小さく始めて検証を積み重ねる 少額の予算で動画広告の成果を可視化
株式会社オーリーズは運用型広告専用の代理店で、動画広告においてはグーグル、Kaizen Platform、オーリーズの3社協業でクライアントの支援を行っている企業だ。肥田氏は社内でYouTubeやFacebook、LINEを中心とした動画広告の責任者を務めているほか、クリエイティブディレクションの体系化や動画広告の効果測定の整備を行っている。
動画広告と聞くと、多くの人がTVCMのような数千万、数億円と多大な広告費を活用して広く人々に認知を促し、全体的な売上促進を図る「認知獲得施策」を思い浮かべるかもしれない。しかし「YouTube広告では、数十万円で獲得に近い層にのみ効率的に接触する方法、つまりスモールマスのマーケティングファネルに対して小さく始める手法もある」と、肥田氏は語る。
最初に肥田氏は、小さく始めるべき理由について「効果検証の難しさ」と「予算の大きさ」を理由に挙げた。 多くの企業は、動画広告に認知度向上や指名検索数の増加などを期待するが、これらの効果検証には多くの予算が必要となる。また、予算を投下すれば明らかな数字として効果が見えるかというと、必ずしもそうとは言えないのが実情だ。
「たとえ、MMM(Marketing Mix Modeling)分析など高度な分析を行ったとしても、売上や認知度の貢献性にはあいまいな部分が残ってしまい、『動画広告の効果はあったのか』と言われてしまう。このような広告効果に対する疑問は支援現場で多く耳にする課題です」(肥田氏)
加えて、YouTube広告の特徴として多くの広告主が初めて動画広告に取り組むチャネルであることも見逃せない点だと肥田氏は言う。「多くの広告主はリスティング広告やディスプレイ広告など今までCPAやROIといったビジネス目標に直結する数字で広告の評価を行っていたケースがほとんど。そのため、YouTube広告でいきなり認知などの間接貢献を指標にしましょうと提案しても、それらを受け入れるのはハードルが高く、実施に二の足を踏んでしまう」と続ける。
そこでリスティング広告やディスプレイ広告のようにスモールスタートで動画広告を開始する方法がないかと考え、獲得目的でCPA評価を行う小さく始める施策を実践。「CPAで動画を評価することは、動画広告の数ある効果の中から見ると限定的な指標のみを追うことになり、価値として低いのではないかと疑問に思う方も多いと思うが、実際に開始すると不思議なことにその点は解消される」と肥田氏は説明する。
「最初にCPAだけを指標にした獲得目的で始めても、自然と『動画視聴の効果はどうだろう』『検索にどれくらい貢献しているのだろう』と、さまざまなことが気になってきます。これらは動画広告を開始したことで、動画広告がイメージのつかないものから少しずつ実感のあるわかるものになった結果だと考えています」(肥田氏)
実際にやってみて数字として表れないとわからないことが多いため、まずは獲得施策で有効なことを示していく。獲得施策で有効であることがわかったならば、次は配信拡張を行いもう少し新規のユーザーを増やした結果のデータを集めにいく。このように仮説検証で明らかにした数字を拠りどころにして、本来動画広告で果たしたい認知や検索ボリュームの増加などへ少しずつつなげていく。これが肥田氏の小さく始める動画広告の提案だ。
CPAを左右する 運用で気をつけるべき3つのポイントとは
では、獲得目的でYouTube広告を開始して、適正なCPAで獲得するにはどうしたら良いのだろうか。肥田氏は、よく耳にする課題を次のように紹介した。
これらの課題は、抽象化すると大きく3つの課題にまとめることができる。
- 運用ベストプラクティス
- クリエイティブ
- 効果検証
上記のポイントを押さえれば、YouTube広告においてCPA改善を図ることができると言う。
