コロナ禍のスマートフォンアプリ事情 顧客と関係を築く方法とは
ノーコードでスマートフォンアプリ開発を実現し、運用・分析までをワンストップで提供するアプリプラットフォーム「Yappli」を運営するヤプリ。2013年4月に設立し、2020年12月には東証マザーズに上場。企業・ブランドのデジタルシフトを積極的に推進している。
Yappliで開発されたスマートフォンアプリは、運用からデータ分析、更新までのすべてのフローを管理画面上で実施可能、PDCAが回しやすい点に大きな特徴がある。コーディングの技術や専門知識がないマーケターなどでも開発・運用ができ、テクノロジーの力を最大限に活用できるのが強みだ。
Yappliプラットフォームが提供するソリューションは、大きく分けてふたつ存在している。ひとつめは、企業・ブランドが自社ECアプリや実店舗のポイントシステムなど、BtoC向けサービス構築の術として活用する「Yappli for Marketing」。ふたつめは、近年高まるBtoBやBtoE(Business to Employee)向けアプリを開発できる「Yappli for Company」だ。同ソリューションは、セキュアな状態で情報共有を行う社内向けアプリなど、さまざまな目的で活用されていると言う。双方合わせて現在450社以上の導入実績を誇り、その業種業態も多岐にわたる。
こうしたスマートフォンアプリ制作のニーズが高まる背景には、スマートフォン自体の急速な普及・浸透は当然ながら、人々のアプリ利用の増加も挙げることができる。ニールセン デジタルが2019年に実施した調査によると、日本人のスマートフォン経由でのオンライン滞在時間のうち約92%がアプリ利用によるものであり、ウェブサイト利用はわずか8%に過ぎない。島袋氏はこの結果を受け、「アプリは何かに特化した機能を提供するものであり、インターネットにおいて高い影響力を有する。自社の顧客とスマートフォンアプリを介して時間共用ができていなければ、機会を失いかねない」と語る。
島袋氏は、続いてコロナ禍における実際のアプリ利用動向について解説を行った。MMD研究所の2019年の調査によると、もっともよく利用するアプリのトップはTwitterやFacebookなどの「SNS」で28.7%、次いでYouTubeなどの「動画」(26.3%)、Messengerなど「コミュニケーション」(25.8%)と続く。ところが、Criteoが2020年9月に発表した「コロナ禍におけるアプリユーザー動向調査レポート」を見ると、コロナ禍で利用が増加したカテゴリーとして「小売ショッピング」、「ゲーム」、「ニュース」などが挙げられている。中でも、小売ショッピングと回答したユーザーの3人にひとりが「アプリ利用が増えた」と回答しており、顧客接点としてのスマートフォンアプリ活用の重要性を裏づける結果となった。
スマートフォンアプリを用いて顧客と企業・ブランドが距離を縮めるには、滞在時間を長くし、エンゲージメントを高くすることが必須となる。島袋氏は、留意すべき点をこのように説明した。
「単にスマートフォンアプリというメディアを作るのではなく、そこでの優れた顧客体験提供が必要となります。ロイヤリティプログラムやインセンティブの提供など、顧客が喜ぶ施策を行うことでより効果的に距離を縮めることが可能です」(島袋氏)
さらに島袋氏は、顧客とのコミュニケーションの段階について解説。新規顧客とウェブの検索や広告などから接点を持ち、ファンとなった人々とSNSなどを介してコミュニケーションを取り、さらには自社アプリをダウンロードして活用してもらう。顧客とゆるやかにつながりつつも、ブランドとの親和性を高め、購買までの道筋や受け皿を設けつつ関係性を深くするには、自社アプリ活用が有効というわけだ。
「パレートの法則では、ロイヤリティが高い2割の顧客が8割の売上を作ると言われています。ロイヤリティを高める施策として、スマートフォンアプリはたいへん有効です。ぜひともスマートフォンアプリを使い、顧客とのコミュニケーションの場を用意することをお勧めします」(島袋氏)
スマートフォンアプリが効果的である理由は主に3つ存在する。ひとつめは、スマートフォンの画面内にアイコンが表示され、ワンタップでブランドのコンテンツにアクセスできることで接触頻度向上を実現できること。ふたつめは、UXの工夫により快適な操作性を提供することで、たびたび立ち上げたくなる心地良い体験を提供できること。そして島袋氏がとくに重要だと語る3つめは、リアルタイム性である。プッシュ通知が可能になることにより、オンタイムで顧客とのコミュニケーションを叶えることができるスマートフォンアプリ。これらの特徴は、ほかのチャネルと比べても大きな強みと言えよう。
CVR20%アップ、売上30%アップも 購買につながるアプリ活用事例
続いては、吉留氏がYappli導入企業のスマートフォンアプリ活用法を紹介した。ひとつめは、マキシムが運営するレディースアパレルブランド「神戸レタス」の事例だ。同ブランドはECメインで展開しているが、Yappli導入以前はメルマガ開封率の減少やアプリ開発におけるスクラッチ開発が難航しているといった課題を抱えていた。コンテンツ更新をより迅速に行うべく、Yappliを用いたリプレースを決めたと言う。
若い女性が主な顧客である同ブランドは、絵文字をふんだんに用いたり、思わず開きたくなる寸止めの文言を多用したりと、プッシュ通知の活用に工夫を凝らしている。コンテンツ更新頻度を高める策としては、ウェブサイトの更新情報をスマートフォンアプリに反映できる「WebView機能」を活用。同機能を用いることで、ウェブサイトとスマートフォンアプリ双方の強化が実現可能となる。
