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クリエイティブの仕事は「特別な人」しかなれないわけではないと気づいた
━━聞いたところによると、河野さんはインタビューを受けるのがほぼ初めてだそうですね。
河野(MAISON KAPPA) そうですね。どちらかというと「日陰の人」なので(笑)。プロジェクトの表には名前が出なくても、現場を支えている人ってたくさんいるじゃないですか。自分もどちらかといえばそっち側だと思っていて、あまり前に出るタイプではないんです。
石川(MAISON KAPPA) でも、そういう人たちの仕事がないと、ビジネスは回らないですよね。あえて日陰にいる人の声をちゃんと拾って伝えるのも、メディアの役割なのではないか思っています。
━━改めて、これまでのご経歴を簡単に教えてください。
河野 広島の高校を出て、環境を変えたくてアメリカに渡ったのが最初の転機でした。マサチューセッツ州ケープ・コッドの寿司店で職人として働いて、その後に帰国してからは、東京でインテリア雑貨店のアルバイトをしたり、移動式の花屋を始めたりしていました。
そこからプリザーブドフラワーのオンライン販売に舵を切る中で、「ECサイトを自分たちで作らないといけない」という状況になって。そこで初めてデザインやウェブ制作を本格的に学び始めたんです。個人の延長で受けていた制作案件が徐々に広がって、外資系自動車メーカーのウェブマスターを担当することになったタイミングで法人化しました。今は株式会社RESORTの共同創業者でありつつ、MAISON KAPPA を主宰するデザイナー/クリエイティブディレクターとして活動しています。
石川 いわゆる“美大→代理店”といった王道コースではなく、寿司や花、ECの現場を経て今があるのが河野さんらしさですね。
河野 地方にいると、クリエイティブな仕事って「特別な人しかなれないもの」に見えがちなんです。でも、自分のような経路でもちゃんと仕事になるし、生活もできる。だからこそ、「こうあるべきだ」という決めつけには、今でもずっと違和感がありますし、その感覚が今の仕事にもつながっていると思います。
「事故が起きない案件」は、それだけで名誉
――今回は、クリエイティブ畑でありながらECやウェブの案件を手がけられている河野さんが抱える“ある問題意識”について深掘りしたいと思っています。まずは日頃、どんなことを考えているのか教えていただけますか?
河野 ウェブ や EC の現場って、「Aという施策で一気に売上が伸びました」といった派手な成功ストーリーにはなりづらい割に、メディアで脚光を浴びたり経営陣から評価されたりする事例は、「映える一撃」に偏っていますよね。
実際は、「梱包サイズを工夫して利益を守る」「ちょっとだけ意外性のあるデザインにしてクリック率を上げる」「CRMのシナリオを毎週少しずつ磨き込む」といった小さな改善を積み上げて成果を作り上げていくケースがほとんどで。表から見ると何も起きていないように見える案件も、事故が起きないように裏で様々なことにを配慮しているから「何も起きていない」んです。
だから最近は、「事故にならないことは、それだけで十分な名誉だ」と本気で思っています。そして、そういう仕組みを作れていること自体が素晴らしいと思うんですが、こういった観点のクリエイティブデザインができているチームはあまり評価されていない印象です。本来はこうした価値を可視化し、こういった功績にこそスポットライトを当てるべきなのではないかと思っています。
石川 確かに、取り上げられやすいのは派手な成功事例か大きな失敗のどちらかで、その間にある“きちんと回している人たち”は見えにくいですよね。

河野 そうなんです。真面目にやっている人ほど「語るほどのことではない」と思ってしまう。けれど、そういう人たちの積み重ねがないと、そもそもビジネスは成立しない。だから「見せ方」より前に、その土台となる「仕組み」をきちんと見て、評価する文化が必要だと思っています。
