顧客への提供価値を見直したブランドが花開く2023年
物販・サービスとビジネスの形態に関わらず、「リアル」な体験をともなう事業者にとって「我慢の年」といわれていたこの3年ほど。金子氏は「オンラインでの購買・体験享受に消費者がどんどん慣れていく中、リアル回帰した際の市場変化を踏まえて、耐えながらも準備を進めてきた事業者がここに来て花開いている」と語る。
「たとえば、フィットネスジムを運営する事業者では、コロナ禍初頭に営業自粛を余儀なくされました。その際に、『今はオンラインチャネルを強化する準備期間だ』と捉え、フィットネス動画をSNSやアプリを介して配信したり、ライブ配信で顧客接点を創出したりと、絶えずアクションを起こしていた事業者は、この半年ほどで一気に来店客数や売上を盛り返しています。
ただ時が過ぎるのを待つだけでなく、日常やその先のアップデートされた世界に向けてきちんと仕込みをする。顧客が求めていることが何なのか、自社のブランドとしての価値は何なのか見つめ直した上でリアル、オンラインの提供価値を再定義できていた事業者が報われるタイミングが、2023年なのだと思います」
アプリ提供価値を高めるには「自己理解」が必須に
スマートフォンを介し、リアルとデジタルの体験をつなげられるアプリは、いわばオンラインとオフラインの橋渡し役として広く浸透しつつある。実際にヤプリでも提供アプリ数は800超、累計ダウンロード数は1億5,000万を超えているという。これは裏を返せば、ただ「アプリを提供している」というだけでは優位性がない時代になりつつあるともいえるだろう。
「アプリのダウンロード数や利用率は、事業者が顧客とどれだけ強いつながりを作れているのか、企業価値やブランドの存在価値を示す指標ともいえます。コロナ禍を契機に、これまでセールやクーポン施策で顧客を集め、衝動性による購入に重きを置いていた事業者の弱さが露呈し、顧客が自社に何を求めているのか自覚的であった事業者の強さが鮮明になったと思います。
良い例がクラシコムです。同社は外的環境が変化する中でも各チャネルを着実に伸ばし、2022年には株式上場を果たしました。自社EC、アプリ、SNS、動画コンテンツと提供するコンテンツは多岐にわたりますが、それぞれに集まる顧客と適切なコミュニケーションが取れているからこその結果といえるでしょう」
原材料高騰にともなう物価上昇など、経済的にはマイナスとも捉えられる報が続く。消費者の財布の紐が堅くなる中でも「この商品は購入したい」「ここで買いたい」と思ってもらうには、単なる価格訴求ではなく顧客が有益と感じられるような情報や体験の提供、そして共感できる思想がそこにあるかも鍵となる。そこに欠かせないのが、事業者側の自己理解だ。
「『なぜアプリというチャネルを使って顧客と交流したいのか』『そこで自社が提供できる唯一無二の価値は何なのか』、今一度自問自答し、ブランドの体験価値を見直していただきたいと思います」