中国最大手ECサイトのインフラから世界規模のクラウドベンダーへ
中国EC市場で圧倒的なシェアを誇るアリババグループ。BtoBマーケットプレイスの「アリババドットコム」やBtoCショッピングモール「天猫(Tmall)」、CtoCマーケットプレイス「タオバオ」のほか、電子決済サービスの「Alipay」でも知られ、さらには物流、デジタルメディアまで、幅広い事業を展開している。
こうしたさまざまなサービスを支えるITインフラ基盤を担うのが「Alibaba Cloud」だ。自社グループの強固なインフラであると同時に、外部にもパブリッククラウドサービスとして提供しており、2016年には東京リージョンを開設。ソフトバンクとのジョイントベンチャーであるSBクラウドを通じて日本市場でのサービス提供を開始した。
Alibaba Cloudの性能や信頼性を担保するのは、やはり「アリババを支えるインフラであること」だろう。中国では11月11日が「独身の日」と呼ばれ、毎年アリババをはじめとしたECサイトが大規模なセールを行う商戦日となる。SBクラウドの下牧氏は、2017年の独身の日におけるAlibaba Cloudの実績を紹介した。
「当日のアリババの総売上高は約2.9兆円。これは日本の大手ECサイトの『年間売上』に匹敵する数字です。また、1日の総注文数は約8億件、ピーク時の決済処理数は1秒間に約25.6万件に及びました。これだけの処理に耐えうるシステムを提供しているのがAlibaba Cloudであり、パブリッククラウドとしてインフラ技術が詰め込まれているということです」
中国国内のクラウド市場におけるAlibaba Cloudのシェアは圧倒的で、50%近くを占める。グローバルにおいても、2017年のシェアはトップ5(統計によっては4位)に入っており、Amazon、Microsoft、Googleのビッグスリーに続くポジションのクラウドベンダーへと成長しているという。
「他の上位ベンダーに比べてAlibaba Cloudはグローバル展開を始めてから日が浅く、成長途上です。その分、今後の伸び代も大きいと言えるでしょう」(下牧氏)
アリババが推進するニューリテール戦略とは
Alibaba Cloudを含むアリババグループ全体で推進しているのが、「ニューリテール」戦略だ。ニューリテールとは、2016年に開催されたCloud Computing Conferenceでアリババ創業者のジャック・マーが提唱したコンセプト。その鍵となるのは「オンラインとオフラインの融合」、「消費者体験の向上」、そして「データドリブン(データ主導)」であることだ。
リテールビジネスのボトルネックは、オンラインとオフラインそれぞれに存在する。たとえば、ECサイトでは実際の商品を手に取って試すことができない。一方、実店舗は店舗そのものや人件費などのコストの負荷が大きく、ニーズの的確な把握や商品の安定供給もオンラインに比べて難しい。
「テクノロジーを駆使してこれらの課題を解決し、オンラインとオフラインの双方で補完し合い、より優れた消費者体験を提供する。それが、アリババが目指すニューリテールの世界です」(下牧氏)
ニューリテールを具現化した次世代型店舗も登場
すでに中国では、ニューリテールのコンセプトを取り入れた店舗も登場している。そのひとつが、アリババグループが展開するスーパーマーケット「ファーマーシェンシャン」だ。
同店ではすべての商品にQRコードで認証できるE-Tagが付いており、スマートフォンで読み取って商品の価格や情報を見られるほか、そのままECサイトで注文することも可能。店内を巡回するスタッフはオンラインの注文を確認して商品をピックアップし、配送にまわす。店舗から3km圏内のエリアなら、注文から30分以内に商品が届くという。
このシステムにより、顧客は店頭で商品を選んで購入し、そのまま手ぶらで帰宅して自宅で商品を受け取ることができる。もちろん、従来のネットスーパーの買い物として店舗に行かずに自宅から注文してもよい。
下牧氏はさらにニューリテールの別の事例として、アリババが自社主催イベントを開催した際に実験店舗として出展した無人店舗「Tao-Cafe」を挙げた。
