TikTokはInstagramをライバル視?
藤田氏がまず取り上げたのは、TikTokの動向だ。商品の紹介動画を配信し、購入サイトへの遷移を促す「動画ショッピング広告」の提供など、コマースソリューションのアップデートを続けている同プラットフォーム。Shopifyとの連携を強化しており、EC事業者向けのサービスの充実化を目指す動きが見られる。
「TikTokは、以前よりEC機能の導入を進めてきたInstagramに、追いつこうとしています。Instagramをライバル視しているのでしょう。それを裏付けるように、2024年4月には写真共有サービス『TikTok Notes』のテストを、オーストラリアとカナダで開始しました。これまでショート動画で勝負してきたTikTokですが、徐々にInstagramに近い機能を取り入れたプラットフォームに変化しています」
TikTok Notesがいつ日本に上陸するかは明らかにされていないが、藤田氏は「もし日本で導入された場合、海外と比較して特殊な進化を遂げるはず」と予測する。これまでもXで「大喜利」のような投稿が拡散されるなど、日本特有のコミュニケーションの取り方が見られたからだという。
「こうしたトレンドをキャッチするには、各SNSを日常的に利用するのが1番です。たとえば、『TikTokに投稿するユーザーの平均年齢がサービス開始当初よりも上がっている』など、新たな発見とアプローチのヒントが得られます」
SNS活用の鍵を握るのはペルソナ設定の粒度
藤田氏は、「TikTokとInstagramは、今やEC運営に欠かせないプラットフォームとなった」と話す。今後、EC事業者には、この二つのプラットフォームを通じてどのようなアプローチが求められるのだろうか。
「従来は、性別や年齢などのプロフィールにもとづいて顧客像を描き、イメージと合致するコンテンツを投稿する方法が主流でした。これからのTikTokとInstagramでの情報発信は、ペルソナ設定の粒度がポイントです。『朝起きたときに目にして元気になるコンテンツは何か』など、顧客が投稿を見るシチュエーションや感情までも想定しなければなりません。具体的には、商品を日常の空間に配置した画像を用意し、人間らしさや温かみを添えるなどです」
昨今は、生成AIの発展により様々なコンテンツ制作が可能となったが、どのような感情の顧客にどう情報を届けるかは、現時点で人間が考える領域といえよう。この工程を、藤田氏は「情報のラストワンマイル」と呼ぶ。
「株式会社しまむらは、2024年6月にAIモデル『瑠菜』を発表し、公式Instagramアカウントを開設しました。将来的には、このAIモデルがライブコマースなどを行う可能性もあります。
同社の取り組みのように、コンテンツを生み出すのは生成AIでも問題ありません。忘れてはならないのは、『共感を引き出す』『友だちのような存在と認識してもらう』ことです。見た目の雰囲気だけでなく、コミュニケーションの熱量を人間がコントロールする必要があります。生成AIが進化すればするほど、人間にしかできないタスクの価値が上がるのです」