人口の30%でも熱量の高い層なら商機がある
148cmと小柄で、「好きな服が着られない」と悩んでいた田中氏。低身長の女性の悩みを解決するため、知識や経験がないままアパレル業界に飛び込んだ。「低身長向けアパレルブランド」に可能性を感じたきっかけは、2~3日ほどで行った市場調査だった。
「身長別の人口分布を調べるため、ある自治体が公開していた高校3年生の健康診断結果を参考にしました。低身長の友人が少なかったため、ターゲット層の人口も少ないのではと思っていましたが、実際には155cm以下の女性が30%ほどいたのです。しかも、『似合う服がない』と強い課題意識をもっている層であれば、ある程度の市場規模になると予測しました」
しかし、データだけではまだ確信がもてなかったという。田中氏以外の低身長の女性が、本当に服選びに悩んでいるかまでわからなかったからだ。また、当時のアパレル業界で低身長向けのブランドは少なく、需要の有無に疑問もあった。
そこで田中氏は、定量的なデータの収集に加え、当事者インタビューを実施。結果的に、肌で感じた熱量がCOHINA誕生を後押しした。
「話を聞いてみると、みなさん『低身長向けのアパレルブランドをずっと待っていました』と口をそろえていってくれました。私のこれまでのファッションに関する課題意識に、多くの人が共感してくれたのです」
一方、当事者以外の人々がもつ意識との差もあった。既に大学を卒業したビジネスマンの先輩たちに田中氏がCOHINA立ち上げを相談したところ、ことごとく反対されたのだ。
「低身長の人が抱える課題意識を訴えても、当事者以外には伝わらないと知りました。でも、これは良いギャップだと思いました。客観的に見るとビジネスチャンスがなさそうでも、一部の当事者の熱量が高い。見つかっていない市場だからこそ、わからないことが多くギャップが生まれると感じたのです」
アパレル業界の常識を知らないから挑戦できた
ターゲット層の熱量を知り、田中氏はCOHINAの立ち上げを決めた。だが、さっそく大きな壁が立ちはだかった。「学生」という肩書だ。国内の工場が集まる生地の見本市にスーツ姿で挑んでも、名刺を見せた途端、商談相手に「学生さんは無理」とあしらわれてしまう。数十社に電話でのアプローチも試みたが、まったく取り合ってもらえなかった。
国内の工場との取引を諦めた田中氏は、海外の工場へ商品生産を依頼することに。アリババグループが運営するBtoBプラットフォームのページに商品の仕様・数量・価格帯を記載し、対応できる工場を募集、なんとか中国の工場を見つけた。
「一般的に洋服の型はCADで作成しますが、当時はCADの存在すら知らず、紙に描いた型を切り取って中国まで郵送していました。今となってはとても非効率的だったと思いますが、良くも悪くも業界の常識を知らなかったので、『とにかくやってみよう』精神で行動していましたね」
現在のCOHINAは、国内外の工場と取引している。田中氏は、「取引先の拡大には継続的な発注が大切」と語る。新しいブランドは、取引先との信頼関係を築かなければならない。「来年はこの程度の発注が可能」と伝え、着実に取引できる姿勢を見せられるかが勝負だ。