営業畑からの起業、未経験でD2Cに挑戦
磯山(wevnal) 齊藤さんは営業畑のご出身ですよね? D2CやECとは異なる領域でキャリアを積まれたと聞いていますが、起業した経緯を教えてください。
齊藤(ファストノット) 創業前は、住宅系の企業でリフォームや建築の現場監督をしたり、商社、求人広告企業で営業をしたりと、D2CやECとは無縁のキャリアを積んできました。
そんな中、D2Cに興味を持ったのは「ECビジネスに挑戦したい」というある知人の声がきっかけです。ちょうど同じタイミングで別の知人もECビジネスにチャレンジしていて、いわゆる「ひとりEC」で年商25億円ほど生み出していると知りました。話を聞くうちに「市場開拓の余地がありそうだ」と関心を持ち、挑戦したいと思ったので、2019年10月にファストノットを創業しました。
磯山 ECビジネスにも、様々な商材・アプローチ方法が存在します。単品通販型のD2Cに着目したのは、何か意図があったのでしょうか。
齊藤 経験がないながらも、今は良質な商品が世に溢れ、質が良いだけでは売れないことは想像がつきます。そこで私は、商品を消費者に知ってもらう「手段」が大事だと考えました。
どんな方法が良いか考えた結果、着目したのが単品通販型のD2Cです。マーケティング活動を自社主導で展開し、商品を直接消費者に届けられるビジネスは魅力的であり、やりがいもあるだろう。そう考えて生まれた商品が、「BELMISE」という着圧レギンスです。
知らないからこそ「とにかく行動」の精神で動けた
磯山 当然ながら、商品開発やブランド作りの知識はほぼゼロの状態ですよね? 情報収集や知識の習得はどのように進めたのでしょうか。
齊藤 ここで営業時代の経験が活きました。具体的には「ウェブでのリサーチだけでなく、行動を迅速に起こすこと」です。
たとえば、店頭で「良いな」と思う商品を見たら、パッケージの裏面に記載された製造元を必ずチェックします。そしてその企業へすぐに電話をかけ、「こういう商品を作りたいと考えているが、一度話をさせてもらえないか」とアタックする。特に新規ビジネスはスピード感が大事です。ただ頭で考えていても実現できないので、「とにかく行動」「最短で結果を出す」をモットーに動いていました。これは業界のことを知れば知るほど、D2CやECの知識がなかったからこそできたことかもしれない、と思っています。
磯山 製造元に電話でアプローチ=付き合いがない状態から、関係構築をするわけですよね。失敗などはなかったのでしょうか。
齊藤 取引先企業は商品製造のプロなので、思った以上に早く軌道に乗せられました。しかし、前金払いなど業界の慣習を私が知らなかったがゆえのミスはあります。創業当初は今ほど資金が潤沢でなかったので大変な思いもしましたが、今となっては良い思い出です。
磯山 そういった思いがけない局面に臨機応変な対応ができるのも、齊藤さんのすごさだと思いますが、それはこれまでのキャリアで培ったものなのでしょうか?