同ブランドは、コロナ禍においてより多くの顧客と密度高くつながるため、Instagramのライブ配信を連日実施。ストック型のコンテンツとしてYouTubeを活用した動画配信も行うなど、スマートフォンアプリ施策に限らず複合的なコミュニケーションを行ってきた。その結果、コロナ禍のCVRを20%以上アップさせることに成功したと言う。島袋氏は、「SNSなどで密なコミュニケーションを図りつつ、アプリで購買の受け皿をしっかりと用意していたことで、機会損失なく売上につなげることができた」と解説した。
ふたつめの事例として、吉留氏はアメリカ発のスポーツ用品メーカー「アンダーアーマー」を紹介。同社は日本各地に実店舗を展開しつつ、オンライン上での顧客とのコミュニケーションはメルマガを中心に行っていたと言う。
新たなタッチポイントとして、Yappliを活用したスマートフォンアプリ開発を行った同社は、アプリ内で顧客の興味関心に合わせたプッシュ通知やコンテンツの出し分けを実施。既存の顧客データを活用し、購買履歴に基づいたセグメント配信や男女別のトップ画面表示のみならず、セールの案内や購買間隔が空いた顧客への新作紹介など、1to1での情報発信を実現している。
こうしたきめ細やかなコミュニケーションを実施した結果、同社のECサイトの売上はスマートフォンアプリ導入後に30%アップ。ロイヤリティ高い顧客へ届いていることの裏づけとして、アプリ経由でのECサイトへの流入数はウェブやSNSの9倍、メルマガと比較した購入回数は約120%、顧客単価は約145%もの差がついている。結果を受け、同社は実店舗での商品購入時にスマートフォンアプリの画面を見せることで商品を割引する施策を実施。購入のたびに利用可能な特典を付与することで、利益率を下げることなくさらなる成果を得ることに成功していると言う。
「同社はスマートフォンアプリを活用し、ブランドの世界観としてのUI/UX、パーソナライズされた情報、良質なコンテンツといった価値の付与を行うことでロイヤリティを高めています。こうした取り組みが結果的に『顧客単価×頻度』の上昇につながるのです。取り組みを始めるのは、今からでも遅くありません。ぜひいち早くトライしていただければと思います」(島袋氏)
月額型で安定した運用を クラウド型開発のメリットを考える
スマートフォンアプリ開発の手法としては、大きくふたつに分けることができる。ひとつは、オーダーメイドでゼロから制作を行う「スクラッチ型」、もうひとつは「クラウド型(SaaS型)」で既存機能を選択して制作する方法だ。前者は作りたいものを確実に実現することが可能だが、制作に半年から1年ほどの時間を要する。また、機能更新時に都度費用と時間が生じるという懸念も存在している。一方、クラウド型は追加できる機能に一定の制限はあるものの、1ヵ月から3ヵ月という短期間で開発・リリースすることができ、費用も月額型のため予算組みを行いやすいという利点がある。
Yappliはクラウド型に該当し、約40種類の機能から選択する形で短期間の開発を実現している。また、月額費用にOSのアップデート費用を含むため、導入後の機能改定の負担を抑えることも可能だ。
「とくにOSのアップデートは開発側にとって対応の負担が大きく、スクラッチ型で外注している場合は大きな追加費用が発生します。クラウド型は予算計画を立てやすく、安定運用も実現できるため非常にメリットが大きいです」(島袋氏)
ここで、改めてYappliがモバイル戦略を成功に導くアプリプラットフォームであることを強調すべく、吉留氏は直近の具体的な機能追加例を紹介した。
吉留氏がまず紹介したのは、スマートフォンのネイティブページを用いて、商品一覧ページを高速に表示する「ECコネクト」という機能だ。ECサイトの商品データベースをAPI連携するだけで活用ができ、新たなシステム構築などは不要となっている。商品表示をスムーズにすることで顧客のストレスを低減し、離脱を防ぐ効果がある。ファニチャーや雑貨を扱うダルトンが導入しているほか、「アパレルなど多くの商品を扱う企業からの引き合いが多い」と吉留氏は補足した。
ふたつめに紹介したのは、バニッシュ・スタンダードが提供する「STAFF START」との連携機能である。同サービスの投稿をスマートフォンアプリ内へ自動反映させることで、WebViewを用いた表示よりも快適な閲覧環境を実現。実店舗スタッフのコーディネート経由で購入につながった場合は、該当スタッフの販売実績としてカウントされ、効果の可視化もできるようになっている。アパレルブランド「ROSE BUD」が導入しているほか、「コスメを扱う企業などとも相性が良い」と島袋氏は語った。
続いて紹介したのは、顧客が行ったカテゴリー選択に対応した通知やビジュアル表示を行う「パーソナライズ」機能だ。顧客に課す操作はワンタップとシンプルながらも、最適なコンテンツ表示を行える点が大きな魅力となっている。また、自社データベースと連携することで、お気に入り商品の再入荷や完売間近の商品通知、値下げのお知らせなど、リッチできめ細やかなパーソナライズが実現できる。
島袋氏は、最後に「当社はスマートフォンアプリ専業のスタートアップ企業であり、450社以上の開発・サポート実績を持っています。業種業界を問わず開発に携わり、リリース後もカスタマーサクセス部門のスタッフが運用まで含め、包括的にフォローしていますので、顧客とのコミュニケーションに課題をお持ちの方はぜひご相談ください」と伝え、セッションを締めくくった。