企業と個を繋ぐコミュニケーション
続いては、キリンホールディングス・平山高敏氏と顧客時間・風間公太氏が登壇。事前に寄せられた質問をランチェスター・田代健太郎氏がふたりに投げかける形で、トークセッションを展開した。
まず、「消費者の心をつかむために必要なことは?」という質問に対し、平山氏は「企業が自ら出向いて行って顧客と接点を持ち、消費者とひとくくりにせず、1人ひとりの顧客とつながり続けること」と回答。たとえば、キリンの「一番搾り」のファンだったとしても、掘り下げてみれば、大前提としてビールそのものの大ファンであり、その中で一番搾りを選んでいる人が多いといったことがわかったりする。調査データや数年前に設定したペルソナを鵜呑みにせず、ウェブならではの新しいコミュニケーションをしていくことが重要だと述べた。
風間氏は、「顧客同士が語りあう場を持ってくれることが理想的だが、顧客の能動的な行動に期待しているだけではそれは起こらない」と回答。前の講演にあった「チャネルシフト」を受け、コミュニケーションの場もデジタルへとチャネルシフトしていること。それにより、個々の顧客と接点が持ちやすくなっている背景から、企業側から情報発信を地道に続け、良好な関係を築いていくことが重要だと述べた。
次に、アプリ内で行うべきコミュニケーションについて。風間氏は前の講演でも示された、顧客時間のフレーム「選択」「購入」「使用」を紹介。顧客接点として長く、深いのが「使用」であり、そこに寄り添うコミュニケーションを行うべきだとした。アプリの強みは、個人を特定できるプラットフォームであり、情報の出し分けができるようになった点である。カスタマーサポートに寄せられた顧客の声などを参考に、主要ないくつかの商品を軸としてシナリオを作り、CRMを行った経験を披露した。
平山氏は、アプリは大別すると「ニュースや音楽のように毎日使うもの」「SNSのようにコミュニケーションを行うもの」、そして「自分にとってのメリットを享受できるもの」の3つに分けられるとし、プラットフォームを目指さない事業会社が、後者のふたつをいかに実現するかを考えるべきだとした。
最後に、これから目指すべき企業と消費者のコミュニケーションについて。風間氏は、「社内のコミュニケーションの重要性」を挙げた。オン/オフ両方を持つ企業では、SNSで商品を知ってリアル店舗に行くなど、ユーザーのオムニチャネルな行動が起きているが、それに企業が対応できているとは限らないと言う。デジタルの部署だけで完結せず、個々のチャネルの最適化でも完結しない。企業全体としてどうコミュニケーションするかを考えている企業が、エンゲージメントを深められるだろうと述べた。
平山氏は、「マーケティングが消費者に近づき、コミュニケーションがマーケティングの主軸になっている」と言う。結果として「ユーザーと企業が遊べる場、ファンミーティングのように、コミュニケーションが可視化される場が必要になる」そうだ。その上で、たとえば同じ回数購入しているリピーターだからといって同じコミュニケーションが響くとは限らないように顧客は千差万別であるとし、シナリオ設計は泥臭くやることが必要だと述べ、セッションを締めくくった。
アプリ導入企業による事例紹介
ランチェスターが提供するモバイルアプリプラットフォーム「EAP(Engagement Application Platform)」の最初の導入企業である、パタゴニア日本支社 Eコマースディレクター 平田健夫氏が登壇。EAPを用いたアプリ導入の経緯から今後の展望までを語った。
「タッチポイントを統合するような、チャネルをまたいだハブ的なものを作りたいというコンセプトがあり、アプリを開発することにしました。アプリを選択した理由は、スマートフォンをお持ちの方が多く、思いついた時にパタゴニアとの接点を持てる場であると考えたからです。一番やりたかったのは、カスタマーとの絆を深めること。ロイヤルカスタマーは、実店舗、EC、取扱店と、さまざま接点を持ってくださっています。そういうタッチポイントの多いカスタマーに、アプリで利便性を提供できればと考えました。
また、パタゴニアは『故郷である地球を救うためにビジネスを行う』をミッションに掲げています。地球環境について考えていただく機会を増やしていただきたい、そのためには、カスタマーが常に接点を持つスマートフォンに、アプリがあることが重要だと考えたのです。アプリで何を目指すのかを社内に浸透させるため、長い時間をかけて丁寧に進めていきました。
導入して一番良かった点は、アクティブユーザーが多いことです。とくにプロモーションなどは行わず、自然発生的にダウンロードしていただいているのですが、その結果、現在26万人がダウンロードし、マンスリーで30%の方が月に一度以上アクションを起こしてくださっています。また、実店舗で購入してくださる方の25%がアプリを提示してくださっているので、そこからアフターフォローなどがよりやりやすくなっています。
今後は、イベントにもアプリを活用したり、修理の手続きを簡略化したり、ご近所の実店舗とECに在庫がない場合には取扱店の在庫も表示するなど、さらに利便性を高めていきたいです。さらに、コミュニティをしっかりと作り、環境団体とつなげたり、アウトドアスポーツとつなげたりといったことも行っていきたいと考えています」
そのほか、EAPのユーザーである株式会社シーボン 金井圭子氏、株式会社テクストトレーディングカンパニー 岡山暢祐氏、アニヴェルセル株式会社 矢部令児氏が登壇し、それぞれ導入の経緯から今後の展望までを語り、来場者からの質問に答えた。