疲弊から脱却してステップアップへ 業務の標準化が創出するチャンスとは
「店舗を開けていれば、ある程度の売上を確保することができる」──こうした認識がもろとも崩れたこの数年。店舗は営業するだけで賃料・人件費など膨大な固定費を要するが、円滑な運営とサービス品質を維持するには一定の人員確保が必要となるため、総合的な判断から店舗数を縮小する判断を下したケースもあるだろう。また、スタッフの活躍の場がウェブやEC、SNSなどへと広がる一方で、業務負担増も課題となりつつあるのが現実だ。
「やるべきこと」が新たに生まれるのであれば、既存のタスクが「やらなくてもいいこと」へと変化していないか、時代の流れに応じてやりかたを変えることができるようになっていないか、定期的に業務の棚卸しと点検が必要となる。荒井さんは「『DX』とひとくくりに言っても幅が広いが、とくに小売業はこうした現場寄りの業務効率化から取り掛かるとインパクトが大きい」と語った上でこう続ける。
「店舗運営には大小さまざまなタスクが存在しますが、利益を最大化すべく最小限の人員で回しているところがほとんどでしょう。こうした店舗で働く人々は、日々『改善したい課題があったとしても考えるひまがない』『やらなければならないことをこなすだけで精一杯』といったジレンマと戦っています。そこで必要なのが、業務の標準化と効率化です。
たとえば、店長や経験豊富なベテラン勢など一部のスタッフに寄せられていた業務をデジタルの力で誰にでもできるようにする。口頭で伝えていた指導内容をまとめ、業務マニュアルをデジタル化する。メールベースで行っていたコミュニケーションを、いつでもどこでも返信しやすいチャットツールに置き換える。一見些細に見えても、こうした取り組みは立派なDXです。抱えている課題や不満を解消し、主力業務を円滑に回しながらステップアップするための余力をどう生み出すか。ここから考えたほうが、働くスタッフのモチベーションアップにもつながりやすくなります」

業務の標準化とひとことで言うと、「自分の仕事が奪われる」といった懸念を抱く人もいるかもしれない。しかし、ビジネスを総合的な視点で見ればこのような経験と勘を要する業務に携わるスキルがある人材を「やるべきこと」で縛り続けること自体が、機会損失と言えよう。ポテンシャルを活かして、より独創性ある取り組みをするチャンスを与える。こうした環境を整えるのが、現在の経営陣やマネジメント層の急務と言っても過言ではない。
「これまでの煩雑な業務を整理整頓する。そして『売上』といった過去の成果を数値化するだけでなく、未来の『販売数量』や『来店客数』といった数字、つまりは需要を見える化し、体当たりで挑むといった疲弊につながる負担を軽減する。もちろんすべてを一気に進めようとすると気が遠くなってしまうので、タスク一覧を作成して課題を可視化し、ひとつずつクリアしていく。その積み重ねが大きな業務負荷の軽減や業績の改善につながります。ただ『新しいことをやりなさい』と現場を鼓舞するのではなく、新しい取り組みに費やす時間を創出する手助けをするのが、上に立つ人々の役割と言えるでしょう」