「Tao-Cafe入店時に顧客は入口でTaobaoアプリをスキャンしますが、これにより信用度の判定まで行っています。決済は商品を持って店舗から出るとAlipayで自動的に処理される仕組みで、商品購入のためにレジに並ぶ必要がありません。また、購入した商品などの情報は自動認識・蓄積され、次回のレコメンドに活用されることになります」(下牧氏)
ほかにも、併設されたカフェでは顔認識の技術によってミラーに映ったユーザーの顔の上にそれぞれの注文進捗を表示するなど、新たな消費者体験の提供も実現しているという。
情報分析基盤としてAlibaba Cloudを活用する
Alibaba Cloudは、こうしたニューリテールを支えるさまざまなテクノロジーを提供している。とはいえ、Alibaba Cloudを使えばすぐにニューリテールを実現できるわけではなく、下牧氏は「大きく3つのステップが必要」だと指摘する。
「まず最初のステップは、現在持っているデータの活用です。今ある情報を分析・活用することで何が足りないのか、また、オンライン側にとってはオフライン、オフライン側にとってはオンラインで、どのような情報が必要なのかが把握できます。その次のステップとしてオンラインとオフライン双方のデータの活用に取り組み、その先に見えてくるのがニューリテールです」
この最初のステップである「現在持っているデータの活用」において、Alibaba Cloudは強力な情報分析基盤として活用できるという。すでに日本でも、IaaS(サーバーやストレージ)としての機能だけでなく、データ分析関連のプロダクトが多数提供されている。たとえば、大規模データ分散処理プラットフォームの「MaxCompute」やビッグデータ用プラットフォーム「DataWorks」、分析結果をアウトプットとして活用するツールとしてデータ可視化の「DataV」、予測レコメンドの「Recommendation Engine」などがある。
実際に、自社データベースの売上、顧客、商品などの各種データをAlibaba Cloudのリレーショナルデータベース(RDS)やオブジェクトストレージ(OSS)に保存し、DataVによる可視化およびMaxComputeによる分析処理を行っている日本企業の事例もある。下牧氏によれば、そのような情報分析基盤を月額15万円ほど(※データ量や構成により異なる)で利用できるという。
自社ECサイトに独自の画像検索エンジンを簡単に追加できる
データ分析以外にも、Alibaba Cloudは多様なソリューションを用意。直近で提供開始を予定しているのが、画像検索サービスの「イメージサーチ」だ。
これはタオバオにも実装されている機能で、検索ウィンドウのカメラアイコンをタップし、ユーザー(消費者)が気になったモノを撮影して検索すると、撮影画像と同じ商品や近い商品、関連商品を結果として返すようになっている。画像とキーワードを組み合わせた商品検索なども可能だ。商品マスタの画像データさえあれば、同様の画像検索エンジンを自社ECサイトにも簡単に追加できるようになる。
ほかにも、画像の中にどのような要素が含まれているのか自動認識したり、不適切な画像を認識して自動的にぼやかすことができる「Image Recognition」という機能を夏から秋にかけて提供予定だという。
なお、「中国のクラウドサービス」という点で、データの扱いなどに関してネガティブなイメージを持つ人もいるかもしれない。しかし、冒頭でも触れたように、Alibaba Cloudはグローバルに展開するクラウドサービスであり、世界基準の厳しいコンプライアンスニーズにも対応している。信頼性や安全性の面においても、もはや他のグローバルなクラウドベンダー同等と考えてよいだろう。
「日本のユーザーのデータは日本国内のデータセンターに格納され、もちろん日本の法律に準拠して保護されます。SBクラウドによるサポートも含め、安心して利用できるグローバルレベルのクラウドサービスとして、ぜひご検討ください」と下牧氏は最後に語り、セッションを締めくくった。