コマースで重要なUGCはレビュー 多軸化・属性の明確化がポイントに
急速に変化し続けるEC市場。最も大きな影響を与えたのは、やはりスマートフォンの登場といえるだろう。山崎氏は、「いつでもどこでも情報を受け取れ、高性能で表示性能の高いタッチポイントが増えたことで、パソコンやガラケー、フィーチャーフォンではできなかった魅力的なマーケティングが容易になった。すると、店舗のありかたにも影響が及ぶのは当然だと思います」と語る。
中でも大きく変化したのは、初めて購入する商品や失敗したくない高額商品の購買行動だ。かつては、マスメディアなどを通じて企業・ブランド発信で情報提供するのが主流であったが、2000年代中盤に「Web2.0」と呼ばれる時代が到来して以降は消費者側も情報を発信し、双方向での交流が当たり前となっている。こうしたスタイルの変化は、消費者が事前にインターネットで情報収集した上で店舗に来訪する動きに加え、消費者の生の声、つまり「UGC」を求める流れにもつながっている。
「UGCは、ブログからTwitterやFacebook、Instagram、YouTubeといったSNSへ拡がり、コマースの世界にも変化を与えています。コマースにおける最も重要なUGCはレビューです。良いレビューが増えれば、それだけコンバージョンが上がるという調査結果も国内外で多数示されています」(山崎氏)
レビューは需要にともない急速な進化を遂げており、消費者の疑問を様々な視点から解消する「Q&A」や、多様化する情報をキーワードで分類する「ハッシュタグ」なども注目を集めているという。
ここから山崎氏は、進化のポイントとして三つの項目を挙げた。一つ目は「多軸化」だ。従来型のレビューは単一評価が主軸であったため、商品そのもののスコアではなく、接客・配送など付随するサービスを含んだ総合評価がECサイト上に記載されていた。これでは、商品に対する正確な評価を得ることが難しくなってしまう。
「そこで増えてきたのが、複数の軸を使った評価です。旅行やホテルの予約サイトでは、早い段階から『快適度』『食事』『コストパフォーマンス』『ホスピタリティ』といった多軸評価が導入されていましたが、コマースの世界にもこの流れが訪れています」(山崎氏)
さらに山崎氏は、「『誰がレビューしているのか』といった属性についても、消費者の注目が集まっている」と続けた。たとえば、アパレルでは自分と同じ性別・年齢・体型の消費者(レビュアー)によるレビューが、コスメでは肌のタイプや悩みが類似するレビュアーの声が重視される傾向にある。参考になる情報をいかに収集するかも、UGCを充実させる上では欠かせない要素といえる。
ECは単なるコンバージョン地点ではなく、メディアへ進化する
二つ目の進化のポイントは、「Q&Aの活用」だ。ここで挙げられたQ&Aは、FAQページのような静的なものではなく、消費者起点で発信されたレビューや質問に他者から回答や追加情報が加えられるといった、動的なものを指す。
「こうしたQ&Aは近年、モール・自社ECを問わず様々なECサイトで採用されています。消費者同士でやり取りが行われるだけでなく、そこに店舗やカスタマーサポートのスタッフが登場してその立場でなければできないアドバイスをするなど、社内外の垣根を越えたコミュニケーションの場となっています」(山崎氏)
そして三つ目に挙げられたのが、「ハッシュタグの活用」だ。多数寄せられるレビューの中から消費者が欲しい情報にスムーズにたどり着ける上、企業側も求められている情報を容易かつ適切に表示・提供できるため、注目されている。
「ハッシュタグは、今やSNSで誰もが活用するものといっても過言ではありません。この文化がSNSからコマースの領域にも拡大し、各領域のレビュー連携といった動きにもつながっています。
サードパーティCookieの規制により、従来型の広告施策による成果やECサイトへの流入低下といった課題を既にお持ちの方もいるでしょう。レビュー活用はこうした課題解決にも貢献します。たとえば、ハッシュタグで関連するレビューなどのオーガニックコンテンツを紐付ければ、SEOの評価や検索経由での流入アップにも期待ができます」(山崎氏)
ただし、ここで山崎氏はレビューを含めたUGC活用について「消費者任せにせず、あくまで企業が責任を持ってきちんと管理すべきコンテンツである」と強調する。「管理」と聞くと、マイナスなレビューを削除するといった動きを想定する人もいるかもしれないが、それは誤りだ。こうした自社にとって都合の良いレビューだけを活用する動きは、当然消費者にも見抜かれてしまう。
「謙虚さを忘れずに、耳が痛い意見も残しながら薬機法など扱う商材に合わせた法令遵守の対応や、誹謗中傷を排除する観点でレビューを管理する必要があると思います」(山崎氏)
こうした動きにより、企業のECのありかたは「コンバージョン地点」から「メディア的な存在」へと変化しつつある。情報が溢れる現代においては、カスタマージャーニーが消費者にとって非常に重要な要素となっており、選ばれるブランドになるには購入までの体験作りも重要だ。「見ているだけで楽しい、かつ購入する前に『見る・調べる』といった行動をする消費者の要望を満たすECサイトを作る視点は欠かせないと思います」とした上で、山崎氏はこう続ける。
