矢野経済研究所は、国内のERPパッケージライセンス市場を調査し、参入企業・ユーザー企業の動向、将来展望を明らかにした。
市場概況
2022年のERPパッケージライセンス市場は、エンドユーザー渡し価格ベースで1,406億4,000万円、前年比10.9%増となった。
2021年はコロナ禍によるマイナスの影響が軽微となったことに加えて、先送りされた案件の多くが順当にスタートし、2020年の買い控え分が積み重なったことが市場を押し上げ、2021年の同市場は前年比9.3%増の1,268億6,000万円に。2022年は、2021年の伸び率をさらに上回る成長を遂げた。
2022年の主な成長要因
- ビジネス環境の変化や好調な企業収益などから、DXの取り組みが戦略フェーズから実践フェーズに移り始めた。
- 企業のIT投資への意欲が高まっており、レガシーシステムのリプレイスや、DXの一環としての経営基盤への投資といった従来からのニーズが継続した。
- 中堅以下の企業を中心に、インボイス制度や電子帳簿保存法の改正に向けた対応への需要が急拡大した。
- 大手企業を中心に、これまで自社開発(オンプレミス)が中心であった生産管理システムなどについて、パッケージなどの導入が進み始めた。
- ERPの複数モジュール採用による案件の大型化が進む。また、クラウドERPを利用する企業も増加を続けている。
注目トピック
DXに関連したERP投資が続く
かつてはコスト削減が主目的であったIT投資も、近年は戦略的な投資であるという理解がユーザー企業において進んでいる。
2020年9月には経済産業省から「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書」(人材版伊藤レポート)が発表され、人的資本を企業の源泉と位置づけ、経営戦略の下で人的資本の価値を引き出す施策の必要性が説かれた。これにともない、人材戦略を経営戦略に紐づけようとする動きも出たが、人的資本の状況把握やデータ化に課題があることを認識した企業も多かった。
経営基盤(ヒト・モノ・カネ)を効率的に管理するためには、経営基盤を一元管理し、有効活用する方法(データドリブン経営)が有用といえる。ここ数年、ERP市場が堅調に推移している背景には、リプレイスであっても、単なるレガシーシステムのリプレイスではなく、経営基盤を再構築するためのリプレイス(攻めのDX/攻めのIT投資)が進んでいるという実態があると考える。
この動きは大企業に留まるものではなく、中堅中小企業においても、きっかけが保守切れにともなうシステムのリプレイスであっても、検討・導入を進める際にはDXを意識する中堅中小企業が増加。ERPのリプレイスというだけでは、経済産業省が2018年に指摘した「2025年の崖」問題が言うところのDXとは乖離があるが、戦略的な投資としてであればDXに関連したERP投資は確実に進んでいるといえる。
将来展望
2023年も案件大型化の流れが継続していること、またインボイス制度への対応が10月まで続くとみられることなどから、市場の伸び率は2022年を上回り、2023年のERPパッケージ市場は前年比11.5%増の1,568億1,000万円になると予測。
その理由としては、ユーザー企業のIT投資に対する意欲が引き続き旺盛であること、また「2025年の崖」問題や急速なビジネス環境の変化に対応すべく、クラウドERPの導入が増加することなどが挙げられる。
一方、今後市場の成長を鈍化させる要因になり得るのは、世界各地の戦争・紛争の激化や、極端な気象変動関連の事象、インフレ率上昇や物価高騰、さらなる円安など為替変動などの影響による、経済状況の悪化である。しかし、足元の弱含みの景況下においても、IT投資が堅調であることがうかがえることから、2023年は2ケタ増を見込む。
調査概要
- 調査期間:2023年6月~9月
- 調査対象:ERPパッケージベンダー
- 調査方法:同専門研究員による直接面談(オンライン含む)、ならびに文献調査併用