商材拡張・顧客交流の深化・BtoB-ECも? 膨らむ今後の事業展望
藤原 「社長になる」という今までにない経験をしてみて今どう感じていますか?
矢嶋 一言でまとめるのは難しいですが、事業承継でいきなり社長になるのは本当に大変だと痛感しています。今も自問自答や反省の日々です。
中小企業の社長業って、事業を成長させるためのアクセルやブレーキをロジカルにコントロールしつつ、スタッフ一人ひとりに声をかけていく目配りや気配りが常に必要なのかなと。私はそういった“人間力”のようなものが未熟なので、毎日悩みますね。
あと、経営者って注意してくれる人が誰もいないんですよ。暴君になってしまうような、その怖さは常に頭の片隅に置いておかなければと肝に銘じています。ビジネスそのものについては、約1年半取り組んできて経営の幹の部分は整えられつつあるので、今後はどう枝葉を伸ばしていくかに注力していたいです。
藤原 具体的に考えていることはありますか?
矢嶋 たとえば、オイルメーカーと共同開発したハーレー専用の空冷エンジンオイルを2024年に発売したのですが、こうしたPB(プライベートブランド)的な取り組みや、パインバレー会員のお客様とのつながりを深める施策も検討したいです。
また、BtoB-ECも既に現行サイトで需要がありますので、もっとサービスを強化したいと考えています。正直、リソースは限られているので、スタッフと協力してできることから小さく始めて育てていきたいですね。
藤原 矢嶋さんは「一緒にやろうよ」というマインドが強いですね。
矢嶋 20代・30代の若いスタッフが多く、みんな私にはないアイデアや人とのつながりをもっているので、それらを生かして一緒に挑戦していきたいと思っています。仮に失敗しても、学びが得られればそれは立派な成長ですから。
信頼関係の枝葉を広げ、サステナブルなビジネス構築へ
藤原 矢嶋さんの話をまとめると、やはり「ビジネス構造をしっかりと把握すること」「スタッフにとってもお客様にとってもサステナブルなビジネスにしていくこと」が今後より大事になっていきますね。売上より利益が大事ですし、特に中小企業ほど戦い方を間違えてはいけないなと思います。
矢嶋 パインバレーはありがたいことに一定の認知があって、既存のお客様もいらっしゃって、スタッフのおかげでビジネスが運営できている状況です。なので、こうした貴重な資産を店舗でもECでも大事にしながら、新しい領域に取り組んでいくのが良いかなと思っています。
藤原 ハーレー自体が輸入商材なので、越境ECの余地はないのでしょうか?
矢嶋 パーツは為替や関税の影響を受けてしまうので型番商品は難しいですが、私たちならではのオリジナル商品を作って世界に向けて展開する、はありだと思います。
藤原 ヒーロープロダクトが生まれたら無敵ですよね。
矢嶋 そうですね。パインバレーはハーレーをカスタムすることで、お客様に趣味の時間を楽しんでいただいています。そういう意味では、ハーレーやバイク好きな人のライフスタイルにも密接につながっていますよね。スタッフから「アパレルをやりたい」という声も上がってきているので、私の経験を生かしながら、何かできたらいいなと思っています。
藤原 バイクカルチャーとアパレルは相性が良さそうです。今後の取り組みも楽しみにしています。
対談を終えて(300Bridge 藤原氏より)
元ビームスの矢嶋さんがパインバレーの社長に就任されたと聞いたときは驚きましたが、今回お話をうかがい、その挑戦の裏にある確かな戦略と情熱を感じました。
大企業で培った顧客視点やデジタル戦略の知見を、中小企業の戦い方に合わせて見事に昇華させている点は、多くの経営者にとって示唆に富むものだったのではないでしょうか。「情報の民主化」で裾野を広げ、「顔が見えるハーレー屋」として顧客との深い信頼関係を築く。そして「ESあってのCS」という哲学。これらはすべて、これからの時代に求められるサステナブルな経営だと思います。
趣味を仕事にし、仲間と共に新たな価値を創造しようとする矢嶋さんの挑戦は、パインバレーの未来を明るく照らすだけでなく、私にも勇気を与えてくれました。今後のさらなる飛躍を心から楽しみにしています。