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2024年8月27日(火)10:00~19:15

今さら聞けないEC知識

ECファッション市場の拡大狙う「ZOZOSUIT」と「ZOZOMAT」とは?


 ZOZOTOWNを運営する株式会社ZOZOは、ZOZOSUIT(旧型)の後継となる3D計測ツール「ZOZOSUIT2」(現行型)および足の計測に特化した3D計測ツール「ZOZOMAT」を、この数年に相次いで発表している。旧型の課題を経て改善された現行型の特徴や技術的進化、それぞれの予約件数や計測者数、最新トピックスなどを見てみよう。

ZOZOSUIT2の現在と旧型から進化した計測技術

 ZOZOSUIT2の発表は旧型が発表されてから約3年後、ZOZOMATは旧型から約1年半後という時系列になっている。アメコミヒーローのボディスーツを彷彿とさせる旧型(初代)から、ドットマーカーが印象的な旧型(改良型)を経て、現行型へと変遷を遂げた。

ZOZOSUIT2の現在地

ZOZOSUITとZOZOSUIT2

 2017年11月に発表された旧型ZOZOSUITは、ZOZOTOWNにおけるZOZOプラベートブランドの販売促進ツールとして開発されたものだ。ボディスーツを着用し、ZOZOTOWNアプリをインストールしたスマートフォンで360度撮影をすることにより体型を3D計測。ユーザーのサイズに合うものを提案するという仕組みになっている。

 EC購入時に大きな課題となるサイズの不安を払拭するツールとして、その発想やデザインの斬新さが反響を呼び、初日から申し込みが殺到。2018年5月に予約数100万件を突破したことが話題となった。生産が追いつかないことから、途中でデザインに改良が加えられた(改良型)という経緯もある。

 それに対して2020年10月に発表されたZOZOSUIT2は、「1年以内に消費者に提供できるように準備する計画」(ZOZO広報)とされている。すぐにユーザーに配布しない方針には、ZOZOSUIT2で収集したデータを用い、新しいサービスを創出するための共同開発に重点を置くことが関係している。

 2021年7月、アルティーリ千葉、千葉大学の3者で、スポーツ選手のパフォーマンス向上のために共同プロジェクトを開始したことは記憶に新しい。アルティーリ千葉は、千葉県千葉市に本拠地を置くプロバスケットボールチームで、千葉大学は医工学の観点から選手の体型測定に協力する。

スポーツ選手のパフォーマンス向上のために共同プロジェクトイメージ

 旧型が発表されてから現在にいたるまで、何度もTwitterのトレンド入りを果たすなど、ZOZOSUITが注目を集めていることに間違いはない。その理由は、斬新な発想やキャッチーなデザインだけではなく、もっとも重要となる計測技術の進化にあるといっていいだろう。

大幅に改善された3D計測技術

 ZOZOSUIT2は3D計測技術を用いたボディスーツだ。撮影に欠かせないZOZOTOWNアプリとセットになるサービスだが、改善はその両面からなされた。旧型から現行型への移行で、大きく変わったのは次の3点だ。

  • マーカー数が50倍に増加
  • マーカーのデザイン変更により認識精度が向上
  • 3Dモデルを補正するアルゴリズムの大幅改善

 マーカー数は約400個から約2万個に。50倍になったことで曲線が滑らかになるなど、より詳細な体型情報を計測することが可能になった。ドットマーカーのデザインは2mmから6mmへと変更され、認識精度が向上。撮影中の動きを補正する技術やドットマーカーで計測した情報から3Dを生成するアルゴリズムも大幅に改善された。

ドットマーカーのデザインは2mmから6mmへ

 一連の改善により、一般的な3Dレーザースキャナーとの平均計測誤差が3.7mmという精度の高さを実現している。ZOZOSUITは旧型から改良型、現行型(ZOZOSUIT2)へと変貌を遂げる中で、その性能を大幅に向上させたといえる。

自宅で靴選びを楽しめるZOZOMATの技術

 ZOZOTOWN内の靴専門モール「ZOZOSHOES」での販売を促進するためには、「商品のサイズ感がわからない」「試着できない」というマッチングの課題を克服する必要があった。そこでZOZOSUITでの知見をもとに開発されたのが、足の3D計測ツールZOZOMATというわけだ。

ZOZOMAT

 ドットマーカーが施されたマットの上に片足を乗せ、スマートフォンで360度から撮影することにより、ミリ単位で3Dデータを生成する。所要時間は数分程度とされている。

 ZOZOSUITと同様に着用する靴下型ではなくマット型が採用されたのは、サイズによって着用できるユーザーが限られてしまうという反省を活かしたからこそ。計測できるのは、通常、足のサイズを確認する際に使われる足の長さ(かかとからつま先までの大きさ)に加えて、足の幅やかかと幅、甲の高さ、足ふまずの長さなど7項目。

