パーソルキャリアが運営する、アパレル・ファッション業界専門の転職支援サービス「クリーデンス」は、2023年のアパレル・ファッション業界の平均年収および平均年間賞与額を発表した。同調査は、2023年に「クリーデンス」に登録した人のデータをもとに算出された。
<平均年収>調査対象となる10職種のうち9職種で平均年収が増加
2023年 年齢・職種別 平均年収
2023年のアパレル・ファッション業界平均年収は356万円で、前年の346万円を10万円上回った。コロナ禍でカットされていた手当が復活したり、減額されていた賞与が満額支給されるようになったことが大きな要因と見られる。
加えて、従業員のエンゲージメント向上・採用競争力の強化のために販売職を含む社員のベースアップが進んでおり、これも年収を引き上げる一因となったと考えられているという。なお、人材採用力強化を目的に、ベースアップを検討する企業は今後も増えると予測される。
職種別
年収上位の職種は前年と変わらず ただし、マーケティング職は転職意欲が高く年収は前年を下回る結果に
職種別で見ると、最も平均年収が高かったのは「マーケティング」(466万円)、次いで「MD・バイヤー」(462万円)、「営業・店舗開発」(460万円)だった。
事業・ブランドのさらなる成長に寄与する「マーケティング」、ブランド全体を数値面から統括する「MD(マーチャンダイザー)」、売上を作るための施策の立案から実行に携わる「営業」は、いずれも事業を成長、拡大させていくために重要なポジションであるため、以前からほかの職種よりも高年収となっており、2023年においても変わらずこの傾向が続いている。
一方で、「マーケティング」は唯一前年比で年収が下がった職種となった。「マーケティング」はアパレル業界を問わずニーズが高い職種であることから、業界をまたいだ転職がしやすくなっている。特に経験や知見を持つ人材は、より良い条件で働くことを求めて、アパレル業界を離れる選択をする人も多いことから、経験・知見を持つ高年収帯の登録者が減少し、平均年収がマイナスとなった要因だと同社は推察している。
年収が最も上がった「パタンナー」は市況回復で内製化が進み、待遇改善
2023年は新ブランド立ち上げやリブランディングにともなう採用ニーズが増え、「デザイナー」や「パタンナー」、「MD」といった企画系職種の採用市場も活況だった。
そのなかでも「パタンナー」は昨年比+42万円と増加幅が最も大きくなっている。これは、コロナ禍に海外工場へのパターン作製依頼など外注に切り替えていた企業が、市況の回復にともなって、内製に戻すための待遇改善をおこなうケースが増えていることが背景に挙げられている。
「店長」「販売」の年収は微増 ベテラン層を中心に年収の引き上げが顕著に
新規出店や増床、代行店から直営店への切り替えにともなう増員など、アパレル・ファッション業界のなかでも採用市場が特に盛り上がったのが、店舗運営の要となる「店長」「販売」だった。
2022年以降、採用活動が活発におこなわれたことで人員が充足した企業も多くある。そのため、2023年は次のフェーズとして、新たに採用したメンバーの育成・マネジメントを担う店長職や、育成を担える経験豊富な人材の採用強化をおこなう企業が増え、その結果、「店長」「販売」ともに35~39歳の年収が大幅に上昇。これによって、全体が引き上がったといえる。
年齢別
上流工程や育成・マネジメントポジションへの注力を背景に、ベテラン層ほど平均年収がアップ
年齢別で平均年収を見てみると、35~39歳がもっとも前年を上回る結果となった。
「MD」などのブランド運営に関わるポジションでは、事業の好不調がダイレクトに年収に反映されるため、これらのポジションに就くことの多い、35~39歳の年齢層で特に年収がアップしている。
これに加えて、コロナ禍から復調するなかで、人材不足を補うための採用フェーズが終わり、2023年以降は事業を攻めに転じるための人材育成やマネジメントに注力するべく、待遇を見直す企業が増えている。そのため、リーダー・育成・マネジメントに携わる人が多い、ベテラン層への待遇の見直しも年収がアップした一因と考えられる。
<年間賞与>満額支給のケースが増え、25~39歳の年間の平均支給額は60万円
2023年 年齢別 平均年間賞与
年間賞与額は、平均年収と同様前年を上回り、60万円となった。また、年齢別でみると25~29歳が51万円、30~34歳が69万円、35~39歳が65万円となり、賞与は金額、増加幅ともに30~34歳が最も高い結果となった。2023年になり、ようやく業績が回復し、賞与を満額支給、もしくは増額する企業が増えていることが、全体的に金額が引き上がった要因だといえる。
また、賞与額は企業業績だけでなく、個人の業績でも大きく額が変わる。今回の調査では、平均すると給与(月収)の2.0ヵ月分の支給額だったが、個人の実績が売上に直結しやすい「MD・バイヤー」「営業・店舗管理」や、適切な物流に貢献した「生産管理」で、給与の4ヵ月分以上の賞与支給となった人の割合が前年を上回っている。
なお同調査は、正社員・契約社員・業務委託など、すべての雇用形態の登録者が対象となっている。近年、アパレル業界では、ライフスタイルに合わせた働き方を選択しやすくなっていることから、2023年と2022年のデータを比較すると、25~29歳・34~39歳において、正社員の割合が低下。雇用形態は賞与額に大きく影響することから、正社員率の変化が少なかった30~34歳の年齢層で、前年からの上昇額が最も高い結果となった。