まずは「運用ベストプラクティス」について、肥田氏は金融系企業がYouTube広告でCPA改善を実現した事例を紹介した。同事例は、クリエイティブなどに変更を加えず、YouTube運用のベストプラクティスを踏襲しているか否かで、どのようにCPAが変化するかを示したものである。設定踏襲前に7万円近いCPAは、踏襲後には約1万6,000円にまで改善、最終的には1万2,000円ほどまで改善が進んだ事例となっている。
「クリエイティブ以外を改善してもCPA改善につながりづらいと考える人も多く、見落としがちなポイントですが、運用のベストプラクティスは成果を左右する重要な要素になります。そして、運用のベストプラクティスで重要なのは『配信フォーマット』『入札戦略』『ターゲティング』の3つです」(肥田氏)
ひとつめの配信フォーマットについては「CV獲得目的の場合、『TrueViewアクション』を選択すべき」と説明した。広告の最適化対象は配信フォーマットによって異なるが、TrueViewアクションはCVしやすいユーザーに最適化して配信することができるためだ。
ふたつめの入札戦略では、TrueViewアクションの場合「tCPA(目標CV単価)入札」と「CV数最大化入札」のふたつが存在するが、機械学習の観点から後者がおすすめだと説明した。
「機械学習に必要かつ最適なボリュームは、1週間に35件以上のCVと言われています。入札戦略においても、この条件を満たせるようにフォーマットを選ばなくてはなりません。
CV数最大化入札は、その名の通りCV数の最大化を目的に配信が進むため、tCPA入札よりもCV数が増えるケースが多いです。そのため、初速においては機械学習を安定化させることを最優先に、CV数最大化入札で開始すると良いでしょう。tCPA入札への切り替えは、1週間あたり35件以上のCVを2週間以上継続して獲得できた際に検討するのがおすすめです」(肥田氏)
1週間あたり35件のCVを獲得する予算確保すら難しい場合は、「フォーム到達やサイト流入のクリック数といったマイクロCVも含めて必要なデータ量を担保すると良い」と肥田氏は続ける。このほかにも、入札戦略の重要点として機械学習の学習期間について言及。「学習には2週間程度必要なため、初速はCPAが高くなる可能性があるが、その間は大きな変更を加えないことを意識してほしい」と伝えた。
3つめのターゲティングでは、CV獲得目的の場合は「リマーケティング」と「カスタムインテント」から始めることをすすめると説明した。とくに後者は、過去7日以内に特定の語句を実際に検索したユーザーに広告配信が可能となっており、新規ユーザーへの配信ながら効率的に獲得ができるターゲティングとなっている。
最後に肥田氏は、カスタムインテントの注意点とともに、改めてベストプラクティスの踏襲が重要なことを次のように説いた。
「カスタムインテントでは300~500のキーワード数、もしくは月間100万imp以上が推奨値ですが、この値を下回って設定しているアカウントを多く見てきました。推奨値を下回るとCPAに悪影響を及ぼすため、ぜひ配信時には推奨値が満たされているか確認してみてください。
YouTube広告でもリスティングやディスプレイ広告同様に媒体が推奨する設定が数多く存在します。それらを踏襲するだけでも、先述した事例のように大きくCPAを下げることができますので、ぜひ1つひとつの設定を見直してみてください」(肥田氏)
発見する・磨く・カタチにする クリエイティブを改善する3つのフロー
ふたつめの課題の「クリエイティブ」について、肥田氏は解説を進める。クリエイティブのフローは、アイディアを「発見」「磨く」「カタチにする」の3つに分けることが可能だ。
ひとつめの「発見」について、肥田氏は「どういう動画を作れば良いのか、どういった内容を訴求すべきかわからないと相談を受けることが多い」と続ける。こうした相談に対しては、「顧客インタビューや独自のアンケート調査といった一次情報を基に、『顧客に選ばれる理由』や『顧客のどのような課題を解決しているのか』を発見することが大切」と補足した上で、化粧品総合通販サイトのインタビュー内容例を示した。
