属性データだけではユーザーの求める情報が見えない
2011年にアメリカのニューヨークで創業したBrazeは、ユーザーの属性・行動・嗜好に合わせて、リアルタイムなアプローチを可能にするリアルタイムカスタマーエンゲージメントプラットフォーム「Braze」を提供している。2020年には日本法人を設立し、現在、80社以上の日本企業のマーケティング活動を支援しているという。
「『Braze』は、パーソナライゼーションに欠かせない三つの要素『マルチチャネル(複数の経路での情報提供)』『リアルタイム性(リアルタイムなアクション)』『連続性(定期的なレコメンド)』を備えています。ウェブサイトやアプリ、メール、SNS、外部広告といった各チャネルとの連携が可能です。ユーザーの趣味嗜好やライフスタイルに合った内容のプッシュ通知やアプリ内メッセージを、適切なタイミングで表示できます」(紺野氏)
そんな「Braze」を活用して、サイト内の顧客体験を改善している企業の一つがココナラだ。同社は、知識・スキル・経験をECサイトのように売り買いできるマッチング型プラットフォーム「ココナラ」を運営している。ロゴやウェブサイトの制作といった法人向けから、悩み相談のような個人向けまで、450以上もの幅広いカテゴリーを有する点が特徴だ。一方で、清水氏は「カテゴリーが多い分、多様なユーザーが集まるため、一人ひとりに合わせたコミュニケーションが難しい」と明かす。
「当サービスのユーザーは、ビジネスの専門人材を求める法人、カフェの運営を手伝ってくれる人を探す個人事業主、結婚式の動画の制作を依頼したい個人など多岐にわたります。法人か個人かによって予算や検討期間も異なりますし、継続的な依頼もあれば、単発の依頼もあります。そのため、ユーザーが求める情報も幅広いのです」(清水氏)
こうした課題を解決するため、ココナラが注力しているのがデータ分析だ。
「年齢や性別、職業、法人か個人かといった属性データと、サイト上でのユーザーの行動データを掛け合わせ、ニーズを探っています。たとえばユーザーが法人の場合は、その属性から『個人より予算が多い一方で、社内調整が必要なため購入までの検討期間が長いだろう』と推測可能です。加えて、同じ法人でも閲覧回数が多かったり、見積りを依頼したりしているなら、購入意欲が高いユーザーであると判断できるでしょう。様々な角度からユーザーの感情を読み取るのがポイントです」(清水氏)
2日かかる作業が約20分に なぜ工数を削減できたのか
ユーザー理解に注力するココナラだが、データから得た発見をどのように施策に落とし込んでいるのだろうか。紺野氏が質問を投げかけると、清水氏は次のように説明した。
「当社は“点と線の施策”を同時に行っています。線の施策は『未購入』『初心者』『レギュラー』『ロイヤル』のようにユーザーの段階を分け、それぞれに適したコミュニケーションを行う方法です。たとえば『未購入』段階のユーザーには、サイトの利用開始時点でつまずかないよう、基本的な使い方などの情報を提供します。加えて、閲覧回数の多さなどユーザーの行動に合わせたアクションも都度行うイメージです」(清水氏)
こうした戦略のもと、「Braze」を活用して可能となった施策が二つあるという。一つ目が「オンボーディングの最適化」だ。具体的には、属性から特定できるユーザー像に合わせてステップメールを設定する。
「新規登録者の行動データはまだ蓄積できていないため、初回登録時の属性情報に応じてニーズのありそうなスキルをレコメンドします。法人には、請求書の発行の可否や高いスキルをもつ出品者の探し方をメールで伝えるなど、『ビジネスで使えるサービスである』と認識してもらう工夫を施しています」(清水氏)
ここで清水氏は、実際のメール配信で活用しているクリエイティブにも言及した。「『Braze』の導入後、コンテンツ制作の業務が効率化された」と語る。