齊藤 現場監督も営業も、調整やイレギュラー対応が常ですからね。これまでの経験を思えば、そこまで苦ではなかったようにも思えます。
たとえば、建築現場で部下やパートナー企業にお願いごとをした際に「無理です」といわれたとします。現場監督は調整するのが仕事なので、当然すぐに引き下がらず「なぜ無理なのか」「できないポイントはどこにあるのか」「どうすればできるか」といったヒアリングを重ねます。こうして課題を解きほぐすと、何かしら物事を前に進める方向が見えてくるものです。相手の仕事やキャッシュポイントを理解し、弊社側から提案をしながら着地点を探していけば、やりたいことは大体実現できると考えています。
販促・マーケも本質的には「営業」 消費者理解に必須な想像力とは
磯山 齊藤さんの行動原理が見えてきたような気がしました。これまでのキャリアで身につけたフットワークの軽さが現在のビジネスにも活きているとうかがえますが、「BELMISE」という商品、着圧レギンスというカテゴリーで勝負すると決めた経緯についても、教えていただきたいです。
齊藤 最初に着圧レギンスを扱おうと決めたのは、マーケットインの思考からです。「これを作りたい」という熱意からD2Cの世界に入ったわけではないので、「市場にニーズがある商品」を軸に何を作るべきか考えました。
そこで行ったのが、売れ筋商品のネガティブな口コミに着目し、消費者ニーズの把握と現時点で不足している要素を探ることです。消費者が自ら言語化してくれた不満点を改善・解消した商品を作れば、今の市場に存在する商品に満足している人も、不満を感じていた人も取り込めると考えました。さらに意識したのは、「市場規模やニーズの深掘りと、新規獲得戦略の設計」です。ここでは、商社時代に身につけた3C・4P・5F分析の知識や、販売促進の経験が活きています。
磯山 商社での経験は大きいですね。営業と販売促進は一見すると異なる職種・業務内容に見られがちですが、「相手にものを売る、届ける」という意味では共通項も多いと思います。
齊藤 D2Cビジネスを実際に始めてみて、マーケティングも営業も本質的には変わらないと感じています。相違点があるとしたら、営業はBtoB・BtoCいずれも「目の前にいる人」にものを売るのが仕事ですが、販売促進・マーケティングは対象が「n人」になるため、顧客の実態が掴みづらい点にあるのではないかと思います。ここで必要になるのが、想像力ですね。
「BELMISE」を開発しながらも、私自身は着圧レギンスのユーザーではありません。そこで私は当事者意識を持つため、妻の趣味嗜好・行動を徹底的に観察することにしました。なぜなら、彼女が最も身近にいるターゲット層と合致する消費者だからです。
たとえば広告出稿するチャネルを決める際、彼女とメディアの接点を紐解きます。今は、多くの家庭がYouTubeなどの動画配信サービスと連携したコネクテッドTVを所有しています。子どもがいると、彼女がチャンネルの主導権を握ることはほぼなく、YouTubeが流れっぱなしの状態です。すると、「こうした家庭では、TVCMを打っても目に触れる機会はなさそうだな……」と想像がつきますよね。こうして消費者の行動を想像しながら、要所となるチャネルにしっかりとキャッシュポイントを設けていけば、自然と売上はついてくるはずです。
購入までのスピード命 単品通販LPのA/Bテストはどう実現した?
磯山 「BELMISE」では、一部ページに「BOTCHAN Payment」を導入いただいています。これも、消費者目線で決済の体験向上を考えた結果なのでしょうか。
齊藤 単品通販のLPは、「欲しい」と思った瞬間にすぐに購入できるかが命であるにも関わらず、意外とそこに注力するECカートが少ないと課題に感じていました。エントリーフォームのA/Bテストをしたいのに、表示順を変えられない。システム上バグが起きてしまうかもしれない。どうにかできないかと思っていた時に出会ったのが、「BOTCHAN Payment」でした。
「BOTCHAN Payment」導入後は、「『郵便番号』『番地までの住所』『マンション名』と分かれている住所入力箇所を、一つにまとめたらCVRはどう変化するか」「決済方法を最初に選択したら離脱は減るのか」といった仮説検証がすぐできるので、スムーズに学びが蓄積できて助かっています。
LINEで実現 CVR向上につながる潜在顧客の需要把握
磯山 ECで売上を生むには、「購入時や購入後の体験まで含めてどう道筋を描くか」といった視点も欠かせませんよね。こうした体験の磨き込みを一貫して行っているからこそ、「BELMISE」は成功しているのだと今回のお話から理解できました。
齊藤 体験設計は、対顧客だけに限りません。たとえば、「BELMISE」ではインフルエンサーマーケティングに取り組んでいますが、この手法も単なる「手段」として捉えないようにしています。
たとえば、「認知拡大を図りたい」「商品の売上を上げたい」といった企業側の都合を軸に考えると、インフルエンサー宛に商品を送付して「宣伝してください」と添える一方的な依頼になりがちです。しかしインフルエンサーも人なので、今訴求できるクーポンやキャンペーン情報、商品開発時のポイントや売り文句をお伝えするかしないかで、アクションの温度感が変化します。これは、口コミなど購入者からUGCを生み出す際にも有効な考え方です。この一手を打てるかどうかが、大きな差につながると考えています。
磯山 ちなみに、購入後の口コミ以外に顧客の声を得る機会は設けていますか?
