障害のイメージを変える 事業拡大がその一歩
ヘラルボニーのオンラインストアを開くと、独創的なデザインの商品が目に飛び込んでくる。すべて、主に知的障害のある作家が制作したアートから生み出されたものだ。同社は作家たちとライセンス契約を結び、作品の使用料を支払っている。
創業者である双子の松田文登氏・崇弥氏は、2016年8月に前身となるブランド「MUKU」をスタートした。2018年7月に、出身地の岩手県でヘラルボニーを設立。個性的な社名は、重度の知的障害をともなう自閉症の兄・松田翔太氏が小学生時代、自由帳に記した言葉から名付けられた。
同社は現在、オンラインストアのほか、岩手県に常設店とアートギャラリーを構える。各地でポップアップストアも出店し、多様な顧客接点を通じて作家の可能性を伝えている。
「日本スタートアップ大賞2022」で「審査委員会特別賞」を受賞するなど、今でこそ注目を集めるヘラルボニーだが、最初から順風満帆だったわけではない。MUKU時代には、クラウドファンディングで150万円を募ったが、目標金額まで届かなかった。それでも活動を続けられた理由は、「届くべき人に届いている実感」があったからだ。
「障害のある子を妊娠して産む自信がなかったけれど、希望がもてた」
顧客から寄せられるこうしたメッセージが、MUKU、そしてヘラルボニーの原動力となった。
「当社には、今でも作家やその家族、お客様から毎日のようにメッセージが届きます。『配送指定日を変更したい』などの事務的な問い合わせにも、励ましの言葉や自身の体験談を添えてくださる方が多いです」
これまでも、障害がある人のアート作品のジャンルは存在していた。全国で展示会も開催されている。しかし、「福祉」や「支援」の枠を超えるのは容易ではなかった。一方、ヘラルボニーは、アパレルや雑貨などの商品に落とし込んで販売することで、ビジネスとして成立させている。
強い共感を生み出すブランドストーリーがあるからこそ、顧客が愛着をもち、適正価格で購入したいと考えるのだろう。自分の想いを周囲に伝えるコミュニケーションツールとして、同社の商品を身に着ける顧客もいるという。
ヘラルボニーが契約する作家の報酬は、2021年7月~2023年6月の約2年間で8.7倍にも増加した。確定申告が必要になるほどの収益を得る例も複数ある。井上氏は「資本主義の中で、経済的な価値を創出していきたい」と語る。
「社会全体の変革には、当事者以外がもつ障害に対するイメージを変える必要があります。事業規模を拡大し、作家自身や当社のことを知ってもらうのがその一歩です。結果的に、作家の生活も豊かになっていくでしょう。支援に加えて、経済活動の循環が不可欠なのです」