ブランドの世界観を壊さず購買につなげる ECサイトの構築事例
「Editions.dev」では、革新的なアプリやECサイトを表彰する「2024年 Shopify Build Awards」も発表されました。その中で取り上げたいのが、米国の「Post Familiar Wine」のECサイトです。
同サイトの特徴は、ワイナリーの魅力を表現しているデザインです。遊び心あふれるアニメーションと、ワインの製造プロセスに関する詳細な説明が盛り込まれています。これにより、単なる商品紹介にとどまらず、ブランドストーリーや価値観を効果的に伝える仕組みとなっているのです。
「Post Familiar Wine」が実践しているようなアプローチは、日本のEC事業者にとっても参考になるのではないでしょうか。ECサイトのビジュアルを活用して商品の特徴や魅力を伝えることで、顧客の購買意欲を刺激できます。日本酒や伝統工芸品など、文化的な背景が重要な商品を扱う場合、特に効果的だといえるでしょう。
また、ベトナムの「O:Request a Quote」というアプリも「2024年 Shopify Build Awards」を受賞しています。取引の価格交渉や見積もり作成という複雑なプロセスを、簡素化・自動化する同アプリ。中小およびBtoB事業者の業務効率化につながります(2024年10月時点で日本語には対応していません)。
そのほか、ポーランドのCommerce-UIが構築に携わった「Nour Hammour」のECサイトは、高級感のあるデザインと利便性を両立している点が特徴的です。ミニマルなデザインを基調としながら、顧客の購買体験を向上する機能を取り入れています。
キュレーションされたルックブックがその一例です。洗練されたプレゼンテーションを実現しつつ、顧客が商品を探しやすい環境を整えています。また、ユーザーが途中で離脱した場合のために「前回の続きから始める」機能も実装しています。これは実店舗の接客のような、きめ細やかなサービスをオンラインで再現する試みといえるでしょう。高級ブランドのECサイトで常に課題となる「ブランドの世界観を壊さずに、いかに購買につなげるか」という問いへの一つの解答を示しています。
Shopify創業者が描く「統合」されたECビジネスとは
Shopifyの創業者・トビアス・リュトケ氏、EC向けマーケティング自動化プラットフォームを提供するKlaviyoのCEO・アンドリュー・ベレツキー氏による対談も、非常に興味深い内容でした。
対談を通じて浮かび上がってきたのは、Shopifyが掲げる「Unified(統合)」というビジョンです。これは単なるテクノロジーの統合ではなく、顧客体験、ビジネスプロセス、そして企業文化までをも包括的に統合する考え方を指します。
まず、シームレスな購買体験を求める市場の変化に対しては、オンラインとオフラインのプラットフォームを統合して対応。消費者がどのチャネルを利用しても一貫した体験を得られるよう、販売チャネルを横断的に管理できるシステムの構築に注力しています。
高度なパーソナライゼーションの要求には、顧客データベースの統一を進めています。購買・閲覧履歴、顧客属性などのデータを一元管理し、AIを活用した高度な分析と予測を可能にすることで、より精緻な顧客対応を実現しようとしているのです。
また、越境ECの一般化に対応するため、Shopifyは言語、通貨、物流、法規制対応を統合的に管理できるシステムの提供に力を入れています。これにより、中小事業者でも容易にグローバル展開できる環境を整え、EC市場のさらなる国際化を促進する考えです。
そして、多様化するビジネスモデルに対しても、サブスクリプションやD2Cなど、様々な収益モデルを統合的に管理できるツールの開発を進めています。
トビアス・リュトケ氏がイベント内で語った「We are trying to do a little better(少しずつより良くしようとしている)」という哲学は、この「Unified」戦略の根幹です。大きな変革を一気に起こすのではなく、継続的な改善と革新を通じて、着実にEC市場の未来を形作ろうとしているのでしょう。
複雑化するEC市場において、複数の要素を統合的に管理し、シンプルでありながら柔軟な対応ができる体制を整えることが、今後の成功の鍵となるはずです。このレポートでお伝えした情報が、皆様のビジネスの成長を後押しし、新たな可能性を切り拓くきっかけとなれば幸いです。