矢野経済研究所は、日本国内におけるインポートブランド市場を調査し、現況、ブランド動向、将来展望を明らかにした。
1.市場概況
2020年の国内インポートブランド(主要15アイテム分野)の小売市場規模は、前年比25.2%減の1兆9,283億円と推計した。コロナショックを受けた2020年は、ほとんどのブランドが例外なく2ヶ月間ほどの店舗休業を強いられた上に、1年を通じてコロナ禍での営業を余儀なくされた。インバウンド(訪日外国人客)もほぼないに等しい状態であり、いまだかつてない厳しい状況となった。
一方、コロナ禍で足元の経済が苦しい状況にもかかわらず、近年株高が続いており、国内富裕層は今までに増して金余りの状態になっていた。海外旅行や外食などのコト消費分がブランド品購入へ回ったことで、マーケットサイズの落ち込みはこの程度に止まったと見られる。
ブランド各社の動向としては、ほとんどのブランドが前年割れの結果となったものの、国内富裕層に強いブランドほどその落ち幅は小さく、インバウンドに強く支持されていたブランドが大きく落ち込む結果となっている。店舗への集客による新規顧客の獲得が難しかったことから、固定客比率が低く、トレンド感を売りにしているアフォーダブルブランド(ラグジュアリーブランドよりも手頃な価格の高級ブランド)群に軒並み厳しい状況となっていた。また、コロナ禍でも新規出店やコラボ企画など積極的に仕掛けていたブランドは健闘した様子が見られた。
2.注目トピック
コロナ禍の2020年に唯一大きく拡大したのがEC販路である。リアル店舗での集客・販売力が落ちた状況下において、新型コロナウイルス感染拡大前までに自社ECを整備・強化していたブランドにとっては、ECによる販売が大きな助けになった。また、コロナ禍で消費者のネットリテラシーが格段に上がり、今まで以上に客層に広がりが出ている上に、消費者のSNSをはじめとしたネットに触れる機会も増加したことで、デジタルプロモーションの効果も拡大している。
なお、リアル店舗への集客による新規獲得が難しい状況で、ZOZOTOWNや楽天ファッションのような集客力の高い大手ECモールへ出店をするブランドも増加した。コロナ禍では、店舗休業や密を避けるための新たな販売手法として、ZOOMやLINEを使ったリモート接客に着手するブランドも増加し、パーソナルなつながりがより強化されている。
3.将来展望
インポートブランド小売市場において、今回のコロナショックはリーマンショックとは大きく異なる状況であった。GDPはリーマンショックに並ぶ落ち込みだったが、リーマンショックでは株価が暴落しその後数年低迷したのに対して、今回の株価の落ち込みは一時的に止まり、その後は高値で推移した。金融資産が膨らんだ国内富裕層はコ ト消費を制限され、消費の対象がモノ、とりわけ高額な資産価値のあるブランド品に移った状態であった。近年のインポートブランド小売市場はインバウンド需要も一定のシェアを占めていたことや、2020年は2ヶ月間の店舗休業期間があったことで、2020年のマーケットサイズは前年比25.2%減の大幅な落ち込みをしたものの、この日本人富裕層の国内消費が続くかぎりにおいては、2021年が前年を上回ることは間違いないと考察している。
一方で、8月現在、新型コロナウイルスによる第5波感染が拡大しており、インポートブランドの主販路である百貨店で店舗休業などの対策が取られることが懸念される。このような状況下では客足は確実に遠のくことから、一般客の消費は厳しくなる。インポートマーケットが富裕層中心のマーケットであるとは言え、中間層やミレニアル層も十分なシェアがあり、この状況は確実に市場へのマイナスの影響となるだろう。以上のことを考慮のうえ、2021年のインポートブランド(主要15アイテム分野)小売市場規模は前年比13.6%増となる2兆1,911億円と予測する。
調査概要
- 調査期間: 2021年5月~8月
- 調査対象: 欧州、米国の衣料品・服飾雑貨、ウォッチ、ジュエリー、クリスタル製品・陶磁器、アイウェア、筆記具ブランドを輸入販売する商社、メーカー、小売事 業者、また各インポートブランドの日本法人等
- 調査方法: 同社専門研究員による直接面談(オンライン含む)、電話によるヒアリング調査、ならびに文献調査併用