サプライチェーンが顧客満足度を左右する?
サプライチェーンの最適化が、後回しになっている企業もいるのではないでしょうか。しかし、企業の競争力強化と持続可能な成長には欠かせない要素です。NRF 2025では、AIとデジタル技術を活用したサプライチェーンの回復力が主要テーマの一つとして議論されました。
米・ホームセンターチェーンが導入する「Physical AI」とは?
米国でホームセンターを展開するLowe's Home Improvementが活用しているのが、NVIDIAの「Physical AI」です。AIはオンライン上でのデータ処理に優れています。一方で、Physical AIは現実世界の物理的な法則や環境を学習・理解し、自律的に行動する点が特徴です。
この技術により、Lowe's Home Improvementは倉庫や物流センターのオペレーションを仮想空間でシミュレーションできる仕組みを構築しました。最適な在庫配置や倉庫内の動線の改善を実現。在庫回転率の向上と物流コストの削減につなげているのです。

Walmartは需要予測に注力 在庫管理コストを削減
Walmartは、AIを活用した需要予測モデルを導入し、リアルタイムでの在庫調整を可能にしました。予測精度の向上により、大幅な在庫管理コストの削減が行われているといいます。また、自律型配送システムなどにより、配送遅延の削減や業務効率化にも成功しています。こうしたスピーディーかつ正確な供給体制は、結果的に顧客満足度にも良い影響を与えるでしょう。

いきすぎた自動化は快適ではない? AI活用に慎重なブランドも
顧客対応の質は、売上や顧客のエンゲージメントを大きく左右します。しかし、問い合わせの増加・人件費の高騰により、コールセンターや有人のチャット対応だけでは、十分なカスタマーサポートを提供するのが困難となりつつあります。そんな中、AIによってカスタマーサポートを自動化する事例が増えてきました。
実店舗の接客をオンラインでも AIが買い物のパートナーに
Walmartは、AIを搭載したショッピングアシスタント機能を導入。自社ECサイトやモバイルアプリでも実店舗のような接客体験を提供する取り組みを進めています。オンライン上でもパートナーとして商品選びをサポート。顧客体験の向上とともに問い合わせ対応の効率化も実現しました。
米Targetは店舗スタッフのサポートにAIを活用
米国のディスカウントストアチェーン・Targetは「Store Companion」というチャットボットを店舗スタッフ向けに導入しました。顧客が実店舗で商品に関する質問をしても、その場で回答できないケースも少なくありません。そうした場面でも、Store Companionで必要な情報をすぐに検索できます。
「COACH」など展開のTapestryも従業員サポートに着目
「COACH」「Kate spade」「Stuart Weitzman」などを展開するTapestryは、Amazon Web Services(AWS)とともに、従業員の意見を収集し次の施策に生かす「Tell Rexy」「Ask Rexy」という二つのアプリを開発しました。定性的なデータを分析し、顧客対応の質を向上しています。AIが直接的に顧客対応を行うのではなく、あくまでも従業員をサポートするツールと位置付けられている点が特徴です。

このように、AIを通じた顧客対応は急速に進化しています。一方で、その適用範囲には慎重な検討が必要との指摘があるのも事実です。
たとえば「Hermès」は、AIへの顧客対応の一任に慎重な姿勢を示しています。顧客との関係構築が重要な価値であり、機械的な対応がブランド体験を損なう可能性があると考えているからです。
同様にセッション「North American Grocery Retail Trends for 2025」でも、テクノロジーによる自動化が進みすぎると、かえって顧客が快適に感じなくなる可能性が話題に上がりました。これからの小売に求められるのは、AIによる業務効率化と人間味のある体験提供の両立だといえるでしょう。