9月に意思決定し翌年3月にオープン スピードを支えた社内文化とは
2025年3月、アイリスオーヤマの自社ECサイト「アイリスプラザ」がマーケットプレイス機能を追加した。他社が同サイトに出店し、商品を直接販売できる。大手ECモールをイメージするとわかりやすいだろう。一メーカーが自社ECサイトをマーケットプレイス化する事例は、国内では珍しいといえる。それでも挑戦する理由を川浪氏はこう語った。
「私たちが目指すのは、『ワンストップショッピング』の実現です。『アイリスプラザ』に1度来れば、必要なものがすべて手に入る。そんな売り場を作る手段がマーケットプレイス化でした」

元々「アイリスプラザ」といえば家電や食品、家具、ペット用品、日用品など5万点以上のアイテムを取り扱う豊富な品ぞろえが特徴的だ。会員数は400万人超にのぼる。多くのユーザーが存在し、また商品開発のノウハウがあるにもかかわらず、なぜ他社商品を拡充するのか。
「根本にあるのは『今日の満足は、明日の不満足』という考え方です。日々多様化する顧客ニーズに応え続けるには、自社の商品開発だけでは限界があります。だからこそ、マーケットプレイス化に踏み切りました。『アイリスプラザ』をより日常的にご利用いただける場にしたいのです。食品や消耗品など、お客様が日々必要とするものはもちろん、アイリスグループではカバーしきれていない食品、アパレル、理美容などの領域も強化していきたいと考えています」
今回のマーケットプレイス化には、海外での支援実績があるフランス発・Miraklのソリューションが活用された。同社は450社以上を支援してきた一方で、それらの事例は主に海外企業だ。その分「情報収集には苦労した」と川浪氏は振り返る。
「『アイリスプラザ』のアップデートの検討段階では、そもそも『マーケットプレイス』という仕組みが存在していると知りませんでした。ソリューションありきではなく、作りたい売り場の理想像が先にあったのです。Miraklが蓄積した構築の成功パターンなどをインプットしながら進めました。国内で参考にできる事例はまだ少ないため、最終的な判断は『お客様にとって何が適切か』が基準です」
同社が実際にマーケットプレイス化を決断したのは、2024年9月のことだ。そこから開発に着手し、2025年3月初旬にリリース。初めての試みながら、約半年で形にしている。スムーズにプロジェクトを進行できた理由の一つが社内に根付く風土だった。アイリスグループの広報を担当する岡村響介氏は、次のように補足する。
「アイリスグループは商品開発など様々な判断を行う際に、スタートの段階からトップを巻き込む伴走方式を採用しています。マーケットプレイス化にあたっても、この文化が生きました。アイデアが出た段階から経営層に共有しすぐに承認がとれる体制だったため、プロジェクトを進める上でのハードルは高くなかったと思います」