当事者意識をもってDX推進する社員がほしがる「3つの要素」とは
D2C・EC専売ブランドの台頭や、店舗営業・集客が思うようにできなかったコロナ禍を契機に、店舗を有するアパレルブランド・リテールのOMO戦略が一気に加速している。コーディネート投稿、LINEやチャットを活用したオンライン接客など、店舗スタッフの活躍の場と求められるスキルが拡張する一方で、企業側がそれらを評価する指標を整備できていない点が課題になっているのも実情だ。
そんな中、「販売に関わるDX活動において優れたパフォーマンスを発揮するスペシャリスト」を評価する新たな人材認定制度「DXセールスマスター」を新設したのがユナイテッドアローズだ。制度の起点となったのは、同年5月に発表された2032年までの長期ビジョンと、2023年から2025年までの中期経営計画。「ブランド力の強化」を戦略の一つとして掲げ、方策として「人的資本への投資拡大」を宣言している。
同社が事業の方向性をこのように定めた経緯について、執行役員 CHROの山崎万里子氏は次のように語った。
「以前から、当社では価値形成の3要素として『ヒト・モノ・ウツワ』という概念をもっていました。ヒトは『高度に完成された接客・サービス』、モノは『世界的な広い視野で適産、適選された商品』、ウツワは『真の心地よさを追求した施設・空間・環境』を意味しています。DXセールスマスターもこれらの価値を高める投資の延長線上にあるものであり、時代の流れを踏まえればごく自然に発生したものだといえます」(山崎氏)
ユナイテッドアローズには、以前より販売員のキャリアパス目標として4つの階層を設けた表彰制度「セールスマスター」が存在する。店頭での活躍を評価軸とする同制度に加えて、DXセールスマスターの称号を設けた経緯には「コロナ禍の影響もある」と山崎氏は説明した。
店舗営業が思うようにできなかった2020年から2022年の3年間で、社員全体の4分の1となる約1,000名の社員が入れ替わった同社だが、残った社員について山崎氏は「ユナイテッドアローズという企業や自身の仕事に誇りをもち、コロナ禍のダメージから一丸となって立て直そうという当事者意識をもっていて頼もしい」と続ける。そんな社員が年に1回実施しているエンゲージメントサーベイでここ数年強く得たいと望むのが、「学び」「経営方針(への関与、情報開示)」「仕事のやりがい」だという。
「2020年までは『上司のマネジメント』『仕事のやりがい』『報酬』がトップ3だったのですが、内容がより当事者意識をもったものに変わってきました。コロナ禍の危機を経て、企業の経営や成長に貢献するには自分がどうあるべきか考え、学びへの意欲が高まり、経営方針を知った上で自ら行動を起こしたいと考えるようになったのでしょう。これはある意味で不安の裏返しともいえますが、経営陣としてはこうした社員の意欲・期待に応えなくてはならないと考えました」(山崎氏)