味の素グループに足りなかった事業とは? 2030年から逆算して見えた課題
2024年1月、味の素株式会社と味の素冷凍食品株式会社が協業し、サブスクリプションサービス「あえて、」の提供を開始した。混ぜご飯の上におかずをのせた一食完結型の宅配冷食弁当だ。企画者である羽藤氏は、セッション冒頭で「できるだけ手間を省いた食事スタイルの提供を目指す」と説明した。
「お客様の負担を減らす購買方法を追求し、専用のECサイトを通じたサブスクリプションモデルを採用しました。冷凍庫にストックしておけば、わざわざ献立を考えなくてもすぐに食べられます。このように、買い物から後片付けまで食事に関する手間をすべて省ける体験設計が『あえて、』の特徴です」(羽藤氏)
「あえて、」以外にも、既に宅配冷食弁当を提供するサービスは複数ある。羽藤氏らは、そうしたライバルの存在を把握しながらも、市場競争より今後提供したい価値を優先してプロジェクトを立ち上げた。
その背景にあるのが、味の素グループが2023年2月に発表した「中期ASV経営 2030ロードマップ」だ。これは「『アミノサイエンス』で、人・社会・地球のWell-beingに貢献する」を2030年までの目標に掲げ、必要なステップを逆算して提示したもの。目標の実現に向け、同グループでは四つの成長領域「ヘルスケア」「フード&ウェルネス」「ICT」「グリーン」を設定している。そのうち、「あえて、」は「フード&ウェルネス」に分類される事業だ。
「『2030年にお客様の生活はどう変化しているのか』を議論した結果、今よりも仕事が忙しくなり、時間の創出が重視されるはずと予想しました。そんな環境下の食事には、簡便さと整った栄養バランスが求められます。現時点で、こうした課題を解決する商品はまだ少なく、ポテンシャルがある領域だと感じました」(羽藤氏)
従来、同グループでは、家族などと一緒に食事をする「共食」を軸に商品展開するケースが多かったという。一方、「あえて、」では一人暮らしの人も含めた多くの顧客にアプローチする考えだ。
「通常、新規事業の立ち上げ時にはお客様のペルソナを定めるケースが多いです。しかし、属性などを問わず様々なお客様やシーンに対して価値を提供できる『あえて、』は、ターゲットの絞り込みを行わないと決めています」(羽藤氏)