メーカーの下請け一本から自社ブランド開発へ
「始めたばかりの頃は、社内であまり協力してもらえる雰囲気ではなかったですね。『新しく来た人が何やっとんねん』というのが、最初の反応でした。それでも、オリジナル商品を作りたい気持ちが強く、工場の機械が使える限られた時間で作業をしていました」(裕子さん)
そう語るのは、2012年からノグチニットでオリジナル商品の開発とEC販売を行っている上坪裕子さんだ。1927年に創業したノグチニットは、今年で97年めを迎える。創業当時より大手スポーツメーカー向けに、スキー用品を開発・販売してきた。
夫で4代めの上坪徹也さんは「セーターマシンの編みかたをニットキャップやマフラーに転用できるなど、機械もスペックが高いものを昔から使っています」と話す。
「曾祖父が創業し、現在は父が社長を務めています。幼少期から会社を見てきて、15年前に入社しました。当時は、せっかく糸の販売業者も多く知っているしスペックの高い機械もあるのだから、自分たちの作りたいものを編めないかと思っていたのです。妻も洋服作りなどが好きだったので、まずはふたりで考えたオリジナル商品を手作り市に出品し、2012年にはminneとCreemaで販売を始めました」(徹也さん)
CtoCプラットフォームで販売を開始したものの、最初の7年間は工場に余裕ができる冬の3ヵ月間のみ、期間限定でオープンしていた。そんな中でも、2015年にはminneで売上が立ち始め、2017年にはCreemaで数字がさらに伸びた。
「初期投資する余裕がない状況で広告も出していなかったのですが、minneとCreemaで1シーズンに300万円の売上を立てることができました。ただ、最初はその結果がどの程度の位置なのかもわかりませんでした。そこで、楽天市場で成果を上げている靴下メーカーの方に直接話を聞いたところ、『広告なしで1シーズン300万円ならもっと伸びるはず。まずは通年販売をしたほうが良い』とアドバイスをもらいました」(裕子さん)
2018年に通年販売を開始してからは、その言葉どおり、売上が何倍にも増えていったという。 より売上アップを目指すため、2020年には自社ECの運営をSTORESで開始。その後、2021年にノグチニットの個性を発揮するサイトを目指し、デザインの自由度が高いShopifyへ移行した。現在はminne、Creema、自社ECの3つのチャネルで販売を行っている。
通年販売を始める前から自力で1シーズン300万円もの売上を作ることができた理由は、手探りながらもCtoCサイトを作りこんできたからこそといえる。minneやCreemaは無料で出品できる一方で、商品の魅力を伝える術はページ内の文章と写真のみだ。「ささげ作業」の腕が試される。
「当初は予算もなかったため、自腹で一眼レフを購入し、自分で撮影した写真を掲載していました。minneやCreemaでは、ほかの出品者も主要なモールに劣らず魅力的な写真を商品紹介に使っています。しかし、ビジュアル訴求から売上につなげるとなると難しい世界です。CtoCで売り始めたからこそ、商品の伝えかたを鍛えることができました」(裕子さん)
minneとCreemaでノグチニットのページを見てみると、ひとつの商品に対して10枚前後、多いものでは20枚以上の写真が登録されている。商品詳細ページには、サイズやカラーといった基本情報とともに、「なぜこの商品が生まれたのか」「職人がこだわったポイント」など、商品を深く知るための情報が丁寧に書かれている。こうした裕子さんの想いは自社ECにも反映され、今では工場の様子を伝える動画までも自らの手で制作、公開。表現が常にブラッシュアップされているのだ。