矢野経済研究所は、国内のPOSターミナル市場の調査を実施し、リテールソリューション動向やPOSシステム関連事業者の戦略、市場の将来展望を明らかにした。
POSターミナル市場とは
POS(Point Of Sales system)とは、販売時点売上管理システムともいわれ、物品販売の売上実績を単品で管理し集計するシステム。POSシステムは、サーバやPOSターミナル(端末)、POSソフトウェア、そのほか周辺機器から構成される。
同調査におけるPOSターミナル市場は、POSターミナル(端末)の市場規模をメーカー出荷(台数、金額)ベースで算出した。ただし、クラウド上のPOSソフトウェアを市販のタブレット(端末)で利用するサービス、タブレットPOSは対象としていない。
市場概況
国内のPOSターミナル市場は、2017年度以降大手コンビニエンスストアチェーンの機器リプレースが続き、需要が大幅に拡大。また、2019年度も消費増税に加えて軽減税率の導入、クレジットカードのEMV(ICチップ搭載クレジットカード統一規格)対応など、ユーザー企業側で対応すべき事項が多く、平常時と比べてPOSターミナル需要が拡大した。そうした需要拡大の反動減に加え、新型コロナウイルス感染拡大による経済活動の一時的な低迷もあり、2020年度のPOSターミナル市場規模は、メーカー出荷ベースで10万761台、399億4,800万円と近年になく低水準にとどまった。
2021年度は出荷台数がさらに前年度を割り込む結果となり、同市場規模は9万3,918台、400億2,800万円となった。要因としては、将来需要の先食いのほか、コロナ禍での景気の先行き不透明感によるIT投資の手控え、飲食業を始めとした業績不振などが考えられる。さらに、POS専用機を代替するタブレットPOS市場の拡大、レジレス店舗の増加、食品宅配などデリバリーシステムの社会的普及なども市場縮小要因になっていると推測する。
注目トピック
無人店舗、店舗の省人化・レジレス店舗の動向
「Amazon GO(アマゾンゴー)」を契機として注目されるようになった無人店舗だが、実際に無人化に取り組んだ中国のベンチャーは大きく事業を縮小している。近年では、完全な店舗の無人化は現実的ではなく、無人というより省人化、あるいはレジレス店舗(Grab&Goなど)という表現が正しいと思われるケースが多く見られる。
現在、無人決済システム参入企業のうち、実際に店舗で本格稼働しているのはTOUCH TO GO社のシステムのみであり、多くのITベンダーのシステムは本格導入の段階には至っていない。実証実験として、以前は複数の店舗において稼働していたが、現在はその多くが終了している。
その大きな原因としては、それらのソリューションが注目を浴びた時期の直後に発生した新型コロナウイルス感染拡大の影響によるものである。コロナ禍で在宅勤務が増加し、都心部の人流が減少したことで、無人決済システムが設置されていた実証実験店舖など、ターゲットとしていた店舗自体が業績不振になったことが大きい。特に、都心のマイクロマーケット(オフィスや病院などの極小商圏)向けとして設置された売店やコンビニエンスストアなどでは、ビジネスマンや入院・外来患者の激減が大きく影響した。
一方で、来店客数が減少した従来展開店舗の経営効率化のため、店舗スタッフの省人化ソリューションを開発し、当該市場に参入したのがテルウェル東日本のケースである。人の代わりにシステムを導入することで、店員を減らしても通常営業ができるメリットがあるとしている。
将来展望
POSターミナル市場は徐々に回復し、2022年度の同市場は11万5,473台、481億5,300万円(前年度比123.0%、同120.3%)まで増加する見込みである。2024年度頃からは、2017年度以降導入したユーザー企業のリプレースが始まる見込みで、市場は急回復すると予測。また、入替時にはPOSターミナルのセルフ化が進展し、システム単価アップが見込まれ、台数を上回る金額ベースの成長が期待される。しかし、一方ではハードウェアメーカー間の競争がさらに激しくなるとみられ、システム単価は期待されるほど上昇しない可能性も考えられる。
調査概要
- 調査期間:2022年7月~10月
- 調査対象:POSシステム関連事業者(POSターミナルメーカー、POSソフトウェアベン ダ、タブレットPOSベンダー)など
- 調査方法:同社専門研究員による直接面談(オンライン含む)、電話・e-mailによるヒアリング、ならびに文献調査併用