「レビューは、業種・商材によって活用の方法が変わってきます。たとえば、アパレルは総投稿数よりも『どの頻度で新たなレビューが投稿されるか』を重視する『フロー型』のレビュー活用がふさわしいといわれています。もう一つの活用法は『アーカイブ型』ですが、今はフロー型が適しているECサイトがほとんどです。効果を得るには、一日あたりのレビュー投稿数を意識すると良いでしょう」(山崎氏)
テクノロジーが「体験」という店舗の強みをさらにアップデートさせる
レビューなどのUGC活用によりECサイトにメディアの要素が付与されると、必然的に店舗との関係性も変わってくる。「売り場」という視点から、ECサイトを店舗の競合ととらえる向きもかつてはあったが、認知獲得・情報収集のきっかけの一つととらえると、「実物を見て、手に取って試せる」といった店舗の価値は唯一無二のものだ。
「あくまでレビューは、ECサイトに不足するこれらの要素を補うものです。『実物に触れる』『接客を受ける』といった生の体験を提供するのは物理的に困難ですが、店舗の『足を運ばなければならない』『時間の制約がある』といったハードルに対して、消費者の希望するタイミングで情報を届けることができます。つまり、店舗とECは対立関係ではなく、補完関係にあるといえます」(山崎氏)
さらに山崎氏は、「店舗戦略を考える際に、『お客様目線』を中心に置いてほしい」と続ける。
「今の企業が持つOMOの課題は、『他店で買われないようにする』という視点が抜け落ちている点にあります。店頭で実物とともに接客をして、商品情報を提供したにもかかわらず、モールでレビューを見てそのまま買われてしまう。これは非常にもったいないことです。たとえば、接客の流れからその場でECサイトに誘導してレビューを見てもらう、デジタルサイネージを活用して、店舗内でもECサイト同様の詳細な情報を提供するなど、魅力を高めるアプローチ方法は多数存在します」(山崎氏)
これらを実現する上で欠かせないのが、テクノロジーだ。インデックス化しやすいECの強みを活かせば、「買いたいものがどこにあるか」といった情報も直ちに提示することができる。また、前出のレビューを介して店頭とECをつなぐといった工夫も施しやすくなる。そして、なんといっても注目すべきは「パーソナライズが可能になる」という点だ。
「スマートフォンとテクノロジーの強みを掛け合わせれば、消費者ごとに適した異なる情報を提供できます。データを収集して『提供した情報に対してどのような反応をしたか』といった効果測定を重ねれば、『実物が目の前に存在する』という従来型の店舗の強みに、『パーソナライズ化されたメディア』『体験するSNS』というような、さらなる価値を付与することが可能になります」(山崎氏)
OMO推進 日本でも期待が高まるインストアアプリ活用
また、店舗とEC双方の価値向上に寄与するとして注目を集めているのが、スタッフコンテンツだ。特にアパレルでは、これまで店舗での接客時にのみ発揮されていた豊かな知識や情報発信力を活かした、店舗スタッフのインフルエンサー化が加速している。コロナ禍がこの勢いを後押しし、今やスタッフコンテンツのコーナーをECサイト内に設けることは実店舗を持つ企業の当たり前となりつつあるが、この情報を店舗に循環させる動きもOMO推進には欠かせない。
「店舗とECをシームレスにする動きとしてアメリカで進んでいるのが、インストアアプリ活用です。WalmartやThe Home Depotでは、店内でスマートフォンアプリを立ち上げると目的の商品在庫や陳列場所の確認だけでなく、消費者の購買行動に合わせたプロモーション訴求やクーポン発行など、様々な手段を使ってコンシェルジュのようなアドバイスをしてくれます。日本でも、ニトリやカインズのアプリなどで陳列場所を確認できる店内マップ機能の提供が進んでおり、今後より機能拡張が進むのではないかと見ています」(山崎氏)
こうしたテクノロジー活用で注意したいのは、「お客様目線との乖離」だ。理想は消費者に近い年齢層の社員が施策推進を行うことだが、スキルや人的リソースの兼ね合いからこうした配置が難しいケースも少なくない。その場合も他部署の人にチェック役として協力を仰ぐなど、生の声を得る意識を持つことが大切だ。
「インストアアプリは店舗のDXを進めるだけでなく、ECと組み合わせることで最強のツールになり得るものです。店舗を『楽しい体験ができる場』という重要なチャネルとして位置付けてCX向上を図るだけでなく、『離脱を防ぐ場、納得感のある買い物を促進する場』として磨き上げるためにも有効な手段といえるでしょう」(山崎氏)
最後に山崎氏は、ここまで紹介してきたレビューを中心としたUGC活用やOMO・DXを手助けするサービスを取り揃えた「ZETA CXシリーズ」を紹介。レビュー・口コミ・Q&Aエンジン「ZETA VOICE」は、導入サイトにおける口コミ・Q&A投稿数が900万件を突破していると説明した。
「2022年にリリースされたハッシュタグ活用エンジン『ZETA HASHTAG』は、アパレルを中心に問い合わせが増えています。特にフロー型のレビュー活用に有効であり、導入の負荷が低くECサイト内の回遊を活性化させる効果にもつながっているとの声を多くいただいています。興味のある方はぜひご相談ください」(山崎氏)
▼ZETAが提供するECマーケティング・リテールDXを支援するソリューション「ZETA CXシリーズ」の資料は、資料ダウンロードページよりダウンロードいただけます。