2019年に40周年を迎え、ロゴの変更など抜本的な改革に取り組んでいる「SHIBUYA109」。「SHIBUYA109 LAND」をコンセプトにした旗艦店のリニューアルは、現在進行形で行われており、ファッションのみならず、食やエンタテインメントなど幅広いジャンルで顧客が楽しめる場を提供している。若者の聖地として一世を風靡し、進化を続けるSHIBUYA109は、今後の実店舗のありかたをどう考えているのだろうか。デジタルを起点に、実店舗・組織の進化に取り組む澤邊さんに話を聞いた。
時間・場所を問わず情報を得られる 今こそ重視されるリアルな場の体験
ファッションの聖地として若者を中心に親しまれ、文化の最先端を行くSHIBUYA109。トレンドに敏感で、新たなツールもいち早く使いこなす顧客と向き合う中で、実店舗に求められる役割の変容を肌で感じていると澤邊さんは言う。
「当社を含め、これまで実店舗での収益が大きな割合を占めていた企業は、どうしてもリアルの行動を起点に物事を考えてしまいがちです。しかし、今は若者に限らず、SNSを当たり前のように使い、インターネットで検索をし、ECで購買活動をする。実際に蓋を開けてみると、デジタル上での行動に多くの時間を割く人が増えていますよね。お客様が圧倒的に時間をかけているツールを活用しないことには、リアルの強みも活かせない。だからこそ、今後はデジタル起点で物事を考えていく必要があるのではないかと感じています」
デジタル起点の取り組みを行うからと言って、実店舗の優先度が下がったり、需要が低下したりするわけではない。ECを活用してどこからでもものが買える、インターネットを活用して時間や場所を問わず情報が得られる時代だからこそ、リアルな場特有の体験がより浮き彫りとなるのだ。
「今年はとくに実店舗のありかたが変容していく年になると思います。だからと言って、今後リアルな場がなくなることはなく、むしろ存在意義がより高まっていくのではないでしょうか。そんな中で、僕らが取り組むべきことは、お客様に『ここでしかできない体験』を提供し続けることだと考えています。SHIBUYA109渋谷店でも、2019年の40周年を機に、現在進行形でさまざまなリニューアルを行っているところです。お客様にワクワクドキドキしてもらい、それを誰かにシェアしたくなる場を作ること、これを目指して食のフロアやエンタテインメントに強化したフロアを設けたり、階段スペースを装飾したりしています」
こうした取り組みは、必ずしも売上に直結するものではない。一見すると「おもてなし」や「サービス精神」の表れととらえる人もいるかもしれないが、澤邊さんはリニューアル前後の手応えをすでに感じているそうだ。
「Instagramで『#SHIBUYA109』とハッシュタグ検索すると、以前はファッション系の投稿がほとんどでした。これが今は、エンタテインメントやアートも含め、多種多様になっています。そのような投稿を見てくれたお客様が、面白そうと感じてSHIBUYA109に訪れ、そこで得た体験を拡散し、新たなお客様を呼んでくださることで、来訪前の行動と来訪後の行動がデジタルでつながっていく。そんな実感があります。オムニチャネルは利便性提供を軸とし、買うための行動をシームレスにすることが主ですが、僕らはSNSやデジタルを活用して体験をシームレスにしていきたいと考えています。そのためには、リアルな場に圧倒的な独自性がなくてはなりません。どこでもできる体験ではなく、SHIBUYA109でしかできない体験をどう生み出すか。そこに今は力を入れています」