齊藤 口コミはあくまでインサイトを深掘りする切り口の一つなので、より深いヒントを得るために一人ひとりの声を聞くデプスインタビューは実施していますね。また、テスト段階ですが、購入前の潜在顧客に向けたアンケートもLINEを使って行っています。該当LPにテスト用アカウントの友だち登録URLを載せ、お悩みを選んでもらう形式で回答を収集。その内容に応じて、最適な商品提案を行っています。このLPのCVRが好調で、施策拡大をしようかなと思っているところです。
磯山 購入機会の創出と、未購入顧客の需要把握を両立しているのは素晴らしいですね。齊藤さんはビジネスを成長に導く勘どころをきちんと捉えているように思えますが、情報収集の秘訣があれば教えてください。
齊藤 常に情報に触れていないと落ち着かない性格なので、寝ている間もビジネス系のYouTubeチャンネルをイヤフォンの中で流しています。あとは、とにかくいろいろな人と会って話すことですね。
情報収集をしていた中で「このビジネスはこういうロジックで成立しているのかな」と思ったら、その人にアポを取って、答え合わせをしに行く。「こうしたらより良くなるのでは?」と私なりのアイデアを開示して、「実は同じことを考えている」と言われたら、経営者としての私の考え方は間違っていないと一つの手応えを得られます。考え方の違いがあった場合も必ず学びがあるので、こうした機会は欠かせません。
譲れないブランド価値は守りつつ、国内外で成長の種をまく
磯山 「BELMISE」急成長の裏には、事業に直結しなくても思考し続ける齊藤さんの努力があったことがわかりました。最後に今後の「BELMISE」やファストノットの展望について教えてください。
齊藤 私は、「大人になったら人生の半分以上を仕事に費やすのだから、仕事そのものを楽しもう」という考えを持ってファストノットを経営しています。仕事に楽しく取り組み、そこで得る対価を増やせれば資産が増え、休日をもっと楽しくできますよね。事業が成功するかどうかは、世の中や経済の事情も絡むため、正直「運」の要素が大きいです。しかし、行動の数だけ成功の機会は巡ってくるので、運を良くする準備はいくらでもできると思っています。
磯山 ただ世の中の様子をうかがっているだけでは、チャンスも掴めないですからね。
齊藤 この考えを軸に、ファストノットも成功の機会を得る種まきをしています。たとえば、日本での「BELMISE」の成功を踏まえ、体型や嗜好性が近いASEANへの海外展開を開始しました。既にEC市場が確立されている中国ではなく、GDPの成長率を踏まえてこれから市場が伸びそうな国に先手を打つ方針で進めています。
また、海外での市場も押さえていく為に、「TECwear」という切り口でブランド設計していこうと考えています。今後さらに、着圧レギンスをニューノーマルにし、様々な領域と掛け合わせた新たな市場開拓、需要創出を進め、ブランドをさらに成長させていくつもりです。
磯山 チャネル拡大について野望はありますか?
齊藤 商社時代の経験を活かして、既にオフラインへの販路拡大も進めています。ただし「BELMISE」はあくまでD2Cブランドであり、「いつでもどこでも買える」までポジションをずらしたくはないと思っています。譲れないブランド価値は維持しながら、顧客接点は拡大していく予定です。今後の展開も楽しみにしていただければと思います。
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