導入で終わらず現場活用してもらうために必要な二つの要素とは
さらにハヤカワ氏は「生成AIはツールを導入して終わりではない。『活用』が大事」だと強調。実際、同氏が目にする範囲でも「導入がゴールとなってしまうと利用率が上がらず、10%以下という企業も少なくない。研修を開くなど、推進活動を行っても20〜30%程度が相場といわれている」と続けた。
「既存フローが最適化されている」と思い込む現場に新たなツールを浸透させるには、活用によるメリットを実感できるような働きかけが必要だ。ハヤカワ氏は、必要な要素として「データ」と「現場知識」の二つを挙げる。
「EC事業者の場合、ユーザーの行動・購買データや広告のトラフィックデータなどを既に有しているはずです。こうしたデータをまとめたExcelなどの集計ファイルや、ドキュメント化したマニュアルなども含め、社内に散らばる膨大なデータを洗い出して学習させ、精度向上に生かす。これらを行わなければ、『使える生成AI』にはなりません」
そして、もう一つ大切なのが現場目線での使いやすさの追求だ。実務の流れや課題感が見えていなければ、どこにどう生成AIを適用すべきかも見えてこない。適切な役割を与えなければ、当然ながら生成AIも効果を発揮できないため、「使えないAI」だと判断されてしまう。こうしたミスマッチを軽減するのも、生成AIの導入を推進する際に求められる働きかけだといえよう。
単純作業からクリエイティブ業務まで EC運用×生成AI活用例を紹介
ここまで生成AI活用と推進の勘どころについて触れたが、実際にEC事業者が業務に取り入れるにはどこから始めると良いのだろうか。ハヤカワ氏は過去のEC事業経験を踏まえ、中小事業者でも比較的取り入れやすい具体例を複数紹介した。
まずハヤカワ氏が触れたのは、自社ECとECモールといったように、多チャネル展開を行う事業者にお勧めしたい「データ統合・連携の効率化」だ。
「生成AIは、データを解析した上で指定したフォーマットに変換するのが得意なため、混在した記述を所定の形式に統一したり、読み込んだファイル内のとある書式を規則に従って書き換えてもらったりといった作業を任せられます。
これにより、たとえば各モールにデータを取り込む際の記述形式が微妙に異なる場合も、人間による変換作業をなくすことが可能です。それぞれのデータを統合して分析する際の負荷軽減も実現できるでしょう」
また、商品カテゴリーなど決められたルールに沿って新商品のSKUを発番するなどの単純作業も、生成AIであれば一瞬で終えられる。一つひとつの作業は短時間でも、事業が大きくなるにつれ大きな負荷となるこうした業務は生成AIに任せ、人間は確認作業のみとするのもケアレスミスを避ける上で有効だ。
なお、クリエイティブ制作の効率化やコストダウンという側面で注目を集めるのが「fotographer.ai」のような画像生成ツールの活用である。同ツールは、白抜きの商品画像をアップロードすれば背景を合成したイメージ画像が生成できるため、従来は撮影をしなければ実現できなかった季節や訴求したい対象に合わせたバリエーションの制作が可能となる。
「このほかにも、動画生成AIの『Runway』では静止画から動画が作り出せるなど、既に高いポテンシャルをもつツールが複数存在します。
まだクオリティーの部分で課題はありますが、次の図のように衣類や下着を着用したモデルの画像から新たなコーディネート画像を生成することも、生成AIであれば可能です。恐らく近いうちに、トルソーに着せた商品を人間のモデルが着用しているように変換するなどの高度な処理もできるようになるでしょう。実用化したらすぐに利用できるよう準備しておくのも、大切だと思います」
ハヤカワ氏は、このほかに注目しているEC運用×生成AI活用の動きとして「動的な商品ページ」や「リアルタイム需要予測と在庫最適化」の実現を挙げた。前者は顧客の属性や閲覧・購買履歴に合わせた画像やテキストを表出して購買意欲を喚起する、いわばOne to Oneに近い施策を実現するもの。そして後者は、過去のデータに加えて「SNS売れ」など、直近の動きを察知して売れ筋予測を立てるといったように、既存の仕組みをより進化させたものだ。
「こうした仕組みは、既に一部のツールで近しいものがベータ版として提供されているケースもあります。また、CSに生成AIを用いて、顧客満足度向上と業務時間の削減をかなえたGMOペパボのような事例も見逃せません」
さらにハヤカワ氏は、SNS更新の簡便化や複数人で運用する際のトンマナ調整に役立つ術として、アバターや架空の担当者画像を生成し、テキストや音声を生成する方法なども紹介した。実際、同氏は「AI五味ちゃん」を使い、TikTokでAI活用に関するノウハウ発信を実施し、一定の手応えを感じているという。
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このように、生成AI活用の可能性はまだまだ広がる一方だ。最後に、ハヤカワ氏は「EC事業者の業務効率化や改善に役立つツールは、今後も続々と登場・進化するはず。一から自身で生成AIを使いこなすのが難しくても、こうした便利なツールの存在や活用トレンドを見逃さないように注目することが大切」と語り、セッションを締めくくった。