日本のECにおいて、いまもっとも盛り上がりを見せるのは、ファッションではないか。個別のブランドはオムニチャネル化に積極的に投資しており、ショッピングモールも独自の施策でそれぞれの地位を築いている。
こうした状況下で、2008年からEC事業を開始したクルーズ社が運営するファストファッションEC「SHOPLIST」が順調に成長を続けている。2015年3月期は年間売上高97億円と、100億円の大台にはわずかに足りなかったが、2016年には145億円を突破。2017年は190億円と年50億円規模で拡大中だ。ファストファッションを代表するブランドのひとつ「FOREVER21」は、日本初のモール出店先として、SHOPLISTを選んでいる。
強豪並み居るファッションECというレッドオーシャンにおいて、ファストファッションに特化したSHOPLISTがどう戦いを挑んでいるのか。クルーズの取締役にして、SHOPLIST事業を管掌する張本貴雄さんに話を聞いた。
ゲームからECへ着実に 流通高を積むSHOPLISTに注力
日々、新しいニュースを提供してくれるSHOPLISTだが、2016年10月に発表された「高成長のSHOPLISTへ事業構造転換経営資源の集中のため、不確実性の高いゲーム事業を譲渡」という方針の発表は、業界に激震が走った。
ゲーム事業とは、ソーシャルゲーム、ネイティブゲーム事業のこと。クルーズでは、2010年からDeNAのMobageにソーシャルゲームを配信。有名IPを使用したゲームやオリジナルタイトル含め、ヒットを連発し、瞬く間にTOPソーシャルゲームプロバイダーの一角を担う存在となった。
インターネットゲームは、社会にさまざまな議論を提起したが、その収益性の高さはDeNAやGREEの急成長、そして低迷していたと言われるミクシィが『モンスターストライク』という大ヒットタイトルによって一気に業績が回復したことなどから、「ひとつ当たれば大きい」ことはよく知られている。一方のECは小売業、ひとつモノを売っていくらの利益を積み重ねるビジネスだ。床面積が無限だなどと言われるが、倉庫を抱え、梱包し、配送するコストはばかにならない。効率よく稼ぎたい人には向かないビジネスだという愚痴も、直接EC事業者から聞くくらいだ。
こうした背景から、クルーズの「ゲームからECへ」を編集部では驚きとともに受け止めたわけだが、張本さんはその理由をこう語る。
「ゲーム事業は、時代の流れに乗って成長していきましたが、参入障壁が低いため競合が増えてきました。リリースされるゲームの数が増えるため、必然的にヒット率が下がってくる。また開発コストが上がり、10年前は数千万円で作れていたものが、直近だと数億円かかるようになってきている。それだけの事前投資をして、ヒットが出なかったら……というのは、リスクが高いビジネスです。一方ECは、利益率は低いですが、着実に一歩ずつ伸ばしていけるし、来月の売上が急に下がるということもない。そういった理由からの当社社長の経営判断です」
こうしてゲーム事業を譲渡した後、2017年3月期のクルーズとしての売上は、過去最高の285億円に。利益率は下がったものの、営業利益率4.9%を維持している。また、ゲーム事業はまったくゼロにするわけではなく、「一球入魂」のタイトルをリリースしていく予定とのことだ。