インターネットの普及によって、消費者の購買行動に変化が生じています。Webを通じて商品情報を事前にチェックしたうえで、実店舗で商品の購入を行う購入形式「ウェブルーミング」もその変化のひとつです。
実店舗に出向く前にWebを通じてある程度の情報を得ている消費者に対して、企業側としても必要な対応策を講じる必要があるといえるでしょう。
この記事では、ウェブルーミングとショールーミングとの違いや対応策を詳しく解説します。
ウェブルーミングとは?
消費者の購買行動の変化をきちんとおさえるためには、ウェブルーミングに関する理解を深めておく必要があります。ウェブルーミングの定義やショールーミングとの違いについて見ていきましょう。
ウェブルーミングの定義
ウェブルーミングとは、WebでECサイトなどに掲載されている商品情報を消費者があらかじめチェックし、購入自体は実店舗で行うことを指します。
インターネット環境が整い、デジタル端末が普及したからこそ起こっている現象であり、商品やサービスを提供する側にとって、ウェブルーミング対策は欠かせないものになってきています。
ショールーミングとの違い
一方のショールーミングは、いわばウェブルーミングの逆の購買プロセスのことで、実店舗で商品を確認した後、購入自体はインターネット通販などで行うことです。実店舗をまるでショールームのように使うことから、このように呼ばれています。
実店舗で商品の仕様などを確認したうえで、購入自体はインターネットで一番安く買えるECサイトを探すといった行為で、ウェブルーミングとあわせて、ショールーミングへの対策も必要です。
ウェブルーミングが重視される理由
ウェブルーミングが急速に広まっているのには、消費者側が求めるニーズの変化が挙げられます。 ここでは、ウェブルーミングが重視されている理由やウェブルーミングがもたらす影響について解説します。
消費者がウェブルーミングを行う理由
企業が売上を高めていくには、消費者がどのような考えで購買行動をとっているのかを理解する必要があります。 ウェブルーミングを行う消費者側の視点から考えると、次のような理由が挙げられるでしょう。
- 送料を支払いたくない
- 実店舗に在庫があるかをオンラインで確認しておきたい
- 購入した商品をすぐに使いたい
- 商品を自分の目で確かめて購入したい
- 購入した商品を返品しやすい など
ウェブルーミングでは商品情報そのものは、インターネットを通じて調べます。そのため、企業側としてはなぜECを利用しないのか気になるでしょう。消費者心理としては、実店舗に在庫があるかをオンラインで確認しておきたいというケースや、ECは送料がかかるので利用したくないと考えているケースが考えられます。
また、ネット販売の場合だと商品が到着するまでに、最低でも半日から1日程度がかかります。購入したい商品をすぐに使いたいというユーザーにとっては、ウェブルーミングのほうがニーズに合っているのです。
また、インターネットで大まかな商品情報を得ていたとしても、商品を自分の目で確かめてから購入したいという考えを持っているユーザーも少なくありません。
購入後、商品がイメージと異なる場合は返品を考えますが、インターネットの場合は時間や手間がかかります。近くのお店でそのまま返品できる利便性を優先させたい消費者も一定数おり、ウェブルーミングが広まっている理由のひとつとなっているのです。
ウェブルーミングがもたらす影響
ウェブルーミングに関する調査としては少し古い資料ですが、アパレル大手のGUが行った「ファッションアイテム購入時における情報源および購入経路に関する実態調査」(2018年)では、「オンラインで調べ、実店舗で購入」という回答が54.2%となっています。特にアパレル商品の場合は、購入前に実際に自分の目で確かめたいというニーズがあるようです。
また、トランスコスモス株式会社が行った調査「アジア10都市オンラインショッピング利用動向調査2019」では、ウェブルーミングを行っている消費者は東京で54%程度、アジア地域では80%以上でした。
前述のアパレルに加えて、家電製品やPCなど実際の使用感や大きさなどを確認してから購入を決める商材については、ウェブルーミングを意識した販売方法の構築が求められているといえるでしょう。
【各企業の対策事例を紹介】ウェブルーミングへの対応策
ウェブルーミングは業種や取り扱う商材によって対策にも違いがあります。 ここでは、ウェブルーミングに対応するための取り組みを実際に行っている企業の事例を見ていきましょう。
在庫状況がWebですぐに分かるようにする
ウェブルーミングへの対応策としては、ECサイトからどの店舗に消費者が求める商品の在庫があるか分かるように表示しておくことが大事です。
