Amazon=小売最大規模・最強のAI 有効活用に向けた第一歩は?
EC展開する小売事業者やメーカーが、持続的成長を遂げる上で外せない巨大チャネルのAmazon。しかし、“売上”という目の前の数字だけに固執すると「見せかけのROAS(広告費用対効果)を追い求め、無駄な出費や本質的ではない運用の落とし穴にはまってしまう」と、メーカー特化のBPaaS(BPO+SaaS)事業を手がける株式会社GROOVEの田中氏は問題提起する。
「世の中には様々なソリューションがありますが、私が考える小売業界における最大規模かつ最強のAIはAmazonです。Amazonを単なる“売り場”としてではなく、膨大な購買データと高度なレコメンデーションエンジン、アルゴリズムを有する“AIプラットフォーム”として捉えEC戦略の起点に置くことで、EC事業そのものの最適化と成長につなげられます」(田中氏)
田中氏は、アマゾンジャパン合同会社に新卒1期生として入社した後に独立し、Amazonコンサルティングを手がけるGROOVEと、Amazon D2Cメーカーの株式会社AINEXTを創業。自身の経験を結集した結果、この考えに行き着いたという。
「Amazonの最適化を考える際には、まず自社のブランドが四つのうちどのフェーズにあるかを認識しましょう。売上最大化に向けた戦略策定、つまり市場調査や競合分析をすべきターンなのか、広告運用、主力商品を育てるべきターンなのか。一定の売上は上がるようになったが正しい拡大、撤退の判断をすべきなのか。これによって打ち手は変わります」(田中氏)
たとえば、準備期には市場調査や肯定的・否定的なレビューの比較、キーワード分析など攻め込みたい市場の現状と参入余地を探る。こうすることで、次のステップの立ち上げ期にコストパフォーマンスの良いキーワードへの広告投資が可能となる。そして、次なる立ち上げ期で最も重要なのが「アルゴリズムの攻略」だ。
「端的にいえば、Amazonのアルゴリズムは『売れれば売れるほど、検索順位も上がる』仕様になっています。つまり、売上を最大化するには、“売るための実績”を先に作らなければならないのです。そのためには、クリック率やCVRを上げるためのページやクリエイティブ改善、広告運用が欠かせません。
ここでベストセラーの称号が得られると、成長期にはまったく違った景色が見えます。売れると類似した商品が出るなどして競合も増えるので、ヒーロー商品や主力商品をさらに伸ばす施策が必要です。ここで多くの方が、CPA(顧客獲得単価)やCPC(クリック単価)の悪化といった壁にぶつかります」(田中氏)
田中氏は、ここで多くの事業者が行うブランドキーワードでの広告出稿に「あまり本質的な策ではない」と警鐘を鳴らす。なぜなら、ブランド名を既に認知してAmazon内で検索するほどの消費者は、もともと商品への関心や購入意欲が高いと考えられるからだ。
「ROASは確実に上がりますが、これはもったいない出費です。GROOVEではこうした見せかけのAmazon広告運用はおすすめしません。Amazonで成長期、成熟期に差し掛かった事業者にはポジション確保、いわゆるディフェンスとしての一般キーワード出稿と商品改良、そしてAmazon内指名検索を増やすために外部でブランド認知施策を行うようにアドバイスしています」(田中氏)
Amazonで売るのになぜフルチャネル戦略なのか
Amazon内での売上改善のために、Amazon外で施策を行う。田中氏がこうしたアドバイスをするのは、売上増をかなえる上でそもそもの需要拡大が必須だからだ。同氏はさらに、Amazonを含む各チャネルと消費者感度の関係を表す図表を見せながら、こう説明する。
「Amazonは、実店舗を含む販売チャネルの中では比較的感度の高い消費者を取り込めるチャネルで、イノベーター理論でいうアーリーアダプターからレイトマジョリティーをカバーしていると考えられます。あらゆる集客チャネル、販売チャネルの中でAmazonはほぼ真ん中を押さえており、フルチャネル・フルファネルの施策を展開する上で欠かせない要素だといえるでしょう」(田中氏)
図には集客チャネルの例も挙げられているが、この勢力図には“ある変化”が起きつつある。それは、SNSの台頭がもたらすマスメディアの改革と、TikTok Shopのローンチを代表とする集客チャネルと販売チャネルの融合だ。
「特にTikTok Shopは、新たなECモデルとして業界の空気感を大きく変えていくでしょう。『新しいチャネルができたからついでに』とTikTokを使ったコンテンツマーケティングを始めた事業者が、結果的にTikTokだけでなく、Amazonでの指名検索増などのリターンを得ている事例も出ています」(田中氏)