「テンプレートを活用することで、マーケターのみでも複数のメールコンテンツを制作できるようになりました。また、『Braze』とBIツールを連携すれば、セグメント単位でメール配信の効果をモニタリング可能です」(清水氏)
また、二つ目の施策が「新規サービスのサポートヒアリング」だ。ココナラでは、特定の条件から「迷っている」と判断したユーザーにポップアップを表示。サポートメンバーが、すぐにユーザーの疑問に答えられる体制を整えている。この仕組みの裏にも「Braze」の存在がある。
「これまで、ユーザーの画面に表示するポップアップの制作や内容変更には、コーディングが必要でした。そのため、小さな変更でもエンジニアに依頼しなければならず、施策の実行に時間を要していたのです。『Braze』では、必要な要素をドラッグ&ドロップでポップアップに反映できます。この機能によって、ポップアップの制作時間が大幅に削減されました。以前は実装に2日かかっていた作業が、今では約20分で完了します」(清水氏)
「チャネルを問わずあらゆるコンテンツが容易に制作できるよう、『Braze』は進化し続けています」(紺野氏)
困りごとはその場で解決 ユーザー満足度を上げる三つの強化ポイント
ココナラでは「Braze」の導入前、メールやプッシュ通知、ポップアップの表示を別々のシステムで運用していた。そのため、細かいセグメント分けやチャネルをまたいだシナリオ作成が難しい状態だったという。また、複数システムの活用によるランニングコストの増加、オペレーションの属人化といった様々な課題もあった。清水氏は「『Braze』導入後に負担が軽減された」と語る。
「一つのプラットフォームで各チャネルのアクションを管理できる点が、『Braze』の魅力です。同じデータに基づいて、適したチャネルとタイミングを選択できます」(清水氏)
こうした機能を活用し、ココナラは新たな取り組みにもチャレンジしている。清水氏は、ココナラが大切にする考え方と今後の展望を共有した。
「ユーザーの属性データと行動データにもとづいた施策の実行は重要ですが、特定の領域に施策が偏ることがあります。そうした状況を防ぐため、当社は『サービスから得られる利益(購入動機)を伝える』『ユーザーの疑問や不安を取り除く』『ユーザーの購入をキャンペーンやインセンティブ施策で後押しする』の3点のバランスを取るように心がけています」(清水氏)
ここでポイントとなるのが「ユーザーの疑問をその場で解消する」ことだ。サイトを離脱した1週間後にメールやプッシュ通知を送っても、ユーザーには響かないだろう。購入検討のタイミング何を買おうか迷っているユーザーに利用事例を提供する、予算の都合で購入をためらっていると推測できるユーザーに、すばやくクーポンを提供するといった“リアルタイム”なアクションが求められる。
「ウェブサイトの制作やアプリ開発のスキルを購入する場合、金額が高いためユーザーは慎重になるはずです。そんなときにも、すぐにサポートメンバーが相談に乗るなど、ユーザーがモヤモヤを何日も抱えずに済むサービスを提供したいですね」(清水氏)
「サイト改善の検討時には、レコメンドの仕組みやカート放棄の防止に焦点が当たりがちですが、ユーザーがまだ気づいていない機能を知らせるなど、基本的なコミュニケーションも非常に重要です」(紺野氏)
ユーザーの立場に立ったコミュニケーションを積み重ねながら、ココナラは「すべてがそろうサービスプラットフォーム」を目指す。
「今は、何か困ったことが発生すると、大手検索エンジンで解決策を探すのが当たり前の時代です。一方で、困りごとを解決してくれる”人”を探せるプラットフォームは、まだ多くはありません。ユーザーが大手検索エンジンと同じような感覚で、『ココナラで“人”を探そう』と思えるような存在になりたいです」(清水氏)
「今後も『Braze』を通じて、ココナラが総合型プラットフォームへとさらに進化できるよう支援します」(紺野氏)