ユニクロやGUといったブランドを展開する株式会社ファーストリテイリングでは、ウェブルーミングへの対応策として、店舗在庫検索機能を備えています。
これは、消費者がWeb上で確認した商品の在庫をチェックできるサービスです。商品のカラーやサイズ、在庫があるかどうかを確認したい店舗を選択し、リアルタイムに在庫を確認することができます。
店舗在庫検索機能によって、商品の実物を見てみたいという消費者のニーズを叶えることができ、うまく販売につなげられているといえるでしょう。
商品の陳列を工夫する
大手家電量販店のビックカメラでは、ウェブルーミングへの対応策として「電子棚札」の仕組みを導入しています。これはネットワーク経由で指示を受け取ると、わずか数秒で価格表示が切り替わる仕組みです。
また、単に価格を表示させるだけでなく、内蔵された読み取り機能に消費者がスマホをかざすとアプリ内で商品の詳細な情報を確認することもできます。こうした取り組みの背景には、自社ECサイトと店頭価格を統一するという狙いがあります。
さらに、電子棚札の仕組みを消費者に活用してもらうには、商品の陳列方法にも工夫が必要になります。ECサイトでよく閲覧されている商品を実店舗の目立つ位置に配置し、消費者の購買意欲を高めることにつなげてみましょう。
納得がいくまで商品を試せる仕組みを整える
海外企業の事例としては、米ノードストローム百貨店のサテライト店舗「ノードストローム・ローカル」の試着サロンが挙げられます。試着サロンはWebで選んだ商品をサテライト店舗で試着できるサービスであり、気に入ったものはそのまま購入できます。
スタイリストが常駐しているのでコーディネートのアドバイスを受けられたり、仕立て直しのカウンターがあるのでサイズ直しも対応してくれたりするのが特徴です。通販などの試着サービスと比較すると、自宅に不要なサンプル商品を置かずに済むという利用者側のメリットがあります。
ウェブルーミングの対応策では、消費者の視点に立った取り組みを進めていくことが何よりも重要なのです。
オムニチャネル化の視点を持つことが大事
ウェブルーミングを考えるうえで、オムニチャネルについてもおさえておく必要があります。ここでは、オムニチャネルの基本的なポイントについて解説します。
オムニチャネルとは
オムニチャネルとは、実店舗やEC、SNSやDMなどさまざまな販路を連携させる取り組みのことを指します。たとえば、実店舗に出向いたときには在庫がなかったとしても、ECサイトからは購入できる仕組みを作ることです。
ユーザーがほしいと思う商品を好きなときに、好きな場所で受け取れるように仕組みを整えていくのがオムニチャネルの基本的な考え方だといえます。ユーザーの満足度を高めることにつながる施策であり、自社のユーザーに合ったチャネルを用意することが重要です。
一方、マルチチャネルとは複数のチャネルを用いて、ユーザーが求める情報や商品を提供していく仕組みのことを指します。オムニチャネルと混同されがちですが、マルチチャネルの場合は複数のチャネルを展開してはいるものの、それぞれが独立しており連携がなされていません。
そうした状況から一歩踏み込んで、各チャネル同士を連携させるのがオムニチャネルなのです。どのチャネルからもユーザーがスムーズに商品を購入できる仕組みを整えることで、ウェブルーミング対策にもつながっていくでしょう。
消費者が便利にサービスを利用する仕組みづくりが必要
ウェブルーミングであれ、ショールーミングであれ、消費者がどのような点に不満を抱いているかを知ることは重要です。消費者が抱える悩みに寄り添うことで、自ずと実行すべき施策が見えてきます。
たとえば、実店舗に在庫がなくてもインターネットで購入できたり、ECサイトから注文をしたがすぐに使いたいので店舗で受け取りたいというニーズをくみ取ったりするような取り組みが必要です。消費者がストレスなく商品を購入できるような施策を講じていくことが欠かせません。
そうした状態を実現するには、実店舗とECサイトの垣根を超えた取り組みが重要であり、チャネル同士を一元管理できるシステムの導入も検討する必要があるでしょう。 消費者の視点に立って、どのようなことが求められているのかを洗い出し、仕組みに取り入れていくことが肝心です。
まとめ:消費者のニーズに沿った施策を講じよう
企業が商品やサービスを効果的に販売していくには、消費者の行動を正しく認識しておく必要があります。ウェブルーミングにおける消費者行動を把握し、自社としてどのような取り組みが行えるかを考えてみましょう。
消費者の視点に立った仕組みづくりが重要であり、どのような点に不満を感じているかを洗い出していくことが大切です。消費者が利用しやすい店舗づくりを心がけて、売上を高めることにつなげてみましょう。