AmazonをはじめとするECモールとTikTok Shopの大きな違いは、消費者と商品の関係性だ。前者は消費者が商品を探す「検索型EC」であり、後者はAIのレコメンドにより商品が顧客を探す「ディスカバリー型EC」となっている。閲覧行動を軸にしながら偶発的なコンテンツ・商品との出会いを生むTikTokの仕組みは、これまでのチャネルにはない目新しいものであり、田中氏は「こうした特性と現代の消費者のカスタマージャーニーを踏まえた上で、フルチャネル戦略を仕掛けるべき」と提唱する。
「現代の消費者は、あらゆるチャネルを駆使して購入までに3回以上該当商品の情報に接触するといわれています。たとえば、あるコスメをAmazonで購入するまでに、テレビCM、店頭、SNS上でのインフルエンサーの投稿と様々なチャネルで接触していることは珍しくありません。こうした組み合わせが無数にあると考えると、特定のチャネルの施策に終始せず、フルチャネル×フルファネルで同時に施策を走らせる重要性が理解できるのではないでしょうか」(田中氏)
インフルエンサー起用は“情報の連鎖反応”も意識した設計を
SNSから新たなコマースの潮流も生まれる今、フルチャネル×フルファネルで施策を展開するには、SNSで発信力や影響力をもつクリエイターの活用も欠かせない。田中氏はファネルごとに適切な仕掛けを施す上で「彼らを次の三つのタイプに分けて捉えるべき」だと語った。
- エンターテイナー:バズるコンテンツを制作・発信できる影響力のある人
- インフルエンサー:ブランド・商品のペルソナ(ターゲット層)と合致し、消費者にもクリエイターにも参考になる情報を発信できる人
- アフィリエイター:消費者に最も近い存在として、購買の決め手になりやすい情報を提供してくれる人
「アプローチできるファネルや消費者層が異なるクリエイターをどこにアサインするかは、非常に重要です。各ファネルで適切なクリエイターをアサインできれば、情報の連鎖反応にも期待ができます。
重要なのは、単にクリエイターを活用するだけでなく、カスタマージャーニーを意識したブランドコミュニケーションの設計です。たとえば、インフルエンサーにTikTokやInstagramで取り上げてもらい、認知を獲得したところで興味をもった消費者が見た比較メディアに商品情報が掲載されているか。後日、同一カテゴリーの商品をAmazonで購入しようと思った際に検索一覧のトップに出てきて、存在を思い出して購入に至るといった導線が描けているかといったように、あらゆるパターンを想定した施策展開が欠かせません」(田中氏)
セール時に売上最大10倍の事例も AMCが後押しするフルチャネル×フルファネル戦略
Amazonの売上アップに欠かせないブランドキーワードの検索ボリューム増。そのゴールにたどり着くには、Amazonのアルゴリズムを踏まえつつ、特定のチャネルに固執しない幅広いアプローチが必要だとここまでの説明で理解できただろう。その上で、田中氏はAmazonを起点に売上創出とデータ収集を行う意義を次のように説明する。
「Amazonはもはや、ただの“売り場”ではありません。購買の決定打となるカスタマーレビューや動画配信プラットフォーム『Prime Video』を有するメディアであり、近年は『Amazon Marketing Cloud(AMC)』を核とする統合データプラットフォームに進化しています。そして、あらゆる小売のデータを統合して分析できるAMCは、フルチャネル×フルファネル戦略を描く上で大いに役立ちます」(田中氏)
ここで、GROOVEが支援したあるスキンケア・ヘアケア商材の事例が紹介された。同ブランドはAMCを用いた分析により、AmazonDSP広告経由購入の既存顧客率が高いことが発覚。いわゆる“もったいない出費”であることが明らかになり、外部施策を含めた広告予算の再配分を行った結果、Amazon Prime Day、ブラックフライデーといった大型セール時の売上が最大で10倍にも跳ね上がったという。
「AMCオーディエンスを活用すれば、Amazonに限らず自社のもつシグナルと紐づけたカスタムオーディエンスの作成やクロスチャネル分析も可能です。感覚的にではなく、データに基づいたユーザー行動の可視化と把握ができますので、ぜひこの究極のAIを突破口として活用してみてはいかがでしょうか。
私は著書『【超完全版】Amazonビジネス大全 「ゼロ」から年商1億円の最短ルート』(KADOKAWA)やYouTube『たなけんのEC大学』でも情報発信をしています。Amazon研究をさらに深めたいという方は、ぜひご活用ください」(田中氏)

