重要性が増すチャネルの多層化 「Nestlé」の戦略に学ぶ
セッション「North American grocery retail trends for 2025」では、国際市場調査会社・Euromonitor Internationalのミシェル・エヴァンス氏が「小売が収益性向上を目的にブランドとの関係性を再構築している」とトレンドを紹介しました。

具体的なポイントは、小売によるプライベートブランド(PB)開発・販売の強化です。小売が、今までのような販売領域から「商品開発」という上流へ進出しています。一方で、ブランドの間ではD2Cのビジネスモデルを活用して「消費者との直接的な接点の強化」に注力しながら、下流の販売チャネルを開拓する動きが強まっているといいます。
これまで、D2Cの中心といえば新興ブランドでした。それが、現在は既存の大手ブランドもD2Cに参入しています。消費者との関係を強化しながら、より収益性の高い直接的な販売チャネルを構築しているのです。
本セッション内では「Nestlé」の事例も取り上げられました。Nestléは、多層的なアプローチによって収益性と顧客接点を最大化するチャネル戦略を展開しています。たとえば、既存の小売チャネルを引き続き活用する一方で、D2C戦略として「Nespresso」を運営。ブランドのプレミアム価値を維持しながら、消費者と直接つながる仕組みを構築しています。
さらに、Third-Party Delivery Service (サードパーティーデリバリーサービス)を積極的に活用している点も、同ブランドの特徴です。よりダイレクトに消費者に商品を届けています。配送サービスを展開するInstacartやShiptと提携して、注文から短時間での配送を可能に。利便性と即時性を重視する消費者のニーズにも対応しています。
このように、Nestléは小売、D2C、Third-Party Delivery Service を組み合わせたハイブリッドなチャネルミックス戦略を展開しています。今後も消費者の購買行動の変化に合わせて、より多様な販売チャネルの活用が進むと考えられます。
小売とブランドの境界が曖昧になる現象は、一時的なトレンドではありません。消費者の購買行動の移り変わりやテクノロジーの進化、サプライチェーンの多様化によって生じた流通構造な変化です。
この流れは日本市場にも見られます。しかし、米国ほど大規模な融合が進んではいません。こうした中で、小売とブランドが相互に進化し成長を遂げている米国の成功事例は、日本企業にとっても参考になるはずです。
「Levi’s」の事業成長を後押しした3つの柱とは
不確実性が高まり、小売とブランドの境界が曖昧になる中で、企業はどのようにチャネル戦略を進化させるべきか。そう議論するセッションも数多く実施されていました。「Digital Transformation: Insider Insights from Starbucks and Levi’s」で紹介されたのが「Levi’s」の事例です。同ブランドはDXをD2C事業拡大のための推進力と位置づけています。
- Focus on the Fundamentals:カスタマージャーニーの最適化
- Evolve the Assortment:品ぞろえの拡充と欠品の回避
- Digital Flagship Experience:ロイヤルティプログラム「Red Tab Rewards Program」の強化と3,700万人の会員拡大

この3つを柱に、Levi’sはD2C売上比率を約50%まで引き上げています。eコマースを中心とした事業成長の代表的な例だといえるでしょう。