 ZOZOMATで計測した3Dデータと靴のサイズデータとをマッチングさせることで、ユーザーが満足できる靴を提案するのが狙い。サイズ感に満足できる確率を相性度とし、100%を最高とする数値で表す。相性度の高いものは緑、低いものは赤、その中間のものは黄色で信号のように表現される。

 先行予約の受付が開始された時点では、アプリの詳細やZOZOTOWNで使えるかなどサービスの全体像がまだ検討中だった。それでも公開に踏み切ったのは、足の3D計測技術がほかのシューズ関連事業者との新ビジネスを生むかもしれないと考えたからだ。

 2019年6月に先行予約開始が発表され、初日で20万件を超えた。2020年3月には予約注文件数が100万件を突破。発送を開始した同年2月から、3ヶ月間で100万人が計測するにいたった。6月には、計測したデータから日本全国の男女の平均足型や男女別の平均サイズを割り出し、公開している。

手指の3Dサイズ計測「ZOZOMAT for Hands」をブルガリ ジャパンが導入

 ブルガリ ジャパンが、手指の3Dサイズ計測用の「ZOZOMAT for Hands(ゾゾマットフォーハンズ)」を2021年11月9日(火)より導入すると発表した(参考記事)。

 「ZOZOMAT for Hands」は、マットに手をのせ、手の周囲をスマートフォンのカメラで撮影することで、マット全体に施されたドットマーカーを読み取り、手指の3Dサイズが計測できる。足の3D計測用マット「ZOZOMAT」の計測技術を応用し、手指計測用にアルゴリズムを組んだものだ。

  具体的には、「ZOZOMAT for Hands」に記載された二次元コードをスマートフォンで読み取り、遷移先の計測用ページから、音声案内に従い撮影を進めるだけで、計測した3Dデータと併せて、自身の手指に合う指輪のサイズが表示される。ZOZOグループ独自の開発による新技術を搭載しており、これまで個人で計測することが難しかった手指のサイズを、自宅にいながら簡単に、かつ高精度に計測することが可能に。「ZOZOMAT for Hands」は指輪の他、計測した手指の3Dサイズデータをもとに、ブレスレット、その他服飾雑貨のサイズ選びに役立てることも可能とする技術である。

 「BVLGARI」のオンラインショップでは、ユーザーにより安心して買い物を楽しんでもらえるよう、パーソナライズ商品を除く全商品を対象に返品・交換を30日間無償で行なっている。かねてより、自身のサイズに合わせた指輪を見つけてもらうため、リングサイズガイドのぺージを設け、指のサイズの測りかたをつたえてきたが、より一層安心して指輪を買い求めてもらえるよう、「ZOZOMAT for Hands」の導入を決定したとのこと。事前の計測により自身の手指のサイズを把握してもらうことで、店舗への来店時もよりリラックスし、快適なショッピングエクスペリエンスを提供することができるとの期待も寄せている。

 ZOZOMATが足の計測用のイメージが強かったこと、またBVLGARIというハイブランドが導入したことからも注目を浴びた。緻密な計測が求められる商品ジャンルでの、テクノロジーの導入を後押しすることになる事例だろう。

アプリによる3D計測テクノロジーが切り拓くEC市場

 旧型ZOZOSUITが発表されたのは2017年11月。2019年6月のZOZOMATを経て、ZOZOSUIT2が発表されたのは2020年10月。この間、3Dデータは計測され続けている。今後はさらに、ビッグデータとしての価値が増すと予測される。

  改善され精度を上げていく3D計測デバイスと蓄積していく3D計測データに注目をしているのは、目新しいものが好きなメディアばかりではない。ファッションに留まらない新たな体型計測デバイスとして、関連業界や他業界からも注目を集めている。

  アンダーウェア、スポーツウェアなどの開発やサイズ提案をはじめとして、体型の維持管理が必要になるフィットネスやヘルスケア、体型情報から読み解く予防医学などだ。ゲームアプリやエンタメなど異業種との掛け合わせから、まったく新しいサービスに活用される可能性も十分にある。

  ZOZOは、ZOZOSUIT2およびZOZOMATの3D計測テクノロジーを用いて、今までにない革新的なサービスを模索するパートナー企業を募集中だ。先のアルティーリ千葉および千葉大学との共同プロジェクトが発表されたのは2021年7月で、これがはじめての事例となる。

  自社で開発した新たな3D計測デバイスをZOZOがこれまでどのように展開してきたかを見ると、そのテクノロジーを公開して革新的なサービスを創出したいという一貫した意図を読み取ることができる。これからも登場してくるであろうパートナー企業を含めて、ZOZOSUIT2やZOZOMATの今後の展開に注目したい。

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