変化しつつある既存のマーケティングファネル 意識すべきは生活者の“グラデーション”
定性調査から見えた情報行動の変化の兆し。「Searching」「Streaming」「Scrolling」と3つのカテゴリーに分類した上でそれぞれの関係性を読み解くために、Googleは定量調査を行った。そこから見えたのは、次の3つの特徴だ。
特徴1:特定のプラットフォームに縛られない情報行動
朴氏はまず、行動ごとに利用するプラットフォームが縛られていない点に触れた。「2人に1人が検索サイト以外でもSearching/動画配信サービス以外でもStreaming」「3人に2人がSNS以外でもScrolling」するという結果からもわかるように、情報行動と使われるアプリ・サービスが1対1では結びつけられない時代になりつつある。
この結果は、既存のチャネル別マーケティング戦略では現代の生活者に対応しきれない可能性を示唆している。YouTubeをはじめとする各SNSにコマース機能が付与され、AIエージェントとの会話から商品比較と購入が実現しつつある現状から、私たちは今後さらにこの傾向が進むかもしれないと予想し、新たな対策を練っておく必要があるのかもしれない。
「『ECサイトは購入チャネル』といったように垣根を設けず、Searching・Streaming・Scrollingすべての役割を担う媒体であると認識するところからアプローチの変化は始まります。情報探索時に生成AIサービスを使う日本のユーザーも既に全世代で13.2%、Z世代で18.4%と増えていますので、情報行動と特定のプラットフォームを結びつけることは今後より困難になるでしょう」
特徴2:期待される情報は共通
各行動で用いられるプラットフォームに明確な区分けがなくなりつつあるのと同様に、求められる役割も共通化が進んでいる。ただし「それぞれの情報行動で、期待する要素や目的に絶妙な変化があるのが興味深い点」だと朴氏は説明した。
たとえば、潜在的なニーズの掘り起こしや新たな欲求の創出に寄与するScrollingに求められている要素の1位は「面白い・興味深い情報を見つけたい」である一方で、確信を得るための手段として使われるSearchingには、「正しい情報が欲しい」と回答する生活者が最も多い結果となった。
「SearchingとStreamingでは『商品のレビューや使用感を把握したい』という項目が共通して2位に挙げられています。この結果からも、情報を得る際に特定の行動・チャネルだけで判断せず、それぞれの行動が重なり合ってグラデーションを描いている様子がうかがえます」

特徴3:買い物における順不同
ここまで紹介してきた3つの情報行動について、中には「認知獲得を優先したい場合はどれに注力すべきか」と、施策実施に向けた絞り込みをしたい人もいるだろう。しかし、朴氏は「出会いから商品理解、比較検討、購入までのすべての段階で、3つの情報行動がほぼ等しく行われていた」と説明した。
「つまり、Searching・Streaming・Scrollingのどれもがファネルのすべてに作用する可能性を秘めているということです。
実際に生活者の行動を分析したところ、中には認知から購入に直結しているケースも存在しました。つまり、既存の『認知→興味・関心→比較・検討→購入』といったファネルが崩壊しつつあるということです。これは多くのマーケターにとって衝撃的な結果といえるのではないでしょうか」
朴氏の話をまとめると、Searchingで適切な情報提供をすればそのまま一直線に購入につながる可能性がある一方で、同じプラットフォームをファネルにおける複数のフェーズで活用するケースもあり、ファネルと情報行動は単純に紐づけられないとのことだ。
では、情報伝達のスピードが増し、これまで王道とされた法則に当てはまらない事象が増える中で、売上創出を目標とするEC担当者はどうすべきなのか。その問いに対し、朴氏はこう答えを示した。
「生活者が購入を決断する理由は、情報そのものに価値を見出したからではなく、そこから自分の悩みやニーズに気づいたからです。認知から購買までの距離が極限まで縮まるケースもある中、生活者が最も欲しがっているのは『自分自身に関係するインサイト』です。
従来、インサイトを提供するのはマーケターやリサーチャーの仕事だったかもしれません。しかし、今は生活者自身がAIという相棒を得て、自分1人では気づけなかったニーズや選択肢を発見できるようになりつつあります。
そんな中、企業が極めるべきは単に情報の量を増やすことではなく、生活者が『自分のための選択肢だ』と納得できるような理由、つまり主体的な買い物の判断、決断を手助けする意味ある情報の提供です」
情報ドリフティングをする生活者が求めるのは“最善である根拠”
生活者が情報の大海原に身を任せながらも、一定の主体性をもって求める情報にたどり着こうとする一連の行動。Googleは、今回の調査から見えたこの動きを「情報ドリフティング」と名付けた。
「今後、情報ドリフティングはさらにパーソナルなものへと進化していくでしょう。生活者はAIに対して、自分では思いつかない、気付けないような情報の提供をしてほしい、本当に意味のある情報を選び取り、最善の選択をするためのヒントを与えてほしいと期待を寄せるはずです」
そこで求められるのは、「なぜ最善なのか」という理由だ。単に選択肢として自社の製品やサービスを見せるだけでなく、インサイトを得て確信をもった買い物に踏み切る“根拠”を提供する。これらをインターネット上で実現するには、Googleのサービス活用も欠かせない。朴氏は最後にこのように語り、トークを締めくくった。
「Googleが提供するサービスは、Searching・Streaming・Scrollingの至るところで使われています。毎年5兆回以上の検索が行われている『Google検索』、コネクテッドTVで見られている放送・動画サービスの中で視聴時間1位の『YouTube』、全世界で月間20億人以上が利用する『YouTube Shorts』は、生活者とブランドを結びつける架け橋になれると思っています。
ぜひ様々な接点をまたぎながら生活者の意図を深く理解し、意味ある情報や新たな発見の提供につなげていただきつつ、GoogleのAIによるさらなるマーケティングの変化にご期待ください」
