購入前後もコンテンツでケア 越境ECほど思い込みに注意
前回の定点観測でも述べたように、2022年10月11日から、外国人観光客の入国について受入責任者制度を廃止し、パッケージツアーに限定する措置が解除された。個人観光客が訪日できるようになり、インバウンドが解禁されたと言える。実際に、海外からの観光客を目にする機会も増えた。
徳田さんのクライアントに、かっぱ橋道具街で包丁を扱う店舗がある。かっぱ橋道具街は訪日外国人に観光スポットとして認識されており、インバウンド解禁とともに観光客が殺到している形だ。
「人手が足りず、店頭での接客が間に合っていません。包丁は、肉、魚、野菜など切るものによって専用の形があるほど種類が豊富にあります。日本人にも時間がかかる説明を、海外のお客様にやるとなるとハードルが高い。そこで店頭のポップに二次元コードを表示し、越境ECサイトのコンテンツへ誘導することで、その商品の特徴がわかったり、お客様の用途にマッチする包丁をお選びいただけるよう工夫をしています」
CXの観点からは、越境ECにおいても購入後のケアが重要だと徳田さんは言う。
「たとえば同じクライアントは、包丁の切れ味を保つためにお手入れ方法を伝えるウェブコンテンツへ誘導するカードなどを同梱しています。実は、海外へ輸送する場合は刃こぼれしないようあえて切れ味が甘い状態でお送りしているんですね。海外のお客様が受け取った後、研いでからお使いいただくとちょうど良いように工夫しています。研ぎかたや、あえて甘い切れ味にしている気遣いについても説明が必要です。このように、越境ECにおいても購入時以外のケアもCX向上には重要ですし、それでご満足いただければ、海外ユーザーに向けてクチコミで広げていただける期待もできます」
サイトのコンテンツを充実させていくことも重要だが、きちんと作り込んだ商品詳細ページでも十分役割が果たせる場合もあると言う。
「EC事業者側が伝えたい情報と、お客様が求めている情報が食い違う場合もあります。海外のお客様であればなおさらその可能性が高まります」
たとえば日本酒の越境ECサイトを例に説明してもらう。徳田さんの経験値では、日本の事業者は製造方法や出来上がるまでのストーリーを伝えたがる傾向にある。一方海外のユーザーは、詳細な味の説明や料理とのマリアージュについてのアドバイスを求める場合が多いそうだ。
「さらに最近の傾向としては、円安により海外のお客様にとって日本の商品が割安に感じるという点があります。海外のユーザーの年収が我々の2倍に相当するとして、日本人にとって1万円の商品が、海外ユーザーからすると5,000円くらいの商品に感じる。すると、ビジネスにおけるお祝いの品としてはふさわしくないと感じてしまう。お祝いに日本酒を贈りたいから、それにふさわしい商品として3万円のものが欲しい。値段が安いから買わないといった声もあるのです」
このようなギャップを防ぐためにも、徳田さんはぜひユーザーインタビューを行ってほしいとすすめる。越境ECで購入したとなればそのブランドへの愛着が深い可能性があり、Zoomなどで顔出しで応じてくれる場合も少なくないそうだ。
「たとえばオーストラリアから購入してくださっているお客様のお名前が、アレックスやジェニファーといったものだったらどんなペルソナを想像しますか? 実際にZoomでお顔を拝見してみると、アジア系の方だったりする場合もあります。どんなお客様がなぜこの商品をこのタイミングで購入してくださったのか、EC事業者は常に考えているポイントだと思いますが、勝手な思い込みが正確なお客様像にたどり着くのを阻害する場合もあります。当社のクライアントには、かならずと言って良いほどユーザーインタビューをおすすめしています」