Kitについても、改めてここで知識を深めておきましょう。Shopifyは既に、あらゆるアプリやプラットフォーム(特にAIエージェント上)に自社のチェックアウト機能が埋め込めるツールキットを、Checkout Kitと名づけて提供しています。

 Checkout Kitを使えば、UIレンダリングや決済処理といったエージェント決済に必要な機能をShopifyが肩代わりしてくれます。開発者は商品カートのURLを用意し、わずか数行のコードを書くだけで自社アプリにネイティブな購入フローを実装できるため、大きな注目を集めている機能です。

Checkout Kitの特長

  • 既存のストア体験を保持したまま、エージェントコマースを実現:販売者がカスタマイズしたチェックアウト画面や、割引ルール、配送設定、ブランディングなどといったビジネスロジックをそのままエージェント上に再現。これにより、エージェント経由でも自社ブランド価値や顧客関係を損なわないブランド独自の購入体験が提供できます。
  • コンプライアンス対応の負担軽減:GDPR(EU一般データ保護規則)やCCPA(カリフォルニア州消費者プライバシー法)、PCI DSS 4.0(クレジットカード情報を安全に取り扱うためのセキュリティ基準)などといった、グローバルを含むプライバシー・決済規制にデフォルトで対応。170以上の国と地域で利用実績があるShopifyの決済基盤をそのまま活用できるため、エージェントやマーチャント側での個別対応の負担を軽減します。
  • コンバージョン率の維持、向上に貢献:Shopifyは、数億人規模のユーザーネットワークを有する決済方法「Shop Pay」を有しています。こうした機能の提供によって、Shopifyは他プラットフォーム比で最大36%CVRが高いというデータもあり(Shopify・BCG調べ)、Checkout Kitでは同基盤を利用したスムーズな購買体験が構築できる点が強みだといえます。
  • チェックアウト画面開発が容易に:Checkout Kitは、Swift、Kotlin、React Native、Flutterといった主要なモバイル開発環境向けのSDKが用意されています。自前で完璧なチェックアウトを作らずとも、数行の実装でShopifyの堅牢な決済体験を組み込めるのは、大きな魅力です。

 今回は、既に実用化が進んでいるShopifyに絞って紹介しましたが、エージェント決済については恐らく今後、あらゆるECプラットフォームやベンダーが同じような仕組みを用いて実装を進めていくでしょう。

次のページ
海外事例から探るエージェントコマースの覇権争い

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この記事の著者

ミリモルホールディングス株式会社 代表取締役/CAIO 河野貴伸(コウノタカノブ)

 1982年生まれ。東京の下町生まれ、下町育ち。からくり人形師を祖に持つ河野家の十五代目。2000年からフリーランスのCGクリエイター、作曲家、デザイナーとして活動。2013年、ブランディングエージェンシー、株式会社フラクタ創業、代表取締役就任。2020年、上場企業にバイアウト。2024年1月、フラ...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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