「こうした形でインタビュー内容を考え、お客様から1対1で話を聞いた上でどのような課題があるのか明らかにしています」(肥田氏)
アイディアを発見した後には、それが本当に良いものか定量的に検証し「磨く」必要がある。CV獲得目的の場合は配信結果のCPAで判断できるため、「テストしない」という判断でも問題ないが、磨き込みを行う場合は統計調査(クリエイティブテスト)やリスティング広告でのABテストが用いられると肥田氏は説明した。
「カタチにする」フローでは、運用のベストプラクティス同様にクリエイティブでもベストプラクティスを踏襲する必要があると肥田氏は説明した。
「たとえばモバイル環境でのユーザーは、情報の取捨選択を最速で1.7秒程度で行っていると言われています。そのため、冒頭の数秒で注意喚起を行える動画か否かが、獲得効率にも大きく影響を与えます」(肥田氏)
それでは、実際に制作を行う上でどのような点を気にすれば、モバイル環境で最適な動画制作が可能なのだろうか。肥田氏は、「媒体社や制作会社の豊富な知見を利用するのが良い」と語った上でこのように続ける。
「当社が一緒に取り組みを行っているグーグルの『ABCDフレームワーク』や、Kaizen Platformの『成果を出す5つのポイント』を参考にすることで、CPAは劇的に変わってきます。自社の情報だけでやりきるのは困難ですので、有益な公開情報を積極活用することをおすすめします」(肥田氏)
ビュースルーCVやオフラインの行動も含めて効果検証 評価が変わるきっかけに
最後は効果検証についてだ。「獲得目的で始めた場合はラストクリックCPAが重要な要素となるが、可能な限り多くの効果検証方法で広告効果を明らかにすることが重要である」と肥田氏は語る。具体的に見るべき効果は次の3つに分けることができる。
- 直接効果(ラストクリックCPA)
- アシスト効果(クロスネットワークレポート/CVリフト)
- 間接効果(サーチリフト/ブランドリフト)
まず直接効果だが、TrueViewのCVには、「クリックCV」「エンゲージメントCV」「ビュースルーCV」の3種類が存在する。この中でビュースルーCVはデフォルトのCVに含まれていないため、評価項目から見落とされがちだと肥田氏は説明し、このように続けた。
「デフォルトではCV列に表示されないビュースルーCVも、YouTube広告の効果を見る際は含めた上で評価を行うと良いでしょう。ラストクリックCPAでは効果がないと判断された場合も、ビュースルーCVまで含めると評価が逆転するケースもあります」(肥田氏)
さらに肥田氏は、発展的な手法としてオフラインCVも含めた評価の重要性をこのように伝えた。
「YouTube広告は、ラストクリックCPAだけで見ると継続が難しいといった側面もたしかに存在します。その場合は、ウェブCV後の情報を加味してみると良いでしょう。たとえば会員登録などのウェブCV地点のCPAだけでなく、その後の予約、来店などを加味してあげることです。動画に触れたユーザーは歩留まりが高いことが多いため、『意外とYouTubeも効果がある』と施策の判断が変わる可能性もあります」(肥田氏)
アシスト効果や間接効果についても、「クロスネットワークレポート」や「ブランドリフト調査」という手段を活用すれば測ることが可能だ。各広告媒体が用意するレポートや調査を活用して広告の価値を可視化し、「小さく始めたものを大きく育てていく動きが重要」だと肥田氏は説明した。
最後に肥田氏は、「先行きが不透明かつ将来の予測が困難なVUCAの時代では、小さな仮説検証を繰り返し、大きな課題解決につなげるアジャイル思考が重要だと考えています。今回お話した『YouTube広告を小さく始める方法』も、リスクを少なく開始し、最後にはビジネス目標の達成につながるよう考えられたものです。ご参加いただいた皆さんにも、これを機にYouTube広告に挑戦してもらえたら幸いです」と語り、セッションを締めくくった。