中小メーカーが海外市場でネットワークを構築する方法
日吉屋がフランス、アメリカ、シンガポールの3ヵ国に焦点を当てる理由は、富裕層向けインテリア市場へのアプローチがしやすいからだという。
「当社の価格設定は、ほとんどが安くても1万円以上、インテリア関連商品は3万円以上です。そのため、主にインテリアにこだわりをもつ富裕層に向けて販売しています」
フランスでは、大手ラグジュアリーブランドが軒を連ねるパリにショールームを構える。西堀氏は「現地に拠点をもつことで、歴史あるブランドとのコミュニケーションが取りやすい」と話す。一方、アメリカでは世界の工芸品を取り扱う定期イベントが各地で行われる。そのため、日吉屋は現地のイベントに出店するなど、海外顧客が直接商品を手に取れる機会の創出に積極的だ。
「アメリカのサンタフェで毎年行われる『International Folk Art Market』には、現地の富裕層が多く参加します。当社が出店したところ、これまで経験したことがないほど速いスピードで京和傘が完売しました。アメリカでは、商品の第一印象が非常に重要です。個性があるものが評価される傾向にあるため、日本独特のデザインをもつ京和傘への反応が良いのだと思います」
また、シンガポールは富裕層の移住先として選ばれるケースが珍しくない。その上、同国の経済再生委員会は、2003年に経済発展における重要な要素として「クリエイティブ産業」を挙げており、日吉屋のようなデザイン性の高いインテリア雑貨を取り扱う企業との相性が良いといえるだろう。
「シンガポールはアジアの『デザイン・ハブ』となりつつある国です。以前から、高級住宅やホテルなどを対象にした建築・インテリアデザインの設計事務所をはじめ、大口の顧客もいます。アジア圏の他国の富裕層にアプローチしやすい立地も、魅力の一つです」
こうした海外の情報を収集するには、現地でのネットワークが必要だ。西堀氏は、繰り返し展示会に参加する中で、「関係性の築き方を学んだ」と語る。
「海外の場合は、企業ではなく、担当者個人との関係作りが重視されます。展示会で会話したバイヤーと個人的に連絡を取り合い、直接会って深くコミュニケーションを取るのがポイントです。日本の取引先の担当者と比較すると、頻繁に転職する人も多いため、良いバイヤーこそ個人的な関係を構築しています」
現地に足を運びながら、日吉屋は自社の個性を生かせる市場でポジションを確立してきた。さらに海外ファンを創出するために、西堀氏は「今後は伝えることに注力する」と意気込む。
「たとえば、フランスでは商品作りに『物語性や明確な意図』が求められます。ブランドストーリーや自分たちが何者なのかを語れないと相手にされません。それは、越境ECでも同じです。クオリティの高い写真とテキスト、短い動画などで商品の魅力を語る必要があります。この部分は、AIに100%任せるのはまだ難しいでしょう。情報発信力を磨き込み、海外事業をより成長させたいです」